幸福学の観点から経営を語る 慶應義塾大学大学院SDM研究科教授 前野隆司さん
対談インタビュー

幸福学の観点から経営を語る 慶應義塾大学大学院SDM研究科教授 前野隆司さん

 今回のリーダーズインタビューは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授前野隆司さんです。

ヒューマンロボットインタラクション、ハプティックインタフェース、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学から、地域活性化、イノベーション教育学、創造学、幸福学まで幅広い研究をされている前野さんに“ダイバーシティ”の本質を解いていただきました。“安心安全な幸せのエネルギー”に溢れる前野さんからのお話は、わかりやすく本質的であり、これからの時代に必要な要素が”ギュッ”と詰まっています!

インタビュアー岩波
前野さんの執筆された「幸せのメカニズム」拝見しました。とにかく今の時代に必要なことが凝縮されており、多くの皆さんに読んでいただきたいと心から思いました。前野さんは最近、講演される機会も多いですね。

前野
ありがとうございます。イベントに呼んでいただくことも多く、おかげさまで忙しくさせていただいています。でも、そのため圧倒的に”考える時間”が足りなくなっていると感じるんですよね。常に学び、考え続ける時間は自分で創りたいと思っています。

岩波
“常に学び、考え続ける“前野さんのそのお考え、今の時代で改めて求められていることかも知れませんね。特に、前野さんが研究されている“幸せ”について考える続けることの大切さに改めて気づきはじめている方々が増えている気がします。個々それぞれがしっかりと自分で自分の人生を生きる時代に入ってきていますよね。まさに、ダイバーシティの時代ですよね。

前野
そうですね。 私は、2008年くらいから、“幸せ”についての研究を本格的にスタートしました。きっかけは、私の学生の論文「幸せとダイバーシティ」というテーマの研究でした。結論は、シンプルにお伝えすると、「知り合いの数よりも知り合いが多様な仲間であるほうが幸せ」というものでした。

同じタイミングで、京都大学の内田由紀子さんが、「多様性の高い集団のほうが幸せであり、サステナブルである」という研究結果をだされていました。

私はイノベーションの研究もしているのですが、その研究では「多様性の高いチームのほうが多様な意見が出る」という結果がでています。多様性の高いチームは馬鹿げたくだらないアイデアも出るのでアイデアの平均値は下がりますが、ぶっ飛んだすばらしいアイデアもでる!

一方、そうでないチームの方は、そこそこの粒ぞろいのアイデアがでる。つまり、多様なチームはハイリスク、ハイリターンなんです。なによりも多様なチームのほうが圧倒的に楽しいし、これこそイノベーションの源泉であると感じています。

岩波
多様な仲間がいることは幸せであり、サステナブルであり、イノベーティブであり楽しいのですね。多様性の高い集団には、確かに前野さんがおっしゃる幸せの4つの因子が存在しやすい状況であるように思います。

幸せの4つの因子

前野
そうですね。幸せには4つの因子があります。

1.「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
  ・自分の強みを活かせているのか?(コンピテンス)
  ・社会の役に立っているのか?(社会の要請)
  ・自分が成長している実感はあるのか?(個人的成長)
  ・なりたい自分になれているのか?(自己実現)

2.「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
  ・人を喜ばせているか?(人を喜ばせる)
  ・自分を大事にしてくれる人がいるか?(愛情)
  ・感謝することはたくさんあるのか?(感謝)
  ・人に親切にしているのか?(親切)

3.「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
  ・物事が思い通りに行くと思っているか?(楽観性)
  ・失敗や不安をあまり引きずらないか?(気持ちの切り替え)
  ・友人との良い関係を維持できるか?(積極的な対人関係)
  ・人生で多くの成果を残してきたと思えるか?(自己受容)

4.「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)
  ・自分と他人を比べずに生きているか?(社会的比較志向のなさ)
  ・他人や環境のせいにしていないか??(制約の知覚のなさ)
  ・自分についての信念は明確であるか?(自己概念の明確傾向)
  ・今の自分を満喫しているか?(最大効果の追求)

多様性の高いイノベーティブなチームとは、それぞれのメンバーが、この4つの要素をうまく生かしている状態とも言えると思います。決められた”枠”が存在すると競争が生まれます。「あなたらしく!やってみよう、なんとかなるさ!」でブルーオーシャンに出て行ったほうが精神衛生上とてもよい。

