希望の歴史と新年の誓い
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希望の歴史と新年の誓い

新年早々、素晴らしい本に出会いました。

ベストセラーのとなった「サピエンス全史」著者のユヴァル・ノア・ハラリ氏も「人間への見方が変わる」と推す、

「Humankind 希望の歴史 人類が良き未来をつくるための18章」ルトガー・ブレグマン著 

著者は膨大な調査検証によって、人間の本質は善であることの証明を試みています。

まず、人間は利己的で攻撃的な生き物であることを証明する過去の様々な心理学実験や報道の嘘を暴いていきます。

例えば有名な「スタンフォード監獄実験」

スタンフォード大学の地下室に監獄と同様の施設を用意し、被験者の学生を看守役と囚人役に分けて生活させる。囚人役は脱走を試み、看守役はこれを鎮圧して囚人役に虐待等の罰を与える。やがて実験は制御不能となり、突然中止されます。

人間の中には凶暴性が潜んでいる、という結論で多くの心理学のテキストに載っています。

著者はこの「スタンフォード監獄実験」は、実験者による捏造だったことを暴きます。

看守役は事前に準備されたシナリオに沿って行動し、ヒステリーを起こしたことで有名となった囚人役の学生は「試験勉強をしたかったから、解放されるためにヒステリーを演じた」と告白しているのです。

また、ニューヨーク郊外で起きた「キティ・ジェノヴィーズ事件」

帰宅途中の若い女性が暴漢に襲われ、悲鳴をあげる。38名の近隣の住民がその悲鳴を聞いていたのに誰一人警察に通報せず、彼女は死亡する。

「巻き込まれたくなかった」

「誰かが通報すると思った」

といった傍観者効果がマスコミによって提唱されました。

でも、この報道も捏造でした。

数人の住民は確実に彼女を救うために行動を起こしていた。

でも、その事実は報道されなかった。

ニューヨークタイムズ誌の記者は、なぜ真実を伝えなかったのかと問われて、

「そんなことをしたら、話が台無しになる」と言ったのです。

残虐なニュースの方が大衆に好まれるからです。

人間は危機の陥るとパニックとなって利己的な行動に走ると考えられがちです。

それは、捏造された心理学の実験や操作された報道によるもので、世の中には逆の事実の方が多いのです。

タイタニック号が沈んでいく時、乗客の心を鎮めるために音楽を奏で続けた楽団。人々は最後までパニックに陥ることなく、秩序正しく協力して避難しました。

9.11事件の時、人々は静かに協力しながら階段を降り、時には「お先にどうぞ」という言葉どおりの行動が多くの場所で見られました。

ハリケーンカトリーナに襲われ、壊滅状態となったニューオーリンズでは、数多くの略奪や暴行が報道されましたが、それらは全て勘違いや憶測の報道でした。

事実は、人々は助け合い、暴動も略奪も皆無でした。

東日本大震災の時、協力的に助けあった「日本人の美徳」は「人類の美徳」なのです。

なぜこれほど人間は利他的な生き物なのか?

それは進化の歴史によって説明できます。

人類は、20数万年の歴史のほとんどを、狩猟採集民として暮らしてきましたが、その中で集団間が争った痕跡は発見されていません。

動物を追いかける壁画はありますが、部族間の戦争を描いた壁画は皆無。

自然に任せたら人間は争いを嫌うのです。

戦争は文明と共に生まれた副作用なのです。

小さくて非力な人類が狩猟採集民として生き残るために必要な資質はチームワークでした。

チームで狩りをして、チームで子育てをする。

DNAとして共感ホルモンであるオキシトシンや幸せホルモンであるセロトニンを多く分泌するフレンドリーな人が生き残り、多くの子孫を残すことができました。

他人の痛みを理解できない利己的な人間は集団から追放され、孤立して生き絶えたのです。

ホモサピエンスがネアンデルタール人に優れていたのはこのフレンドリーさです。

数万年前の最後の氷河期をホモサピエンスはフレンドリーな資質からくる協力によって乗り越えることができました。

人間は小さくて弱かったが、誰かが生み出した優れた知識や技術を多くの人々と共有することで困難を克服したのです。

ネアンデルタール人は人間よりも脳も身体も大きかったけども、誰かの生み出した技術を伝播することができず、力尽きました。

ホモサピエンスをここまで繁栄させたのは利己的だけど時に利他的なこのフレンドリーな性格なのです。

生命の危機といった場面でも人間は利他的な行動をとるのに、なぜ、「人間は利己的な生き物」という考え方の方が社会の大勢なのでしょうか?

答えは、その方が為政者にとって都合が良いからです。

トーマス・ホッブスは自然に任せれば「万人の万人に対する闘争」となると説きました。

この主張が、君主の専制を許し、私的所有権を認める論拠となりました。

これは、現代の政治家にとっても企業の経営者にとっても都合良い考え方です。

人間は争いを好まない。自然に任せれば、人々は協力しあい、助け合う。そんな利他的な人間観を前提としたら、政治家も経営者も不要となってしまいます。

さらに、経済学者は利己的な人間行動を前提として経済理論を構築し、貪欲な資本主義を擁護します。

経済学を学ぶ学生は、学べば学ぶほど、次第に利己的になっていきます。

社会の仕組みや、制度設計の前提理論が利己的な人間観を涵養(かんよう)してしまうのです。

利己的な人間が競い合って経済発展をもたらし、世界から飢餓を減少させました。

一方で、格差や気候変動等の多くの問題も生み出してしまいました。

これからは人間の善い側面である利他性を喚起させることが重要です。

社会的意義を重視する若者たちの出現は一つの希望です。

そして私たち、一人ひとりの努力も重要です。

著者が引用した、インターネット上に流布する作者不明の寓話です。

おじいさんが孫の男の子に語ってきかせた。

「わしの心の中にはオオカミが2匹住んでいる。この2匹はいつも激しく戦っている。1匹は悪いオオカミだ。短気で欲張りで嫉妬ぶかく、傲慢で、臆病だ。もう1匹は善いオオカミだ。平和を好み、謙虚で、愛情ぶかく、寛大で、正直で、信頼できる。この二匹は、お前の心の中でも、他の全ての人の心の中でも戦っているのだよ」

孫は少し考えてから尋ねた。

「どっちのオオカミが勝つの?」

老人は微笑んでこう答えた。

「それは、おまえが餌を与えた方だ」

私たちは人の中の善いオオカミを育てるお手伝いができます。

心理学者のローゼンタールが発見した「ピグマリオン効果」です。

ローゼンタールがある小学校に招かれて行なった実験です。

簡単な知能テストを行なった後、その結果も見ずにコイントスで抽出した適当なリストを作り、教師に「次の1年間で一番成績が伸びる子供たちのリストです」と告げて渡すと、実際にその子供たちの成績が飛躍的に伸びたのです。

人は、影響力のある人が信じた通りの人間に成長します。

私たちが、子供や同僚に描いた理想が実現するのです。

良い本に出会い、素晴らしい新年の誓いをいただきました。


株式会社ワークハピネスは人材育成研修・組織開発コンサルティングを通して
人と企業の「変わりたい」を支援し、変化に強い企業文化をつくる支援をしています。 
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この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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