
会社のOJTを成功させる設計と実践|形骸化させない育成の仕組みづくり
多くの会社で「OJTはやっている」と言われます。しかし、実際に現場の声を聞くと、「教える人によって内容が違う」「忙しくて結局放置される」「何が身についたのか分からない」といった違和感が語られることが少なくありません。OJTは本来、最も身近で実践的な人材育成の方法であるはずです。それにもかかわらず、期待された成果につながっていない会社が多いのが現実です。
その背景には、「OJT=現場任せ」という暗黙の前提があります。新人や若手を配属すれば、あとは現場の先輩が教えてくれる。忙しい中でも見て覚えさせる。こうした考え方が、いつの間にか当たり前になってはいないでしょうか。しかし、環境や人材の多様化が進む現代において、この前提は限界を迎えています。
今、求められているのは「会社としてOJTをどう設計し、どう支えるか」という視点です。OJTは個人の善意や努力だけに委ねるものではありません。会社が明確な意図を持ち、育成の環境を整え、障害を取り除くことで、初めて人は主体的に学び、成長していきます。
本記事では、「会社 OJT」というキーワードを軸に、OJTを形骸化させず、育成の力として機能させるための考え方と実践方法を整理します。制度論や精神論に偏らず、現場で実際に起こりがちな課題を踏まえながら、会社としてできる具体的な打ち手を掘り下げていきます。
会社でのOJTとは何か
OJTの定義と会社視点での意味
OJTとは「On the Job Training」の略で、実際の業務を通じて知識やスキルを身につけていく育成方法を指します。マニュアルや座学では得にくい、現場ならではの判断力や仕事の進め方を学べる点が大きな特徴です。そのため、多くの会社で新人育成の中心的な手法として位置づけられています。
一方で、「会社OJT」という言葉には、もう一段深い意味があります。それは、OJTを個人任せにせず、会社として意図的に設計・運用するという姿勢です。誰が、何を、どこまで育てるのか。そのためにどんな環境を用意するのか。これらを曖昧にしたままでは、OJTは再現性のない属人的な取り組みになってしまいます。
会社視点でのOJTとは、育成を業務の延長ではなく、組織の重要な投資と捉えることでもあります。人が育つことで、チームの生産性が上がり、組織の可能性が広がる。その因果関係を理解したうえで、OJTを仕組みとして捉えることが求められています。
なぜ今「会社としてのOJT」が問われているのか
近年、OJTがうまく機能しにくくなっている理由の一つに、仕事の複雑化があります。業務内容が高度化し、暗黙知だけでは伝えきれない場面が増えています。また、リモートワークやハイブリッド勤務の普及により、「背中を見て学ぶ」機会そのものが減っています。
さらに、若手社員の価値観も変化しています。言われたことをそのまま受け取るのではなく、「なぜそれをやるのか」「自分はどう成長できるのか」を重視する傾向が強まっています。こうした中で、目的や期待が共有されないOJTは、学びの機会として受け取られにくくなっています。
だからこそ、会社としてOJTの意味づけを行い、学ぶ側が自分の成長と結びつけて捉えられる設計が不可欠です。OJTは単なる作業引き継ぎではなく、成長体験そのものだという認識を、組織全体で共有する必要があります。
OJTとOff-JTの違いと役割分担
OJTと対比されるのがOff-JTです。Off-JTは研修や講座など、業務から一時的に離れて行う学習を指します。両者は対立するものではなく、補完関係にあります。Off-JTで得た知識や視点を、OJTの中で試し、定着させる。この循環があってこそ、学びは実践力へと変わります。
会社OJTを考える際に重要なのは、「何をOJTで育て、何をOff-JTで補うか」を明確にすることです。すべてを現場に任せるのではなく、現場で育てやすいものと、場を分けたほうがよいものを整理する。この役割分担が曖昧なままだと、現場の負担が過度に大きくなり、OJTそのものが疲弊してしまいます。
会社のOJTで育つもの・育たないもの
OJTで身につく力と限界
会社OJTの最大の価値は、実務の文脈の中で学べる点にあります。業務の進め方、社内外の関係者とのやり取り、判断のタイミングなどは、マニュアルだけでは身につきません。実際の仕事を通じて経験するからこそ、「知っている」から「できる」へと変化していきます。
