皆さん、人生で1番楽しかった時期っていつですか?
仮に、戻れるとしたらどの時代に帰りたいですか?
私の答えは、、、
「今が一番楽しい!」
と言いたいところなんですが、本音は高校3年生の3年I組です。
地方県立の進学校に通っていたのですが、3年I組のクラスはとても雰囲気が良くて、毎日学校に行くのが楽しみしかたありませんでした。
その1番の原因は、クラスのリーダーのN君の存在です。
人一倍大きな身体の彼はラグビー部のキャプテンなのですが、心優しく、ひょうきん者でおっちょこちょい。全く優等生タイプではなく、ちょくちょく失敗もする。その適度なダメっぷりも大好きでした。人間好きなN君は、体育会系だけでなく、文化系やオタク系の子達とも大変仲良し。男女分け隔てなく、常にクラスの隅々まで声をかけて仲間に巻き込んで盛り上げてくれました。
そんなN君の口癖は次の3つ。
「いいね!」
「おもしろ!」
「ありがとう!」
クラス内の誰かからのどんな言動に対しても、N君は常に興味を持って、「いいね!」「おもしろい!」と楽しみます。合唱祭の準備に取り掛かっているクラスメイトに「○○ちゃん、ありがとう!」。スポーツ祭で誰かがミスをしたら「○○ちゃん、いいね!盛り上がる!」と、失敗を笑いに変えてくれます。
今風の組織人材開発用語で言えば、3年1組は「心理的安全性の高いハイパフォーマンスな組織」でした。
毎日、クラスでは笑いがたえず、常に高くユニークな目標を掲げ、失敗を恐れずに挑戦するクラス風土。”合唱祭”では、難しい楽曲に挑戦し、早朝練習を繰り返し、最後は全員で真っ赤なドレスを着て本番に挑み、全校優秀。サッカー、バレーボール、野球、テニス等、複数の競技を全校全クラス対抗で競う”球技祭”では、戦略的な布陣を組んで、対戦相手の分析も綿密に行い、意表を突く戦術で敵を翻弄してこれまた全校優勝。
何かのお祭りに取り組む時のクラスの一体感、各人がその異なる才能と知恵をふり絞ってクラスの勝利に貢献するダイバーシティーチームでの成功は、各人に最高の清涼感をもたらしました。
秋の文化祭シーズンになりました。
進学校ですからみんな受験勉強を一生懸命やらなければならないのですが、3年I組は文化祭に全力投球です。
文化祭の出し物は演劇をやろう!ということにまりました。
映画好きのN君が強烈に押してくる題材は、ロバート・レッドフォードとポール・ニューマンが演じた詐欺師コンビの物語、”スティング”。みんなで映画を見た時、その複雑な内容に、「こんな作品を演劇で表現するってさすがに無理なんじゃないか?」と一瞬たじろぎましたが、自作で立派な脚本を書き上げてきたN君の熱意に押され、3年I組は”スティング”の演劇をやることになりました。
役者陣、演出家、大道具、小道具、看板製作等々、演劇の完成には相当の人数が頑張らなければなりません。
順調に進んでいた準備の最中、想定外の事件がおきます。
私たちは劇場として小体育館を予定していたのですが、下級生が突然、”ディスコ”をやりたいから3年I組に場所を譲って欲しいと言い出したのです。
”自主自律”を旨とし、上下関係もなく、生徒が自力で校則を変えて制服を廃止させるようなリベラルな校風だったので、「先輩だから譲って!」などという古風な情緒は通じません。
小体育館の使用権に関して、生徒会の仲裁のもと、くじ引きで決めることになりました。
厳正なるくじ引きの結果は、、、、
「はずれ」
ガーン!
代わりに3年I組あてがわれたのは「大体育館」。
想定外の大箱に、演出、大道具、小道具等々、全てやり直しです。
3年I組の教室での対策会議は紛糾しました。
「大体育館じゃ大きすぎて役者の声が通らない!」
「どうする?」
知恵を絞って様々なアイデアが出てきます。
「ステージを使わずに、体育館にサーカスみたいなテントを張って、小劇場を作ったらどうだろう?」
「そんな巨大テント、どこにあるんだよ?調達するにしても予算がないよ!」
「・・・・・」
「デパートの屋上から吊り下げられているイベント告知の垂れ幕、あれもらってきたらどうだろう?それを体育館の2階のギャラリーの手すりから対角線に横断させたら天井にならないかな?」
「おもしろい!」
「いいね!」
「でも、体育館の壁って音が反響して声がクリアに聞こえないんじゃないかな?」
「・・・・」
「壁にダンボールの箱を積み上げて囲ったら、吸音材でできた小劇場になるんじゃない?」
「おもしろい!」
「いいね!」
さっそく、対策案がまとまりました。
・体育館の片隅を小劇場に仕上げる
・2階、ギャラリースタンドの対角線にデパートの垂れ幕を渡して低い天井を作る
・四隅の壁にダンボール箱を積み上げて吸音効果のある壁を作り上げる。
超えなければならないハードルがいくつかあります。
果たして、百貨店は無料で「垂れ幕」をくれるのか?
