「スマホ脳」からの学び
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「スマホ脳」からの学び

今年、最も売れた本だということで「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン著)を読んだ。

著者はスウェーデンの精神科医で、ここ10年、特に若い人の間で心の病が急増していることに危機感を持ったのが執筆の動機らしい。

ここ10年の私たちのライフスタイルの変化の主因といえば、スマホとFacebook等の SNSの登場だ。

GDPが上昇して裕福となり、良い暮らしができているのに、スマホとSNSによって私たちはむしろ不健康になっていっているらしい。

スウェーデンでは、大人の9人に1人以上が抗うつ剤を服用しているとか。

著者はこの疑問を進化心理学と最新の研究論文で答えてくれる。

以下は、私なりの要約。

人類は地球上に現れてから99.9%の時間を狩猟採集民として暮らしてきて、私たちの脳と身体は当時の生活様式に最適化されている。

生物学的に見たら私たちの脳はまだサバンナで暮らしているのだ。

99.9%の時間をサバンナで暮らしてきた人類の死因は主に飢餓や殺人干ばつや感染症。

人類の脳と身体は飢餓や干ばつ、感染症から身を守るように進化してきた。

飢餓はとてつもなく恐ろしい脅威だったから人間はカロリーの高い甘いものを目の前にするとつい食べてしまう。

カロリーがほぼ無料で餓死する脅威など皆無なのに、サバンナ生活に最適化されている私たちの脳と身体はこの現代に対応できていない。

その結果、先進国では肥満や糖尿病が蔓延して不健康な人が増えている。

サバンナで生き抜くために必要なのは、睡眠と運動と他者との関わり。

こうした欲求を無視し続けると、精神状態が悪くなる。

それなのに、デジタル化された社会で暮らす先進国の人々は、睡眠時間と運動時間を減らし、コロナ禍によって人と会う機会も減っている。

根本的な問題は、サバンナで生き抜くために最適化された私たちの脳と身体はデジタル化された現代にアンマッチだということ。

サバンナで不意にライオンに遭遇すると、脳から「気をつけろ」と警報が鳴り、コルチゾールというストレスホルモンが分泌される。

そのコルチゾールが、心臓の拍動を強く、速くして、「闘争か逃走」に備える。

このストレスのシステムによって猛獣からの捕食を逃れ、私たちの祖先は生き延びてきた。

現代にはこのような生命に関わるレベルの危険はないのに、社会心理的な種類のストレスを受けてもこのストレス・システムが発動してしまう。

高額な住宅ローン、仕事の締切、「いいね!」があまりつかない、といったことでもこのストレス・システムが発動して、コルチゾール等のストレスホルモンが分泌される。

引用されているスタンフォード大学のロバート・サポルスキー教授の言葉が分かりやすい。

“地球上に存在した時間の99%、動物にとってのストレスとは恐怖の3分間のことだった。その3分が過ぎれば、自分が死んでいるか敵が死んでいるかだ。で、我々人間はというと?

それと同じストレスを30年ローンで組むのだ”

現代の人間は、サバンナに暮らしていた祖先と同じ脳と身体なのに、彼らが体験したこともない超長期にわたってストレスにさらされ続ける。

この、状態が長く続くと何が起きるのか?

そう、うつ症状になる

周囲がライオンだらけで逃げ場が無いと脳が感じると、世界は危険なので心身をスイッチオフにし、行動量を下げて引きこもらせる。

これも脳にとっては生存確率を上げる賢い選択なのだ。

人前で喋るのが恐怖という人は多い。

人前で喋ることは多くの人は強いストレスを感じる。

これも人間の進化の過程で「共同体から追い出されないこと」が何よりも重要だったことの名残りだと考えられている。

評価を下され、社会的に見下され、集団から追い出されたら?

サバンナでは、それは死を意味する。

現代、プレゼンで失敗したくらいで職を失って餓死はしないのに、脳はサバンナ生活と同様の反応をしてしまうのだ。

サバンナでは、周囲の変化に用心深い人ほど生き延びた。

だから私たちも基本的には心配性で用心深い。

木の実をたくさんとる行動を続ける方が生存確率は高かった。

美味しい木の実が取れるかも?

そんな想像をしてドーパミンを放出してワクワクしながら探索を続ける。もちろん、期待通りに美味しい木の実が取れないこともある。

それでもまた良い想像をしてドーパミンを出し、活動を続けた方がカロリーを獲得できる可能性が高い。

だから私たちには好奇心があって、良い想像をしてドーパミンを出して行動を起こす。

以上述べたような人間の特質を逆手にとって脳をハックしてきたのが、スマホとSNSだ。

Facebook社の元CEOのショーン・パーカーの言葉だ。

“できるだけ長い時間その人の注目を引いておくにはどうすればいい?人間の心理の弱いところを突けばいいんだ。ちょっとばかりドーパミンを注射してあげるんだよ”

私たちは1日に2,600回以上スマホを触り、平均して10分に1回、スマホを手に取っているらしい。

チャットやメールの着信音がなると「よい話かもしれない?」と脳からドーパミンが出て、スマホを手に取る。

自分が投稿した写真に「いいね!」が付いていると承認欲求が満たされて、ドーパミンやオキシトシンが出る。「いいね!」の数が多いほど嬉しいから、何度もスマホでチェックしてしまう。

「いいね!」がつくのは、誰かが「親指を立てたマーク」を押した瞬間ではない。Facebookやインスタグラムは親指マークやハートマークが着くのを保留することがあるらしい。行動科学や脳科学の専門家を雇って効果的にドーパミンが出るようにタイミングを調整しているのだ。

著者によれば「スマホは最新のドラック」だと。

子供ほどこのドラックにハマりやすい。

それを知ってか?スティーブ・ジョブスは自分の子供に、iPhoneもiPadも与えなかった。

さて、心身ともに健やかであるために、私たちはこの学びをどう活かしたら良いのだろうか?

著者は、スマホをなるべく遠ざけ、適度に運動してよく眠ることをおすすめしている。

シンプルで分かりやすいアドバイスだ。

でも、私は、もう一つ学びを追加したい。

それは、私たちの脳はサバンナ生活に最適化されていて、現代社会とアンマッチだという事実。

私たちは、飢餓と猛獣に備えなければならないサバンナにいるわけでは無いのに、

脳は心配性で、共同体からの評判を過度に気にして不必要にストレスを抱え、時にうつになる。

サバンナを生き抜くために大切だった人類の特性が、現代では健康にマイナスに働いている。

これはばかばかしい話です。

環境が違ったら生き方も変えて然るべき。

現代ではむしろ逆の特性、楽観的で適度に自分勝手の方が健康に良さそうです。

餓死も猛獣も無縁なのだから、思考の力で脳の反応を制御して、楽観的で適度に自分勝手になることを心がけるのはどうでしょう?

この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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