経営理念が浸透するかは経営者次第
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経営理念が浸透するかは経営者次第

創業以来、数多くの会社の経営理念の作成をお手伝いしてきました。

会社はどのようなタイミングで経営理念を作るのか?

答えは「経営者が、経営理念が必要だ」と感じた時です。

ところが、私たちに対してストレートに「経営理念を作りたいのでお手伝い頂けませんか?」という依頼はそれほど多くありません。

ほとんどのケースが、別の悩み相談の中で、調査をしてみたらその問題を解決する1番効率的で効果的な打ち手が「経営理念の発見」だったというパターンです。

ワークハピネスでは経営理念は「つくる」ものではなく参加するメンバーの中から「発見」するアプローチをとっているので以後、経営理念の発見と表現し、社内に浸透するまでをご紹介します。

経営理念の発見例①

離職率改善の突破口が見出せない状況だった

ある上場会社の事例です。

会食の2次会で私が公認会計士時代から知っている社長さんに遭遇しました。

「吉村さん、今何やっているの?」と問われ、「実は人事組織のコンサルタントやってます」と答えると、深刻な表情で

「実は今、年率20%を超える高い離職率で困っている」と打ち明けられました。

会社に対する満足度を上げるために福利厚生を厚くしたり、給料を高めたりと従業員の満足度を上げる様々な施策を実施し、ついには営業利益の半分を賞与で還元するという大盤振る舞いも実行したが効果が出ないとのこと。

私の率直な感想を述べました。

「従業員に対する”ばらまき”では解決しない根本原因がありそうですね」

社長は私の発した「ばらまき」という言葉に不快感を表しながらも、その率直さが気に入ったのか社内インタビューを中心とした簡易調査を依頼してくれました。

調査から高い離職率の原因仮説が判明しました。

一言でいって、社員を惹きつける求心力がないのです。

  • 高い知名度
  • 製品・サービスのブランド力
  • 立派でおしゃれなオフィス
  • カリスマ経営者
  • 魅力的な先輩社員
  • 成長できる環境
  • 高い報酬 等々

以下のようなものが求心力となり得ますが、この会社にはそのいずれもが不十分でした。

  • B to Bの事業なので一般的な知名度やブランド力もありません。
  • コンサルティング会社のような成長できる環境でもありません。
  • できる社員ほど先に辞めていくので、魅力的な先輩社員もいません。
  • 高い離職率からサービスのクオリティーを上げられず、低収益に喘いでいるので高い報酬も払えません。
  • 株価も長期低迷していてストックオプション等のインセンティブも機能していません。

人、モノ、金、その全てにおいて突破口が見出せない状況。

ここから何を頼りに会社の求心力を生み出せば良いのか?

一つだけ大きな可能性がありました。

「経営理念」です。

この会社には社員から共感される経営理念がありませんでした。

社員を巻き込んでこの会社の経営理念を発見すれば、大きな求心力となります。

ブランド力を高めて収益性を上げるには多大なコストと時間がかかります。

一方で社員を巻き込んだ経営理念の発見は社長の決断で即時に実行可能です。

最初は半信半疑だった

私たちの報告書は要約すれば「貴方にも会社にも求心力となる魅力はありません。だから、せめて魅力的な経営理念を持ちましょう」という失礼な内容。

憮然とした表情の社長。長い沈黙の後、社長から一言。

「やってやるぞ。こんちくしょー、って気分だな」

社内の主要メンバーを集めて「経営理念の発見」合宿をやることが決まりました。

都内近郊の温泉旅館に社長を含めた約20名のメンバーが集まりました。

ワークショップが始まって活発に意見を交わす社員たちの傍らで不安顔の社長。

途中で何度も「吉村さん、本当に大丈夫?ちゃんとした経営理念は出来上がるの?」と心配そうに聞いてきます。

その言葉には創業社長ならではの自信と驕りが見えます。

「自分がこの会社で1番優れていて1番会社のことを考えている。社員だけで自分の期待するレベルの経営理念を発見できるわけがない」と思っているのです。

私は次のようにこたえました。

「毎日、前線で汗を流しているのはこの社員の方々です。彼らが選んだ経営理念が仕事へのモチベーションを高め、会社を前進させるのです。社長の納得よりここに参加している社員の皆さんの共感が大事です。彼らを信じで静かに見守ってください」

