2021年4月、ホンダは2040年までに販売する新車の全てを100%電動化すると発表しました。
ホンダといえばエンジン。社内に多くの内燃機関研究者を擁するホンダがエンジンを捨てるのは身を切るような辛い決断だったはずです。どのようにして社内を納得させ、このような大胆は方向転換を決断することができたのでしょうか?
一方で、全世界に多くの系列会社やサプライヤーを抱えるトヨタは、ホンダのような大胆な電動化目標を発表していません。
トヨタが打ち出した大胆な取り組みはスマートシティの開発。現在トヨタは静岡県の裾野で「ウーブン・シティ」というスマートシティを開発中です。2021年6月、同社の豊田章男社長がこの開発会社に個人財産を50億円出資しました。豊田社長の本気度が伝わってきます。
日本を代表する自動車会社の社運を賭けた大胆な決断。その決断を支えるものはなんだったのでしょうか?
エンジン技術は”価値”を生み出すための”手段”
ホンダは戦後の焼野原の中、自転車に取り付ける補助エンジンを製造する会社として立ち上がります。
”バタバタ”と呼ばれた補助エンジン付き自転車は荒れた道路での人々の自由な移動を助けて大変喜ばれます。その後、生活者の足として未だに生産を続けるスーパーカブのヒットにより二輪メーカーとして急成長します。そしてホンダは、”自由な移動の喜び”を拡大するために、国内最後発の自動車メーカーにチャレンジます。
既に、トヨタや日産があって、その中でホンダが必要とされる理由は?
軽快な走りと、小型で高燃費な性能でした。
1970年代前半、自動車メーカーは世界一厳しいカリフォルニア州の排ガス規制法であるマスキー法をクリアするために苦しんでいました。この規制をホンダは、独創的な燃焼技術によるCVCCエンジンによって世界で始めてクリアします。CVCCエンジンを搭載した初代シビックは米国で爆発的に売れ、大排気量で大型が主流だった米国のモータリゼーションの景色を一変させます。
そして、”自由な移動の喜び”は30年以上の開発期間を経て、「ホンダジェット」という小型ビジネスジェットへと広がっていきます。
ホンダは人々に”自由な移動の喜び”を与え続けてきたのです。
ホンダの創業者の本田宗一郎はこう言い続けていました。
「技術は手段でしかない」
生み出すべきは”自由な移動の喜び”という価値であり、それを実現する技術は手段でしかないのです。
エンジン技術も単なる手段。環境が変われば、価値を生み出す手段である技術も変わるべきです。
「技術は手段でしかない」という創業者の後押しを受けて、”自由な移動の喜び”を支えるパワートレーンをエンジンからモーターに変えるという大胆な決断ができたのでしょう。
ちなみに、現在、全ての車に標準装備されているエアバック。この開発に世界で始めて成功したのもホンダです。火薬を使ってエアバックを膨張させるという難題にトヨタやメルセデスは早々に開発を断念しました。そんな中、世界中の自動車メーカーの中で、唯一ホンダ一だけが数十年にわたって黙々と開発を続けたのです。その挑戦を支えたのは”小型車は衝突したときに危険”という通説を覆すという使命感でした。
エアバックの開発に成功したことによってホンダの小型車は大型車以上の衝突安全性能を備えることになります。そして、ホンダは安全に火薬を使ってエアバックを膨張させるこの特許技術を全世界の自動車メーカーに開放します。
燃費、排ガス規制、衝突安全等々、自動車を取り巻く様々な問題を独創的な技術で解決してきたのがホンダの歴史であり、誇りなのです。
再び、創業者である本田宗一郎の言葉です。
「技術開発とは苦し紛れの知恵である」
EVには”航続距離”や”バッテリーの充電時間”、”バッテリーの廃棄処分”等、様々な問題が残っています。
きっと、ホンダはこれらの難解な問題を「技術開発とは苦し紛れの知恵である」という精神で、諦めずに取組み、解決していくことでしょう。
新たな産業に賭けたトヨタ
さて、一方のトヨタ。その祖業は機織機。戦前の日本の主力産業は紡績・製糸といった軽工業。この日本の工業を支えるために、豊田佐吉は豊田自動織機を興します。
そして、佐吉の長男であるである豊田喜一郎はアメリカでのモータリゼーションの勃興を目にし、日本の工業力の向上のために豊田自動織機の新事業としてトヨタ自動車を興します。
こうして、”一代、一業”という豊田家のモットーが出来上がります。
トヨタ自動車の創業期は銀行からの支援も不十分で資金繰りに苦労する状態でした。銀行から「機屋に貸せても車屋には貸せない」という屈辱的な仕打ちを受け、銀行に頼らない強固な財務体質を目指します。資金効率を良くするため、販売に力を入れ、過剰在庫を持たないように努めます。やがて、世界一効率的な工業生産システムであるトヨタのカンバン方式を生み出して世界一の自動車メーカーへと成長していくのです。
豊田喜一郎の長男である豊田章一郎は、”一代、一業”のモットーに従い、トヨタホームを創業します。
そして、佐吉から数えて4代目のトヨタ現社長が打ち出した新事業が「ウーブン・シティ」というスマートシティの開発。
豊田家の歴史は正に「産業報国」。日本の工業史そのものです。
自動車が電動化されることによって、エンジンパーツとその補機類であるラジエーター、マフラーといった裾野の広い自動車産業のピラミッドは破壊されます。
日本の工業としては、新しい産業を生み出さなければその雇用を守れません。
スマートシティの開発は大量の雇用を生み出します。
「産業報国」という誇りと「一代、一業」という豊田家のモットーが、スマートシティの開発といった社運を賭けた大胆な決断を支えたのではないでしょうか。
社運を賭けた大胆な決断を支えるのは、その組織が過去成し遂げてきたことへの「誇り」です。
100%の電動化といった社運を賭けた大胆な方向転換や、スマートシティの開発といった社運を賭けた大胆な新事業。
大変勇気がいる決断です。恐怖で足がすくみます。
今のメンバーだけでは決めきれない。
決断を後押ししてくれるのは、過去のメンバーたちからの応援なのです。
会社や組織の歴史を振り返ることは大変重要です。
先人たちの成し遂げてきたことへの「誇り」から、未来を切り開く「勇気」をもらいましょう。
株式会社ワークハピネスは人材育成研修・組織開発コンサルティングを通して
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公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。
現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。