明治維新を先導した長州藩の高杉晋作や伊藤博文、薩摩藩の西郷隆盛や大久保利通等々。
日本の近代が誇るとっても優秀な若者たちです。
江戸末期。
黒船の来航、欧米列強の植民地政策、幕府の機能不全といった混乱期。
壮大なビジョンを掲げて失敗を恐れず行動を続ける若者たちが大活躍して、近代国家の礎を築きます。
でも、彼ら、江戸中期の太平の世に生まれていたら、活躍できたでしょうか?
その奇想天外な発想や行動力は太平の世では無用の長物。
単なる厄介者として排除されていたことでしょう。
時代とともに”優秀な人材”の定義は変わるのです。
そして、企業の成長ステージにおいても”優秀な人材”の定義は変わります。
2種類の人材タイプ
スタートアップのときには、お勉強が多少できなくても失敗を恐れず直感で行動する”イノベーター人材”が活躍します。
少々荒っぽくても、杜撰でも、次々に行動することによってスタートアップは成功パターンを発見します。
一度、成功パターンを発見したら、このパターンを磨き上げることで企業は成長軌道に乗ります。
ここで重要となってくるのは、緻密な計画と実行です。直感よりも、論理と分析によってオペレーションを地道に磨き続ける”オペレーター人材”が優秀な人材として重用されます。
企業が安定的な成長軌道に乗ると、失敗を恐れず直感で行動する”イノベーター人材”は混乱要因として疎まれます。
残された道は二つ。論理と分析力を高めて”オペレーター人材”へと変わって行くか、ここを去るか。
ベンチャー企業が成長して中堅企業となっていく過程で、ほとんどの経営メンバーが入れ替わるのは、求められる”優秀な人材”の要件が変わるからです。
アップルを創業したスティーブ・ジョブズが追い出されたように、”イノベーター人材”の創業社長そのものが追い出されるケースも多いです。
やがて成熟期を迎えた企業は論理と分析に優れた”オペレーター人材”が経営の主要ポストを占めるようになります。
勤勉で計画が得意。一方で、失敗を恐れず行動し続けることが苦手。
論理と分析を行うことが成功への近道と信じている”オペレーター人材”は、”イノベーター人材”が取り組む新規事業に善意で次の質問を投げかけます。
「事業計画は?」
「開発期間は?」
「売上予測は?」
世界に前例のない新事業に取り組んでいるので”イノベーター人材”は、希望的観測で適当に回答するしかありません。
事業計画通りに進む新規事業はありません。やがて、実績は計画と乖離します。
すると”オペレーター人材”は”イノベーター人材”を善意で苦しめます。
「事業計画と乖離している理由は?」
「事業計画を修正して再提出してください!」
再び、実績と計画の乖離が生まれた時、”オペレーター人材”は”イノベーター人材”に決定的な言葉を浴びせかけます。
「君は嘘つきだ!」
”イノベーター人材”はこの責め苦に耐えられず、挑戦を諦めます。
このようにして、勤勉な”オペレーター人材”の善意によって、イノベーションの芽は摘み取られていきます。
”イノベーター人材”が勇気を持って語るべき真実は次の言葉です。
「世界初なので、やってみなければわかりません」
「やってみて、結果が出なかったら、別の方法でやってみます」
「それでもダメだったら、また別の方法でトライします」
「成功するまで諦めません」
”イノベーター人材”であり続けることはとても勇気がいることです。
企業に入社する希少な”イノベーター人材”のほとんどは長年かけて教育を施され、勤勉な”オペレーター人材”へと変異させられます。
永続する製品もサービスもありません。
企業を存続させるのは不断なイノベーションだけです。
”イノベーター人材”のいない組織は消滅します。
”イノベーター人材”を生むためには
成熟している組織は”オペレーター人材”優位で、失敗を恐れ、論理と分析が尊重されています。
直感に従い、失敗を恐れず行動する”イノベーター人材”の特性を時間を掛けて削ぎ落として行く風土があります。
企業は、”イノベーター人材”を無能化する自社の風土をしっかり理解して”イノベーター人材”を守り、育てる不断の努力をし続けなければなりません。
それでは、いったい何をすべきなのか?
答えは、教育です。
高杉晋作、伊藤博文、西郷隆盛、大久保利通等々、明治維新を起こした英傑たちのほとんどは長州藩と薩摩藩から輩出されています。
なぜか?
この両藩が長年にわたって人材教育を続けてきたからです。
長州藩、毛利家は天下分け目の関ヶ原の合戦に敗れ、山陰・山陽の100万石を超える大大名から、防長二カ国の36万石に減封されます。この日より、長州藩は、倒幕を国是とします。
その国是のために数百年に渡って人材教育を続けてきたのです。
国力増強と人材教育に努め、藩校である明倫館を創設します。
有力な家臣たちも郷校を設立し、軽率や庶民に対する教育に尽くしました。
高等教育を受けた人材の厚みが長州にはあり、幕末には明倫館出身の吉田松陰が主宰した松下村塾からは武士階級から軽率、庶民まで含めて多くの英傑を輩出することとなります。
弛みない人材教育への投資が、260年の時を超えて「倒幕」というビジョンの実現につながったのです。
薩摩藩、島津家も関ヶ原の合戦では敗れた西軍に参加していました。
島津家は上手に交渉して減封を免れましたが、幕府からいつ何時、難癖を付けられて、お家取り潰しや減封があるかもしれません。
薩摩藩は関ヶ原以降、常に臨戦態勢。危機感を持って、人材育成と国力増強に努めてきました。
数百年にわたる江戸の太平、成熟した社会の中で、ビジョンや危機感を持って人材教育を怠らなかった長州藩と薩摩藩があったことで国が救われました。
ビジョンや危機感を持って人材教育に努めることで、企業も救われます。
「日本には優秀な若者がたくさんいる」とか、
「日本の大企業には、まだまだ優秀な人材がいる」との言説を聞くことがありますが、果たして本当でしょうか?
求められる優秀な人材は時代とともに変わるのです。
日本の高度成長期のように、量的拡大が重要だった時代には、お勉強ができて、与えられた課題を勤勉に解く”オペレーター人材”が、”優秀な人材”として重宝されました。
今はどうでしょう?
VUCA
第四次産業革命
コロナ禍
混迷の時代です。
坂本龍馬や高杉晋作のように、壮大なビジョンを掲げて失敗を恐れず行動を続ける”イノベーター人材”を育てる必要があります。
株式会社ワークハピネスは人材育成研修・組織開発コンサルティングを通して
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公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。
現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。