四隅を囲むほどの大量のダンボールは手に入るのか?
垂れ幕確保に向けて、交渉力が高そうな女子数名が駅前の百貨店に駆け出しました。
なんと、百貨店は女子高生の涙の訴えに心を打たれ?大量の垂れ幕を提供してくれました!
大量の段ボール集めは体力勝負です。
男性陣は毎日廃品回収業者の様にリアカー引っ張って近所のスーパーマーケットをくまなく回って段ボールを回収し続けました。
数週間、集めに集めた段ボール箱、数千個は凄まじい量でした。
正門を飾る巨大なロバート・レッドフォードとポールニューマンの”スティング”看板を描くチーム。
宣伝ビラを作るチーム。
そして、役者と演出家チーム。
同時進行で進んでいく演劇”スティング”の準備
N君は、巨大看板を描きながらも、色々なチームに目配り、気配りして、「いいね!」「おもしろい!」を連発して、駆け寄って「ありがとう!」と抱きしめ、背中を叩いてその貢献をねぎらいます。
私はというと、リアカーを引いて必死でダンボール箱を集める毎日でした。
放課後、遠くからダンボールを満杯に積んだリアカーで母校に帰ってくると、巨大看板を描いているN君が正門近辺で満面の笑みで出迎えてくれて、
「しんごちゃん、ありがとう!」と駆け寄ってきてその巨体で私を抱きしめるのです。
私は学生時代から、誰かに指図されるのが嫌いで、我が道を行くタイプでした。社会に出てからも、そんなわけでほとんど社長しかやったことがありません。
そんな私が、N君の「ありがとう!」が嬉しくて、毎日張り切って段ボール箱を集め続けたのです。
人は、「大好きな人のために必死で働く」ということを知りました。
本番、前日に演劇”スティング”の準備は全て整いました。
玄関前の渡り廊下に掲げられた巨大なロバート・レッドフォードとポールニューマンが描かれた看板を見て、感激しました。登校してくる全ての生徒が、看板を仰ぎ見て「わーっ!」と、感嘆の声を上げていました。
百貨店の垂れ幕と段ボール箱で作り上げた小劇場も素晴らしい非日常空間でした。
演劇も大成功。
最終日、最後の劇の終了後、クラスメイト全員で舞台に上がりカーテンコールを受けました。
クラス委員のOさんが、舞台挨拶で、ここまでの苦労と仲間に対する感謝を語り出すと、彼女の声が震えはじめ、、、最後は涙声で言葉になりません。私も、ここまでの数ヶ月の苦労を思い出し、涙が止まりませんでした。
会場を見ると、最前列の校長先生をはじめ、全員が泣いています。
主役は、ポールニューマンとロバートレッドフォードを演じたクラスのイケメン二人組ではありませんでした。
数百本の垂れ幕の天井を張った者、
数千個のダンボールを壁に積み上げた人、
巨大な劇場看板を描き上げた人、チラシを全校に配り続けた人、
そんな裏方一人ひとりが主役でした。
「異なる才能を持った仲間で力を合わせ、大きな何かを成し遂げる」ことの喜びを知った瞬間です。
学校を卒業してから、起業して上場し、老舗ホテルを再生し、ワークハピネスを創業し、、、と様々なリーダーシップをとってきた私ですが、全ての原点は高校時代の3年I組です。
社会に出てからずっとあの時の文化祭を追い求めています。
そして、私にとっての理想のリーダーは常にN君。
私もN君を真似て、
「いいね!」
「おもしろい!」
「ありがとう!」
を大切に、おっちょこちょいでダメな部分もさらけ出し、笑いの絶えないチームを目指しています。
Googleの”プロジェクトアリストテレス”の公表で有名となった「心理的安全性の高いハイパフォーマンスな組織」をつくる秘訣は、リーダーの仲間に対する態度です。
仲間、一人ひとりを異なる才能と価値観を持ったかけがえのない存在だと思って接すれば、自然と出てくる言葉は、
「いいね!」
「おもしろ!」
「ありがとう!」
です。
・テレワークで孤独を感じている人が多い
・テレワークにおけるエンゲージメントを高めたい
・ダイバーシティーを実現してイノベーションを起こしたい
これらの課題を解決する鍵も「心理的安全性」です。
「いいね!」
「おもしろ!」
「ありがとう!」
という言葉を大切にして、心理的安全性の高い、楽しくてハイパフォーマンスな職場をつくっていきましょう。
株式会社ワークハピネスは人材育成研修・組織開発コンサルティングを通して
人と企業の「変わりたい」を支援し、変化に強い企業文化をつくる支援をしています。
新入社員〜管理職・役員研修のほか、全社向けチームビルディングまで
貴社の職場課題に合わせたカスタマイズ対応が可能です。
ウェブサイトにはこれまでに弊社が支援させていただいた研修および
組織コンサルティングの事例を掲載しております。ぜひご参考ください。
公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。
現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。