一方で、OJTですべてが育つわけではありません。業務の背景にある考え方や、なぜその判断が必要なのかといった抽象度の高い理解は、意図的に言語化されなければ伝わりにくいものです。また、教える側が忙しい状況では、目の前の作業をこなすことが優先され、振り返りや対話が後回しになりがちです。
その結果、「作業はできるが、自分で考えて応用できない」「指示がなければ動けない」といった状態に陥ることもあります。会社OJTを考えるうえでは、OJTの強みと限界を理解したうえで、育てたい力を見極めることが欠かせません。
教える側・学ぶ側に起きやすい誤解
OJTがうまくいかない背景には、教える側と学ぶ側の認識のズレがあります。教える側は「一度説明した」「見せたのだから分かるはず」と考えがちです。一方、学ぶ側は「忙しそうで質問しづらい」「何が正解なのか分からない」と感じていることが少なくありません。
また、教える側が「自分もこうして覚えてきた」という経験則に頼りすぎると、学ぶ側の状況や理解度を十分に考慮できなくなります。結果として、OJTが精神論や根性論に傾き、学ぶ側の主体性を削いでしまうこともあります。
会社としてOJTを設計する際には、こうした誤解が起きやすいことを前提に、対話の機会や期待値のすり合わせを仕組みとして用意する必要があります。
OJTが逆効果になるケース
OJTはやり方を誤ると、育成どころか逆効果になることがあります。代表的なのが、失敗を許容しない環境でのOJTです。ミスを過度に責められると、人は挑戦を避けるようになります。その結果、自分で考える機会が減り、成長のスピードが落ちてしまいます。
また、「教えてもらって当然」という空気が生まれると、学ぶ側のオーナーシップが弱まります。OJTは本来、教える側と学ぶ側が一緒に成長をつくるプロセスです。どちらか一方に負担や責任が偏ると、関係性が歪み、育成の質も下がってしまいます。
会社OJTを機能させる設計思想
任せきりにしないOJTの考え方
多くの会社でOJTがうまく機能しなくなる最大の原因は、「現場に任せているつもりが、実際には放置になっている」点にあります。OJTは現場で行われるものですが、だからといって設計や責任まで現場任せにしてしまうと、育成の質は担当者の経験や余裕に大きく左右されます。
会社として重要なのは、「現場で行うが、設計は会社が担う」という役割分担です。どのレベルまで育てたいのか、そのためにどんな経験を積ませるのか、最低限どこまでは保証するのか。こうした枠組みが示されていない状態では、教える側も「何をどこまでやればいいのか分からない」ままOJTを担うことになります。
結果として、OJTは「できる人が、できる範囲で教える」ものになり、属人化が進みます。任せきりにしないOJTとは、管理や統制を強めることではありません。育成の方向性と期待値を会社が明確にし、その上で現場が主体的に工夫できる余地を残すことです。このバランスが取れて初めて、OJTは組織の力として機能し始めます。
主体性を引き出す環境設計
OJTを設計する際に陥りがちなのが、「どう教えるか」「どう管理するか」という発想です。しかし、実際に成長を左右するのは、教え方そのものよりも、学ぶ人がどんな状態でOJTに向き合っているかです。
人は本来、成長したい、役に立ちたいという内発的な動機を持っています。それが発揮されないのは、意欲がないからではなく、動きにくい環境があるからです。例えば、「失敗すると評価が下がる」「質問すると迷惑そうな顔をされる」「正解が分からないまま進めなければならない」といった状況では、誰でも受け身になります。
会社OJTにおいて大切なのは、やる気を引き出す施策を増やすことではなく、やる気を削ぐ要因を減らすことです。挑戦しても大丈夫だと思えること、自分で考える余地があること、困ったときに相談できること。こうした環境が整っていると、学ぶ側は自然と主体的にOJTに関わるようになります。
OJTの設計思想は、人を動かそうとするものではなく、人が動きたくなる状態をつくることにあります。
現場任せと会社責任の境界線
OJTにおいて混同されやすいのが、「現場に任せること」と「会社が責任を持たないこと」です。育成の実行主体は現場であっても、育成の成果に対する責任は会社にあります。この前提が共有されていないと、OJTは継続的な取り組みになりません。
例えば、OJT担当者が多忙で十分に時間を取れなかった場合、「現場が悪い」「本人の努力不足だ」と片付けてしまうと、同じ問題が繰り返されます。本来問われるべきなのは、その状況を生んでいる組織の設計です。育成の時間が確保されているか、役割が評価に反映されているか、相談できる支援体制があるか。これらはすべて会社の責任領域です。