二日間の合宿の終わり、参加した社員の皆が「この目的のためなら頑張れる!」と納得した素晴らしい経営理念が発見されました。

期待を超える成果をみて社長も驚きです。

「信じて任せれば時に社員は期待を超える成果を出す」という衝撃の体験。

この時より、この会社は社長が率いるのではなく、経営理念が率いる会社に生まれ変わりました。

すべてを「経営理念から」に変えた

新たに発見された経営理念を柱として、中期計画、人事制度、研修制度も刷新されました。

全ての経営の意思決定を経営理念に沿って社内に説明するようになりました。

自分を律して経営理念に沿った意思決定を繰り返す過程で社長自身も別人のように変わりました。

社員を信じて任せて、待てるようになったのです。

数年が経過した時、退職率は一桁%に低下、売上は数倍、株価は10倍以上となりました。

経営理念の発見例②

人事制度を新しくしたい、だが・・・

別の事例です。

上場を目指しているベンチャー企業の社長から、会社を大きくするために社員を増やしていくのでしっかりとした人事制度を作りたいとの相談。

人事制度の骨格となる「理想の人材像」を発見するために社員インタビューを中心とした調査を行いました。

そこで問題が発生。

社長の考える会社の未来像と他の役員や部門長が描く会社の未来像がバラバラだったのです。

これでは高く評価して育成すべき「理想の人材像」が決められません。

経営理念の役割

この会社に今1番必要なのは人事制度ではなく未来の指針となる経営理念とビジョンの合意です。

その旨を説明すると社長は困惑顔。経営理念やビジョンの必要性が理解できないのです。

この社長は、利益を上げて高い報酬で従業員に報いることが1番大切なことだと信じて最前線で頑張ってきたのです。

仕事の意義や社会への貢献、そんな美辞麗句を謳った経営理念で社員が幸せになるとは信じられないのです。

そこで私は「欲求5段階説」で有名な心理学者のマズロー博士の言葉を紹介しました。

英雄的事業に参加しているが故に、彼ら自身も英雄となるのだ。この世に存在する人間は、程度の差こそあれ、ちっぽけなものなのだ。

ー中略ー

それであれば、偉大な事業に何らかの形で参加し、それと一体化することが、健全で強固な自尊心を確保する上で必要不可欠といえるだろう。

ー中略ー

良い企業で働くことが健全な自尊心を抱く上で有効なのはこの理由による。

英雄的事業に参加すればちっぽけな一従業員も英雄になれるのです。

良い経営理念は「健全な自尊心」を育て、従業員一人ひとりの人生に多大な意味を与えます。

経営者は多くの従業員を雇用することに高い意義を感じて勝手に自尊心を満たします。

では、従業員にとっての意義は?お金を稼ぐだけで自尊心は満たされるのでしょうか?

良い経営理念を発見することは経営者のためではなく、従業員の幸福のために必要なのです。

マズロー博士の言葉に説得され、疑心暗鬼ながらも社長は経営理念とビジョンを発見するワークショップの開催に合意してくれました。

選抜メンバーで合宿を行い最終的に発見された経営理念とビジョンは社長が日頃発言していたものとは全く異なるものでした。

でも、社長はその経営理念とビジョンを受け入れました。

数年後、その会社は多くの同業他社をM&Aで取り込んで一気に規模を拡大して上場を果たしました。

後日、社長から次のような感謝の言葉をもらいました。

「M&Aとその後の統合が成功したのは被買収会社の従業員の方々に共感してもらえる良い経営理念があったからです。あの時、人事制度をお願いしたのに経営理念まで踏み込んでくれて本当にありがとうございました」

経営理念が浸透するかは経営者次第

従業員を利益を生み出すための道具と考えるエゴイストな経営者もいます。

そんな経営者が、この経営理念発見ワークショップに参加したらどうなるのか?

はい、そんな経営者もいました。

でも、参加したならば、視野が広がり、経営者としての飛躍的な成長が始まります。

経営者が疑心暗鬼であっても、経営理念発見ワークショップの開催に漕ぎ着けられればそれで目的はほぼ達成です。

「会社の未来」に関して活発に意見を交わす従業員から自分の想像を超えるアイデアが飛び出す様を見た時、経営者の既成概念が変化します。

経営者が成長する経営理念発見ワークショップ、社員の幸福のためになんとか導入しちゃいましょう。

経営理念を言語化するワークショップについて 詳しくはこちら

この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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