人を育てる

2019.11.19

「なぜ人は判断を誤るのか?」〜身体感覚から見た人材育成〜

VUCAワールド~意思決定が困難な時代へ


昨今、ビジネス界はVUCAワールドと言われています。変化が激しく(Volatility)、不確実(Uncertainty)で複雑(Complexity)で不透明な(Ambiguity)な世界では、未来が確実に予想でき、線形的な成長を遂げてきた過去の世界と比べて、より意思決定が困難になってきています。

VUCAワールドの時代では論理分析だけで意思決定しようとすると、過去の成功パターンにとらわれたり、多くの意思決定の選択肢がうまれ、的確な判断ができなくなったりすることがあります。

意思決定において感情や感覚は論理的な判断にとって邪魔な存在とされてきましたが、脳科学の研究では意思決定には感情や身体感覚が重要であると研究されています。本稿では、脳科学の理論であるソマティック・マーカー仮説から、「人(組織)が正しい判断をするにはどうすればいいか」について触れていきたいと思います。

論理では適正な意思決定ができない!?

ポルトガルの脳科学者アントニオ・ダマシオは、患者の脳腫瘍を除去する際に、眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)の大部分を除去する手術を行いました。

その手術は成功しましたが、その後患者は今まで通りの行動ができなくなくなり、同じミスを繰り返したり、意思決定ができなくなったりしました。その後の研究で眼窩前頭皮質「過去の経験によって生まれた情動(身体感覚)・感情を記憶する部分」だとわかったのです。

人は経験や体験をすると、快や不快の情動が生まれ、感情が沸き起こり、その感覚が記憶さることでその後の判断の軸になっていきます。

ソマティック・マーカー仮説とは?

ソマティック・マーカー仮説とは、「ある経験に対する快不快の感覚を記憶し、それを感情に表出させることで意思決定を効率化させているという理論」です。

例えば、人が何かを実行しようと思ったとき、1つの決断であっても選択肢は膨大にあります。そこで、人はどういう判断をしていくのでしょうか。

それは、自分が体験した過去の同じような状況時に、快不快の「(身体)感覚」を呼び起こし、そのときの「感情」を表出させることで、優先順位をつけ、選択肢を限定させて、その中から意思決定をすることで効率化を図っていくのです。

ソマティック・マーカー仮説からわかることは、「合理的な判断には身体感覚や感情が不可欠」だということです。ものごとを合理的に判断する前に、身体感覚や感情によって、意思決定の判断軸をつけているのです。
先ほどの患者の例は手術によって論理的な思考ができなくなったわけではなく、情動や感情の記憶が失われたことによって、意思決定の選択肢が絞りこめなくなり、適切な判断ができなくなったというわけです。

身体感覚を活かすには?

現在のビジネス界は論理分析の左脳偏重の傾向があり、身体感覚や感情は判断を誤らせるものと捉えられてきましたが、ソマティック・マーカー仮説によるとその感覚・感情こそが“正しい判断”にとって重要なのではないでしょうか。

そんな身体感覚をビジネスに活かすために、自分の内面を見つめるマインドフルネスが注目されています。現在マインドフルネスは大変流行していますが、意思決定が困難となったVUCAワールドへの変化とともに自ずと必要性が出てきたのではないでしょうか。

マインドフルネス状態に導くための瞑想法・呼吸法などがあります。マインドフルネスは感情を抑制したり、コントロールすると思われがちですが、そうではありません。マインドフルネスのキモは「今ここで感じていることをしっかり感じ取り、受け止めること」です。

そうすることで感情を俯瞰することができ、“感情的に振り回された意思決定”でなく、“感情に基づいた客観的な意思決定”ができるようになります。

■生命科学セミナー
WHIでは生命科学の視点から人材育成をより効果的なものにするため日々研究しています。現在、「生命科学×人材育成」というテーマでセミナーを開催しています。

次回開催のセミナー「なぜ人は判断を誤るのか〜身体感覚から見た人材育成〜」では、本稿で触れた意思決定・身体感覚・ソマティックマーカー・マインドフルネスなどについて生命科学のエッセンスを交え、より現場で実践できる内容を皆さんに提供できればと思います。ぜひお越しください。

■Vol.3 なぜ人は判断を誤るのか 〜身体感覚から見た人材育成〜

■Vol.4 なぜ人は環境に影響されるのか 〜遺伝子から見た人材育成〜

この記事を書いた人この記事を書いた人

鈴木泰平

千葉県鎌ケ谷市出身。東京理科大学・生物工学科に入学。分子生物学やタンパク質工学、エピジェネティックスなど生命科学を幅広く学ぶ。「研究者になりたい」という志を持って入学したが、研究室の雰囲気の悪さから研究へのモチベーションが無くなる。また同大学アメフト部での活動の中、チームの雰囲気の良さによって個人のパフォーマンスやチームのモメンタム(流れや勢い)が大きく変わることを体感。
「人は場の雰囲気や風土に大きく影響される」ということを強く実感し、組織開発に興味を持つ。その後ワークハピネスに参画。自身のテーマは「生命の原理原則に基づいた人材育成」「場に命を与える組織開発」であり、実践のために日々探求している。現在、心(マインド)、頭(スキル)、体(フィジカル)を総合的に育成する新規プロジェクト「心技体開発」を立ち上げ、活動中。

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