会社が責任を持つとは、細かく管理することではありません。現場が安心して育成に取り組めるよう、必要な資源と裁量を渡すことです。そのうえで、現場は自分たちなりの工夫を重ね、OJTを進化させていきます。この関係性が築けたとき、OJTは一時的な施策ではなく、組織文化として根づいていきます。
会社OJTを支える現場マネジメント
上司・先輩の関わり方がOJTの質を左右する
会社OJTは制度や仕組みだけでは機能しません。実際の体験の質を左右するのは、上司や先輩がどのように関わるかです。特に重要なのは、「教えること」と「管理すること」を混同しない姿勢です。指示や確認ばかりが増えると、学ぶ側は正解探しに終始し、自分で考える余地を失ってしまいます。
OJTにおける上司・先輩の役割は、答えを与えることではなく、考えるプロセスを支えることです。例えば、すぐに修正点を伝えるのではなく、「どう考えて進めたのか」を問いかける。こうした関わりが、仕事を単なる作業ではなく、学びの機会へと変えていきます。
また、教える側自身が「育成を任されている」という実感を持てることも重要です。会社がOJTを重要な役割として位置づけ、期待を言語化することで、関わり方の質も変わっていきます。
フィードバックと対話の質を高める
OJTの成否を分ける要素の一つが、フィードバックの質です。多くの現場では、指摘はあっても振り返りの対話が不足しがちです。忙しさを理由に結果だけを確認し、プロセスや学びが置き去りになると、成長は一時的なものになります。
効果的なOJTでは、定期的な振り返りが組み込まれています。「何がうまくいったか」「次に工夫できる点は何か」を一緒に整理することで、学ぶ側は自分の成長を実感できます。重要なのは、評価の場にしないことです。安心して話せる対話の場があるからこそ、率直な振り返りが可能になります。
こうした対話は、教える側にとっても学びの機会です。相手の視点に触れることで、自分の仕事の進め方や伝え方を見直すきっかけになります。
教える側を孤立させない仕組み
OJTが続かなくなる背景には、教える側の孤立があります。「忙しい中で育成まで任されている」「誰にも相談できない」と感じると、育成は負担になりがちです。会社として重要なのは、教える側を個人として抱え込ませない仕組みを用意することです。
例えば、OJT担当者同士が情報交換できる場を設ける、上司が定期的に状況を確認する、といった小さな支援でも効果はあります。教える側が支えられていると感じられる環境が、OJTの質を安定させます。
会社OJTの効果を高める実践ポイント
日常業務への組み込み方
会社OJTが形骸化する大きな理由の一つが、「OJTは余裕があるときにやるもの」という位置づけです。これでは、繁忙期に育成が止まり、結果として育成そのものが後回しになります。効果的なOJTを実現するためには、OJTを特別な活動ではなく、日常業務の一部として設計する視点が欠かせません。
具体的には、業務を単に任せるのではなく、「どの業務を、どのタイミングで、どこまで任せるか」を意図的に決めます。最初は一部の工程だけを任せ、慣れてきたら判断を伴う部分まで広げていく。この段階設計があることで、学ぶ側は無理なく挑戦できます。
会社として重要なのは、「育成のための業務」を別枠で用意するのではなく、「今ある業務をどう学習機会に変えるか」を現場と一緒に考えることです。この発想転換が、OJTを継続的な育成手法へと変えていきます。
振り返りと学習の定着
OJTで最も見落とされがちなのが振り返りです。経験しただけでは成長は定着しません。経験を言語化し、自分なりの意味づけを行って初めて、学びは次の行動につながります。しかし、現場では「時間がない」という理由で振り返りが省略されがちです。
効果を高めるためには、振り返りを個人任せにせず、会社として位置づけることが重要です。例えば、業務の区切りごとに短時間でも振り返りを行う、定期的に上司や先輩と対話する場を設けるといった工夫が考えられます。長時間である必要はなく、「何を学んだか」「次にどう活かすか」を整理するだけでも十分です。
このプロセスを通じて、学ぶ側は自分の成長を実感しやすくなります。同時に、教える側も相手の理解度や課題を把握でき、OJTの質が高まっていきます。
成功循環を回すための工夫