例えば、既存のスポーツの過酷な競争で敗れるより、新しいスポーツを創って1位になることのほうが、みんな幸せですよね。みんながそれぞれの領域で1位になれば良い。その状態であれば、お互いがお互いを尊重することができる。
そもそも競争する=戦うということは“幸せ”を生みませんからね。勝っても、その幸せは長続きしませんし、負けると悔しいですし。

現在の競争原理至上主義の企業活動の変革に必要なこと

岩波
「あなたらしく!ありがとう!」を感じながら、「なんとかなる!やってみよう!」がベースにあれば、競争はなくなりますよね。近年、競争原理がベースにある企業活動に限界が来ているという感じがしています。企業で働く人たちが幸せを感じられていないと思います。

前野
特に大企業が幸せではないですよね。合理主義で効率的に、画一的に、マスに戦っていこうというやりかたに、そもそも限界が来ていると私も思います。これは企業活動だけではありません。官僚も、大学も、医療でも、宗教でも、同様のことが起こり始めていると思います。

競争原理により生み出されるのは個別化孤立化孤立化幸せでなくなるという構図です。

でも、それと同時にですが、そういう世の中を良い意味で壊そうとする方々が”つながり”始めてきているとも感じます。私たちもそうであるように、”共感の和”が広まりつつあるのを感じます。

岩波
本当にそうですね。経済合理の説得ではなく、“自分の感覚に従っていく”世の中になりつつあるのを感じます。自分の感覚・感性にしたがって行動を起こす方々がつながってきていますよね。

前野
“幸せ”を広めていくということは、本質的には、今までの当たり前に対し、全面的に根底から疑問を呈すことになるので、なかなか難しいですよね。特に、経済合理、競争原理の土台で成り立っている特に大企業に対して、根底から疑問を呈されているワークハピネスは一番難しいことに挑んでいる気がしますが、いわゆる“がんじがらめ”の企業をどのように変革されているのですか?

岩波
前野さんにインタビュー頂いてしまいました。ありがとうございます。前野さんが先ほどおっしゃっていましたが、大企業の中でも”なにか違う”と感じている方々は経営者を含めて実はかなりのパーセンテージでいらっしゃいます。そこに火をつけていきます。

まずは、経営者の変革意欲に火をつける。私たちの考えをお伝えし、それをまずは創発することが大切だと考えています。
次に、いわゆる時代の変化に気づいて「なんか少し違うな」と感じている社員の方々を見つけだし、見つけたら会いに行って直感的にわかりあえるかどうか、直接の対話をします。
そして、その方々が何に違和感を感じ、本当はどうすればいいと感じているのか、その感覚を引き出し、彼らの変革への想いに火をつけていきます。
例えば、組織図や過去のルールなど、組織内を分断するものについて、もう一度その存在意義を問うてみる。そうすると、作った当時は意義があったものが、今は弊害しか産んでいないといったことがたくさんあるんですよね。

私たちはこういう活動を通して、いろいろ“感じている“方々をつなげていく。そういう方々の変革への想いに火をつけ、分かり合える仲間をつないでいくこと、これこそが組織を新たな方向に変革するために最も大事なことだと感じています。

実はこのリーダーズインタビューも世の中を良い方向に変えていくためのつながりを生み出していく活動の1つです。時代を動かしているリーダーたちの想いとつながり、共感し、それを力に変えていきたいと思っています。

前野
何かを“感じている“人たちも、それは潜在的なものであり、実は自分たち本人では意識化できていないことも多いですよね。それにまずは気づかせ、火をつけるのが対話なんでしょうね?そして、それぞれがつながっていく中で社内プロジェクトを起こして、その人達の想いを形にしていくんですね。

まさに、“チャッカマン集団”=ワークハピネス!

岩波
“チャッカマン集団”いいですね!その通りです。火をつけても、やはりいつもどおりの日常に戻れば、その火は消えてしまいます。ですので、できるだけ多くの種火をつけること、そして、定期的にそれぞれに着火していくこと、が大切です。それを繰り返して、2〜3年たてばその火種は大きな火となり、組織を変えていく原動力に間違いなくなっていくと確信しています。

前野
「地域コ・クリエーション研究」をされている三田愛さんも「私たちは湿った木に火をつけていくことが使命。それをつなげていくことが大切」とおっしゃっていましたが、まさに同じですね。

岩波
同じですね!「コ・クリエーション=共創」。まさに競争から共創の時代になりましたよね。個の時代に入ったこれからの時代。際立った個が互いにつながって生み出される活動が増えてきています。これからの時代、大企業が実はそんなに必要ではなくなってくるのではないかと正直感じています。

