イーロン・マスクから何を学べるのか?
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イーロン・マスクから何を学べるのか?

EVメーカー、テスラのCEOであるイーロン・マスクは史上最高にビジョナリーな経営者だと思います。

アップルの故スティーブ・ジョブズもビジョナリーな経営者として讃えられましたが、イーロン・マスクはその何倍も上を行っています。

スティーブ・ジョブズ氏が戦ってきたのはIBMやMicrosoftといったIT業界の巨人たちでしたがイーロン・マスクが戦っているのは地球環境と宇宙なのです。

大学で物理学と経済学の二つの学位を取得したマスクは自分の人生を次の3つに捧げる誓いを立てます。

1.インターネット

2.再生可能エネルギー

3.宇宙開発

まず、イーロン・マスクはインターネットで複数の会社を起業し、31歳でペイパルをイーベイに売却しては約1億8000万ドル(約250億円)の資金を得ます。するとすかさずその内の1億ドルをロケット開発のスペースXに、7,000万ドルをEVのテスラに、1,000万ドルを太陽光発電事業のソーラーシティーにつぎ込みます。

そして、スペースX社は「人類を火星に移住させる」というぶっ飛んだ目標を掲げます。

初めの一歩で必要なのがとにかくコストの安いロケット。

「ロケットの打ち上げコストを従来の100分の1にする」という大胆な目標を掲げ「打ち上げに使用したロケットを何度も再利用する」という常識はずれの構想に挑戦します。

スペースX社は創業からわずか6年後、3度の打ち上げ失敗にも挫けることなく4度目の正直で「ファルコン1」の打ち上げに成功します。

さらに「ファルコン1」の9倍の推進力を持つ「ファルコン9」、宇宙船「ドラゴン」を次々と開発。

「ドラゴン」は民間企業として初めて国際宇宙ステーションへのドッキングを成功させました。

創業からわずか10年で成し遂げた偉業です。

NASAの分析によるとスペースX社のファルコンロケットはNASAが作るロケットに比べてコストが約10分の1とのこと。

どこよりも安い宇宙への輸送手段ですからスペースX社へ大量の打ち上げ依頼が殺到しました。

スペースX社のロケットが安いのは約7割のパーツを内製しているからです。

それまでNASAが打ち上げるロケットは全てボーイングやロッキード・マーチンといった大企業を中心とする巨大なサプライチェーンで作っていました。

安全性を重視して全て専用設計の高品質な部品を膨大な数のサプライヤーに作らせ、それを人手で組み上げていく。コストよりも安全性重視なので値段も莫大になりがちです。

ところが、スペースX社では使えるものはありものの市販品を使い、大量の部品を組み上げなければならないエンジンなどは3Dプリンターなどを駆使して一体成形。宇宙船のコックピットのダッシュボードもボタンや計器類を排除してタッチパネル式。

部品の設計から組み立て、ソフトウェア開発までをシンプル化して自社内で完結させることでコストの大幅な削減に成功したのです。

2015年には「ロケットの打ち上げコストを100分の1」にするためロケットの再利用にも成功。

打ち上げたファルコン9の1段目ロケットを無事に洋上のドローン船に着陸させました。

イーロン・マスクがスペースX社でのロケット開発と同時に進めていたのが全世界の車をEVに変えるためのテスラでの活動です。

現在時点で年間100万台以上のEVを生産するテスラですが、その生産台数の伸びは凄まじく毎年倍増の勢いです。

これを可能とするのが従来の自動車メーカーとは異なるシンプルなモノづくり思想。

多くの自動車工場は背後に巨大なサプライヤー群を擁して、工場内で行われているのは組み立てだけ。

海外に新たに自動車の組み立て工場を作るためには同時に多くのサプライヤーを引き連れて行かなければなりません。

ところが、テスラの工場では多くの部品を内製します。

自動車のボディーは通常数百点のパーツから構成されているのですが、テスラではギガプレスと呼ばれる巨大なアルミ鋳造機械を使ってアンダーパネルを一体成形。さらにボンネットやドア等のパーツもアルミロール板からその場で打ち出し。組み立ても限りなくロボット化。サプライヤーと部品点数を極限まで減らして車づくりを徹底的にシンプルに高速化しています。