OJTがうまく機能している会社では、育成が好循環を生み出しています。良好な関係性の中で対話が生まれ、考える力が育ち、行動が変わり、その結果として成果が出る。この流れが回り始めると、OJTは一時的な施策ではなく、組織文化の一部になります。
この成功循環を意図的につくるためには、結果だけを評価しない姿勢が欠かせません。成果が出るまでの過程や挑戦そのものに目を向けることで、学ぶ側は安心して行動できます。また、小さな成功体験を積み重ねることで、自信とオーナーシップが育っていきます。
会社としては、こうした循環が生まれているかを定期的に振り返り、必要に応じて環境を整え直すことが重要です。育成を一過性のイベントにしないためには、循環を回し続ける視点が欠かせません。
OJTの評価・効果測定
何をもって「OJTがうまくいった」と言えるのか
会社OJTの評価が難しい理由は、「成果が見えにくい」点にあります。売上や生産量のように明確な数値で測れないため、評価が感覚的になりやすいのです。その結果、「やっているかどうか」だけが確認され、「効果があったのかどうか」が曖昧なままになってしまいます。
OJTの評価で重要なのは、結果そのものではなく、行動の変化に注目することです。例えば、指示を待たずに動けるようになったか、自分の判断を言語化できるようになったか、周囲と協力して仕事を進められるようになったか。こうした変化は、OJTが機能しているかを判断する有力な手がかりになります。
会社としては、「何ができるようになればOJTの成果とみなすのか」を事前に共有しておくことが重要です。この基準があることで、評価が属人的にならず、育成の方向性もぶれにくくなります。
定量・定性の評価視点
OJTの効果測定では、定量評価と定性評価を組み合わせる視点が欠かせません。定量評価は、業務の処理件数やミスの減少など、比較的測りやすい指標を扱います。一方で、定性評価は、仕事への向き合い方や思考の深まりといった、数値化しにくい変化を捉えます。
定量評価だけに頼ると、「数字を達成すること」が目的化し、OJT本来の学びが置き去りになることがあります。逆に定性評価だけでは、納得感のある判断が難しくなります。両者を補完的に使うことで、OJTの実態に即した評価が可能になります。
評価は査定のためだけに行うものではありません。育成の質を高めるための材料として活用することで、OJTは次の段階へと進んでいきます。
評価を次の育成につなげる方法
OJTの評価は、終点ではなく次の育成への出発点です。評価結果をもとに、「次はどんな経験を積ませるか」「どんな支援が必要か」を考えることで、育成は連続性を持ちます。
例えば、判断力は高まっているが周囲との連携に課題がある場合、次のOJTではチームでの役割を意識した業務を任せるといった設計が考えられます。このように、評価を具体的な次の行動に結びつけることで、OJTは一過性の取り組みではなくなります。
会社規模・フェーズ別OJTの考え方
中小企業の場合
中小企業では、人材育成に割けるリソースが限られている一方で、柔軟に動ける強みがあります。OJTが自然発生的に行われやすい反面、属人化しやすい点が課題になります。
この規模では、完璧な制度を作ることよりも、「最低限の共通認識」を揃えることが重要です。何を大切に育てたいのか、OJTで期待する姿は何か。この点を経営層や管理職が共有するだけでも、現場のOJTの質は大きく変わります。
成長フェーズ企業の場合
事業拡大が進む企業では、人が増えるスピードに育成が追いつかなくなることがあります。この段階でOJTを現場任せにしてしまうと、育成のばらつきが組織の不公平感につながります。
成長フェーズでは、OJTの最低基準を明確にすることが重要です。全員が同じスタートラインに立てるよう、育成の共通フレームを用意することで、現場の負担も軽減されます。
組織が成熟している場合
成熟した組織では、OJTが形式化しやすくなります。「昔からこうしている」という慣習が、新しい学びを阻むこともあります。この場合、OJTの目的を再定義し、次世代に何を託すのかを改めて考えることが求められます。
会社OJTを形骸化させないために
会社OJTは、一度設計すれば終わりではありません。環境や人が変われば、育成のあり方も変わります。重要なのは、OJTを「管理する対象」ではなく、「育ち続ける仕組み」として捉えることです。
人が主体的に学び、周囲と関わりながら成長できる環境が整っているとき、OJTは自然と機能します。そのために会社ができるのは、現場を縛ることではなく、障害を取り除き、挑戦を後押しすることです。