前野
そもそも大手企業に就職する学生は少しずつ減ってきていますね。優秀な学生であればあるほど、名の知られていないベンチャーに入社したり、自分で起業する傾向が、強まってきていると思います。徐々に”そういう世の中”になってきているけれど、まだまだ少数派であるとは感じますね。今でも、大企業のほうが安定していて高収入な傾向はあります。

高収入だから幸せってわけじゃないですが、自立するためには、それなりの収入が必要であることは無視できませんからね。

経済全体として、個それぞれが自立していく世の中になるためには、今の“大企業”に代わる傘、つまり社会の仕組みとしてネットワーキング活動を推進していく必要があると感じています。

岩波
海外では、すでに個人同士をつなぐ仕組みがでてきていますよね。AirbnbやUberなど、より個の時代が加速する時代に入っていく流れになっていますよね。

前野
もともとアメリカの学生たちの就職観からすると、大企業は最後の選択肢だった。日本も、徐々にその感覚に近づいてきているように思います。でも、私は思うのですが、単なる“個人主義”という形でアメリカの状態に近づくのではなく、いわゆる、日本ならではの“温かみ”のある形で流れを作っていきたいですね。

「本当に困った時にあなたを助けてくれる人の数は?」
ある方がこんなアンケートをブータンの人にとったところ、なんと平均50人だったという結果があります。今の日本で同じアンケートを取ったとしたら、ほんの数人ではないでしょうか。

そもそもの日本の村社会は、例えば「あそこの誰々さんが病気だから助けよう」というブータンのような助け合いの精神、文化で支えられていたはずですよね。それが安心安全を生み、互いに与え合っていた。

日本には、そういう精神、文化=土壌がそもそもある。これからの時代、“シェアリングの安心感を制度でどう作るか?”、これを“日本だからできる施策”として考えていきたいですよね。過去の農村時代では実現できていた。ではインターネット時代でどう実現していくのか?これが鍵ですよね。

岩波
今の企業では「助け合い」とは真逆のことが起きていますね。いわゆる、セクショナリズムです。昔の”右肩上がりの経済成長”時代にも「ここからここまでは私がやる。だからここからはお願いしたい。」という互いに支え合う文化があったように思います。

確実な成長が見えない今の時代はというと、「私がやることは、ここからここまで。ここからは範囲外」責任回避という助け合い、支え合いとは真逆の方向に行っている気がしますね。

前野
私がキヤノンにいたころには、残業規制もゆるかったし、残業の意識もあまりなかった。誰ともなく残って好きなことをやっていた。遊びながら変なことをやっていましたね。効率的な経営を進めて管理が進むと「遊び」がなくなってくる。管理が進むことによって生まれた「労働は苦役なり」という“労働”概念がそもそも現状を引き起こしてる気がします。

「楽しいことしているのが仕事」である。まさにワークハピネス!この労働観を大企業でどう取り戻していくか?これは大きな課題ですね。

私がお会いする方々で個人事業主や、小さい会社の経営者、地域活性化に燃えている人たちは本当にイキイキしてる。そのイキイキな感じは大企業の方々からは残念ながら感じないことが多いです。大企業の“本来イキイキ人材でありたい”方々にどう火をつけていくか?ですね。

岩波
はい、おっしゃるとおりです。 大企業で如何に“場”を創り、良質なエネルギーをどう流していくか?が大切だと思っています。今の大企業には、“分断”によってエネルギーがうまく流れていないことが多いです。そして、それに対して、いわゆる“西洋医学的な処置”を行ったことによって、“薬に依存的になってしまった重病患者”がさらに薬に依存している状態が続いている気がしています。

西洋医学的処置は短期的には効果が見えやすいですが、根本的な治療にはならない。人間の免疫力、そもそも人間が大切にしたいものが棄損されているんです。人間が本来持つ力を高めるためには長期的で東洋医学的な調和をする処置が必要なんですよね。ただ、短期的な成果を求められる企業活動において、そこに投資をする大手企業はごく少数なのが事実です。

前野
薬に依存した重病人に、東洋医学の思想を語ったところで厳しいですもんね。イキイキと仕事しているかどうかは、薬と違って短期的に効果が見えにくいですからね。

しかし、人間が本来持つ力が経営においてどれだけ大切なものであるか?研究が進んでいて、幸せに働くことの重要性が明らかにされるのもそんなに遠くない未来であるように思いますね。科学技術やインターネットなど、西洋的な科学技術を使いながら、全体的なシステムに還元していくことがこれからとても大切になっていくと思います。

岩波
そうですね。 インターネットを活用し、まずは一般大衆の意識を変えていくことが世の中の変化を早める鍵なのかもしれませんね。一般大衆が、企業活動を評価できるようになれば、確実に購買意識に変化が起きる。そうすれば、企業も変化することから目を向けずにはいられなくなる。

これからの時代に必要なことは幸せの原理原則。「自分を信じ、互いに信じあい、愛しあうこと」、「みんななかよく2.0」この原理原則を広げていくためには?