それゆえ、ギガファクトリーと呼ばれる巨大工場を世界中に高速で立ち上げられるのです。

また、自動車メーカーが販売台数を増やしたかったらまず取り組まなければならないのが販売ディーラー網の開拓です

この点でもテスラはネット直販なので迅速に販売を拡大できます。

実際に私の友人がテスラ車を購入するところを見たのですが、iPadで仕様を選んで購入ボタンを押すだけ。すると納車予定日が通知されます。

機能的な不具合や自動運転等の機能のアップデートはダウンロードによって行われるので、アフターサービスコストも僅少。

ロケット会社とEV会社を同時に経営して、常識やぶりな業績を上げているイーロン・マスクですが、さらに同時に複数のぶっ飛んだプロジェクトを走らせています。

まずは「ハイパーループ」と呼ばれる、真空状態のパイプの中にカプセルを浮かせて高速移動する新交通システム。理論値の速度は1,200キロでリニアモーターカーどころか飛行機よりも速いのです。理論値ならばサンフランシスコとロサンゼルス間をわずか30分で移動できます。

さらに、ロサンゼルスの交通渋滞に憤慨したイーロン・マスクは地下に40層のトンネルを掘って、車を走らせるのではなく車を台車に乗せて200kmで走らせる構想をぶち上げます。2016年にはトンネル採掘会社である「ボーリング・カンパニー」を立ち上げ、すでにラスベガスで短距離の実物を出現させています。

革新的なのは、トンネル径を、一般的なサイズの約半分の直径3.6mに統一することで採掘コストを劇的に下げる点です。

この地下トンネル構想にはロサンゼルス市議会も賛同しているとのことなので実現が楽しみです。

そしてBMI(Brain Machine Interface)。

脳とコンピューターをネット接続して通信するテクノロジーの開発です。イーロン・マスクは「10年以内に人間の脳とコンピューターが直接対話できるようにする」ことを目標として「ニューラリンク」という会社を立ち上げました。

2021年の4月には、BMIデバイスを直接脳に装着した猿が、コントローラーを使わず、思考しただけでゲームを操作する動画を公開しました。

人間で実現すれば、身体に障害を持った人でも健常者と同じようにコミュニケーションや創造活動ができるようになります。

さらに、思考しただけで画面を操作する速度を遥かに超えて絵画が描けたり、外科医が思考しただけで遠隔地の患者の手術ができたり、、、その活用場面は膨大に思い付きます。

最終的には、肉体が衰えても脳が生きていれば、無限に思考・創造活動を続けられる可能性も見えてきます。

まさに、人間のサイボーグ化ですね。

桁違いのスケールのビジョンを描き、それを夢物語でなく同時並行でいくつも実際実現してしまうイーロン・マスク。

私たちは彼から何を学べるのでしょうか?

スケールが違いすぎて学べるところが少なそうに思いますが、確実に一つだけ役に立つ思考法があります。

それは、物理学の法則とシンプル化です

イーロン・マスクは何を行うにあたっても、常に物理学の法則で理論値を推論しています。

一段ロケットは安全に回収できるのか?

物理学的に可能ならば、それはトライ&エラーを繰り返せば必ず実現するのです。

ギガファクトリーのEV生産量の物理学的な限界値は何台なのか?

なぜ、理論値通りに生産できないのか?

理論値をスタートにして、その目標に向かって全てをシンプル化、自動化して理論値に近づけていきます。

先日、イーロン・マスクはTwitter社を約6.4兆円で買収し、いきなりその従業員の半分にあたる約4,000人を解雇しました。

世界中のメディアが「Twitterは動かなくなる」、「不適切投稿を監視しなかったら誹謗中傷だらけになって広告主が離れる」等々、その行動を批判的に報道しました。

今回もイーロン・マスクは「Twitterのオペレーションには物理学的に最低限何人が必要なのか?」という理論値からスタートしたはずです。

そして、彼の思い描く理論値は、買収前の半分どころか、もしかしたら10分の1の人数だったのかもしれません。

イーロン・マスクのことですから、Twitterのオペレーションのシンプル化と自動化を成し遂げて鮮やかにTwitterを高収益企業へと変貌させることでしょう。

とかく私たちは経営の改善を考えるとき、現場の社員の人数や業務プロセスに関して現状をスタート地点としがちです。

ゼロから作り直せるとするならば物理学的な理論値はどうなるのだろう?

そこからスタートして、組織やプロセスの理想を描く。

そして、物事をシンプル化、自動化して理想に近づけていく。

イーロン・マスクの真似はできませんが、その思考法は十分真似できそうです。


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この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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