会社OJTは、人を育てると同時に、組織そのものを育てます。育成を通じて生まれる経験の積み重ねが、企業の未来を形づくっていきます。
会社OJTでよくある失敗パターンとその背景
「OJT担当者が優秀なら大丈夫」という思い込み
会社OJTで頻繁に見られる失敗が、「優秀な先輩をつければ育つはず」という発想です。確かに、仕事ができる人が教えることで、短期的には業務理解が進むこともあります。しかし、仕事ができることと、育成ができることは同義ではありません。
優秀な人ほど、無意識に判断していることが多く、自分の思考プロセスを言語化するのが難しい場合があります。その結果、教えられる側は「何となくやり方は分かったが、なぜそうするのか分からない」状態に陥ります。これでは応用力は育ちません。
この失敗の背景には、OJTを個人の力量に委ねすぎている構造があります。会社として育成の前提や進め方を整理していないと、どれだけ優秀な人が担当しても、OJTの質は安定しません。
「忙しいから後で教える」が常態化する
現場のOJTがうまくいかない理由として、必ずと言っていいほど挙がるのが「忙しさ」です。業務が立て込むと、育成はどうしても後回しになります。そしてその状態が続くと、OJTは名ばかりのものになってしまいます。
この問題は、現場の姿勢だけの問題ではありません。そもそも育成を業務の一部として設計していない場合、忙しいときに削られるのは当然です。会社としてOJTを重要な活動と位置づけていない限り、この状況は改善しません。
忙しさを理由にしないOJTを実現するには、育成を「追加の仕事」にしないことが重要です。日常業務の中に学習の視点を組み込み、短い対話や振り返りを前提とした設計にすることで、忙しい中でもOJTは継続できます。
「育成=教えること」になってしまう
OJTがうまく機能しない会社では、育成が「教えること」に偏りがちです。教える側が一方的に説明し、学ぶ側はそれを覚える。この構図では、学ぶ側の主体性は育ちません。
本来、育成とは「自分で考え、行動できるようになること」です。そのためには、教える量を増やすよりも、考える余白をつくることが必要です。問いかけや任せ方を工夫し、試行錯誤を許容することが、結果的に成長を早めます。
会社OJTを支えるチェックポイント(実践用)
OJT設計が機能しているか確認する視点
会社OJTが形だけになっていないかを確認するためには、いくつかの視点があります。例えば、以下のような問いを定期的に投げかけることが有効です。
・OJTの目的とゴールは、教える側と学ぶ側で共有されているか
・学ぶ側が「自分で考える余地」を持てているか
・失敗や試行錯誤が許容される雰囲気があるか
・教える側が孤立していないか
これらは制度ではなく、日常の関わりの中で現れます。会社として定期的に振り返ることで、OJTの質を保ちやすくなります。
学ぶ側のオーナーシップを確認する視点
OJTの成果を測る際、「どれだけ教えたか」ではなく、「どれだけ主体的に関わっているか」を見ることが重要です。例えば、学ぶ側が自分から質問しているか、次に挑戦したいことを言語化できているかといった点は、オーナーシップの表れです。
こうした変化が見られない場合、OJTの設計や関わり方に改善の余地があります。個人の姿勢を問題にする前に、環境や関係性を見直すことが重要です。
会社OJTを通じて育成文化を根づかせる
会社OJTの本質は、特定の期間だけ新人を育てることではありません。日常の仕事の中で、学び合い、成長し続ける文化を育てることにあります。OJTがうまく機能している会社では、「育てる」「育てられる」という関係を超えて、互いに影響を与え合う関係が生まれています。
そのためには、会社が一貫して示す姿勢が重要です。人は管理されることで成長するのではなく、自分で選び、自分で変えられる環境の中で力を発揮します。OJTは、その体験を最も身近な形で提供できる仕組みです。
会社としてOJTをどう扱うかは、そのまま人をどう信じているかの表れでもあります。育成を通じて人が成長し、組織が前進する。この循環を意図的につくることが、これからの会社OJTには求められています。
会社OJTと人材定着・エンゲージメントの関係
OJTが定着率に与える影響
会社OJTは、スキル習得のためだけの仕組みではありません。実は、人材の定着やエンゲージメントに大きな影響を与えています。入社初期や配置転換後にどのようなOJT体験をするかによって、その会社で働き続けたいかどうかの判断が大きく左右されます。