前野
幸福学をやっていて、思うことなのですが、幸福学の原理は、実に簡単です。自己肯定感他者肯定感。これだけです。これが両立すれば世の中は幸せになる。こんなにシンプルなことなのに、広めるのが本当に難しいということです。

自分のダメなところ含めてすべて自分なんだ、大丈夫、という意識をそれぞれが持つこと。そして、そういう個々が互いに信頼しあって愛し合っていれば幸せな社会は実現するんです。
人間は本来、その必要性を知って生まれてきているはずなのですが、現代社会では、競争原理に基づいた“常識”が価値観となり、根強く張り巡らされていて、そこから抜けられなくなっている。そこを“突破”していくことが本当に難しいと感じています。

岩波
本当にそう思います。ところで、前野先生はもともと理系でいらっしゃいますよね?なぜ、”幸福“に興味を持たれたんですか?

前野
実は、もともと興味があった分野ではありました。哲学、芸術。全体としてものごとを理解する、ということをやりたいと学生のころから思っていました。ただ、数学、理科が得意だった。だから理系にすすみ、メーカーに入りエンジニアになりました。

でも、全体のことをやりたいという思い強く残っていました。ですので、大学に戻って戦略的にロボット研究を選択しました。ロボットは心が持てるのか?を探求し、自然に“人間という存在の探求”に入っていくために。その後、慶応に文理融合の大学院ができた2008年に、真っ先に手を上げ、今ここにいます。

今思うのは、科学技術から学びを重ね、“しっかり”と“ゆっくり”と学びを積み重ねてここに到着してよかったということです。科学技術の領域からここにたどり着いているので、多くのことは科学技術の言葉で説明できるんです。

例えば“引き寄せの法則”というのがあります。これはスピリチュアルでもなんでもないんです。目標を常に“意識”していたら、“無意識”の領域にまで到達し、無意識が動かされ、実現する方向に動く。脳科学と心理学の領域できちんと説明ができます。

歴史のための自分の使命は、スピリチュアルないしは怪しいと敬遠されがちな“幸福”というものを、科学的に客観的に整理して、人に伝わりやすくしていくことなんだと最近感じています。ゆっくりと“天命”に辿り着きました。

毎日いろんなところでお話をして徐々に広まってきていることは本当に嬉しいですし、感謝しています。でも歩みがとてもゆっくりなんですよね。もう少し早めに広げていきたいと思っています。“幸せとは?”を10万人しか知らないのはもったいない。70億人にまで広げていきたいですね。

岩波
多くの皆さんが形は違えど「幸せ」に向けて動きはじめていらっしゃると感じます。

前野
はい。みんなが本気でやれば、絶対に広がってくると思っています。みんなが本気でやっていくことが大切ですね。

でもお恥ずかしい話、本気でやりたいと思っていても、目の前のやるべきことに追われる自分がいます。今、世の中の流れを変えていこうと考えている方々の多くがそんな状況にあるのではないかと思います。言い訳しないで本気でやらなきゃダメですね。今、自分にそう言い聞かせています。

岩波
「幸せについて」。普通にこういう話題で話ができるようになってきたことに時代の変化を感じますよね。チャンスが早すぎず、遅すぎず、時代の流れに乗って来ている気がしますね。

前野
僕は科学が宗教を越える時がきたと思っているんです。幸せのメカニズムは「自分を愛して世界を愛せばみんな幸せになる。」ということ。様々な学問を統合するとシンプルにこれがメッセージになる。これを科学的に探求し明確にすることのできる時代に入ってきたと思います。

岩波
前野先生は今後どのあたりの研究分野を深めていきたいと思われますか?