OJTがうまく機能していない会社では、「放置されている」「期待されていない」「成長できる実感がない」といった感覚が生まれやすくなります。こうした状態が続くと、本人の能力や意欲とは関係なく、離職の選択肢が現実的になっていきます。
一方、会社としてOJTを丁寧に設計している場合、学ぶ側は「見てもらえている」「任されている」「成長を期待されている」と感じやすくなります。この感覚は、給与や制度以上にエンゲージメントを高める要因になります。
「好きで得意なことで貢献できる」状態をつくる
OJTの質が高い会社では、単に業務を覚えさせるのではなく、その人の強みや関心に目を向けた関わりが行われています。得意なことを活かせる業務を少しずつ任せたり、興味のある分野で挑戦する機会を設けたりすることで、OJTは本人にとって意味のある体験になります。
人は、自分の持ち味が活かされていると感じるとき、最も前向きに仕事に向き合います。会社OJTは、その入口をつくる重要な仕組みです。画一的な育成ではなく、一人ひとりの違いを前提にしたOJT設計が、結果として組織全体の活力を高めていきます。
OJTとマネジメントの接続点
OJTはマネジメントの一部である
OJTがうまくいかない会社では、「育成は人事の仕事」「OJTは現場の善意」という分断が起きがちです。しかし、OJTは本来マネジメントの一部です。目標設定、業務配分、フィードバック、評価といった日常のマネジメント行為と切り離して考えると、OJTは途端に形骸化します。
例えば、目標設定で成長の視点が含まれていなければ、OJTは単なる作業指導になります。評価で育成のプロセスが見られていなければ、挑戦は避けられます。会社OJTを機能させるためには、マネジメント全体の中に育成の視点を組み込むことが不可欠です。
上司自身が学び続ける姿勢を見せる
OJTの現場では、上司や先輩の姿勢がそのまま学習文化になります。上司が「自分はもう学ばなくていい」という態度を取っていると、学ぶ側も成長に対して消極的になります。
一方で、上司自身が試行錯誤している姿や、学びを言語化する姿を見せている職場では、OJTが自然に回り始めます。会社としては、OJTを通じて部下を育てるだけでなく、育成を担う側も成長する前提を持つことが重要です。
会社でのOJTを設計する際のよくある誤解
「マニュアルを整備すればOJTは不要になる」
業務マニュアルや手順書は、OJTを補完する重要なツールです。しかし、それだけでOJTが不要になるわけではありません。マニュアルは「何をするか」を示すことはできても、「なぜそうするか」「状況に応じてどう判断するか」までは伝えきれません。
OJTの価値は、文脈や判断を共有できる点にあります。マニュアルとOJTを対立させるのではなく、役割を分けて活用することが、会社としての育成力を高めます。
「OJTは若手向けのもの」という思い込み
OJTは新人や若手だけのものと捉えられがちですが、実際には中堅・ベテランにも有効です。新しい役割や業務に挑戦する際、OJTは誰にとっても必要なプロセスです。
会社OJTを特定の層だけの施策にせず、「役割が変わるたびに行われる育成プロセス」として再定義することで、組織全体の学習力は高まります。
会社のOJTを継続的に進化させるために
会社のOJTは、一度設計して終わるものではありません。人材構成や事業環境が変われば、求められる育成のあり方も変わります。その変化に合わせてOJTを見直し続けることが、育成を文化として根づかせる鍵になります。
重要なのは、「完璧なOJT」を目指さないことです。試し、振り返り、改善する。このサイクルを回し続けること自体が、組織の学習能力を高めます。OJTを通じて得られるのは、スキルだけではありません。人と人との関係性、考える力、主体的に動く姿勢。これらは、組織の持続的な成長を支える基盤になります。
OJT設計研修の導入をご検討の際は、ぜひワークハピネスにご相談ください。貴社の課題に、一緒に取り組んでいきましょう。

人材アウトソーシングのベンチャー企業㈱エスプール(ワークハピネスの親会社)の創立3年目に新卒にて入社。新規現場、プロジェクトの立ち上げから不採算支店を売上日本一の支店に再生するなど、同社の株式上場に貢献してきた。
多数のプロジェクトを通じ、多くのスタッフと携わる中で「人間の無限の可能性」を知り、「人の強みを活かすマネジメント」を広めるべく、2006年よりワークハピネスに参画。
中小企業を中心とした人材開発、組織風土変革コンサルティングPJを推進している。






