前野
想いをともにする多くの方々と連携して、あらゆる学問を整理して、幸せな世界を広めるための方法論を学問にしていきたいと思っています。

「幸せのメカニズム」を「探求し、理解する」というフェーズから「広めるフェーズ」に移ってきていることを自分自身で感じています。
また“分析”的研究もより”実践”的研究のほうに興味がシフトしてきています。「ハッピーワークショップ」というものを展開していて、より実践の研究に興味をシフトしています。
いずれにしても、目標を細かく設定する目標管理型は従来型ですよね。そうではなく、感性にしたがって、多くの出会いをし、その中で本気でやっていくことで、方向性は見えてくると感じています。

岩波
私たちも同じ感覚です。目標=ビジョン作っても、どうなるかわからない時代になってきています。むしろ、その目標に縛られることすら起こる可能性もあります。

多くの経営者から怒られるかもしれませんが、企業において目標もいらないのではないかと感じるときもあります。目標のみに縛られ本来の目的を見失っているような時、多くの方々はちゃんと違和感を感じている。その感覚に従って行動すればいいだけなのではないか?と。
前野先生の著書で印象に残っているのは、「意識は記憶で自分の存在を感じるための記憶の媒介でしかない」という言葉です。すべて無意識が決めている。本当にその通りだと感じました。

前野
受動意識仮説
ですね。学生と行う研究としてはロボットの研究をしながら、個人としては思索を重ねた結果たどり着いた仮説です。哲学者がやるような研究をしていくことで至った結論です。このような、本来わかりにくい内容を、わかりやすく説明していくことが大切だと考えているのです。

人々の心理を踏まえて、いかに伝わるように伝えるか?
経済合理性と幸せの関係をいかに紐解くか?

従来の考え方はだめでこっちがよい!というのではなく、また従来の考え方すべてを壊すのではなく、自然な変化の流れを作ることが大切だと思っています。

従来は“革命“と言う形で変化が起こってきましたが、“幸せ革命”で不幸せな人が増えてしまうというのは本末転倒で、本質ではないですからね。

先程も申し上げましたが、「互いに信じあい愛しあえばいい」。とてもシンプルなことなんです。でもこれは実現不可能な理想だと思われる方が多い。その理想に皆が合意した瞬間に実現すると私は思うのですが。

世の中で多く起こっている争いによる”摩擦のエネルギー”が本当にもったいないと思うのです。100%互いを信頼しあえば争いは起きないはずですよね。

例えば、企業の中では、争いやその調整で9割ぐらいのエネルギーが浪費されているイメージがあります。機械工学の視点でも”摩擦”は無駄なエネルギーを消耗することが知られています。そして、摩擦により疲労、破壊が起こる・・・。人間でいえば、心身ともに疲労してしまうということですよね。

岩波
そういうことですよね。 今、世界経済が全体的に停滞しつつあります。GDPをどう伸ばすか?ということではなくなってきていると感じています。現代の枠組みでGDPを伸ばすためには人間や自然に負荷をかける成長しか見えない・・。

今までの社会において「競争して勝つことがよい」ことを教育され、競争で勝って褒められるとそれが”快”となり、行動の基盤となる価値観に刻み込まれる。そうすることで、競争が世の中のベースの価値観となり、「競争に勝った強者=富を支配している人」が現れ、強者が支配しやすい流れがますます加速していく。そこでたどり着いたのが今の状態なのではないかと思うのです。

前野
そういう意味で教育の果たす役割は大きいですね。
私は、子供達の義務教育に“幸福学”をいれたい!大学の必須科目にもいれたい!と考えています。教育の改革も難しい領域だと思いますが、だからこそチャレンジしていきたいと思います。

改めて話をしながら思うことですが、日本がこれからの時代、果たすべき役割が確実にあると思うのです。私たちが小学校だった時に、「みんななかよく」と教室に貼ってありましたよね?
“みんななかよく知恵を出せば”よいのです。シンプルなことですよね。日本では小さい頃からみんなが知っていることです。欧米の教育は「みんななかよく」ではなく、「ひとはそれぞれ」ですよね。

岩波
実は私たちは「ダイバーシティ」や「チームビルディング」事業を展開しています。「ひとはそれぞれ&みんななかよく」の実現を狙っています。組織も多様な人がたくさんいて共同意識をもって一体感をもって働くことががまさしく“ワークハピネス”なのではないかと思っています。それが、新たな価値を創造するイノベーションの源泉になるとも思っています。

前野
そうか!”みんななかよく2.0”ですね。昔の日本では、”みんななかよく、均一に”でした。これが日本の村社会の問題でもありましたよね。その日本の村意識に欧米の“みんなそれぞれ=ダイバーシティ”を入れると多様な人が生き生きしあうことでイノベーションも起きる。「みんななかよく2.0」なんだな〜。新しいキーワードが出てきました。

岩波
「みんななかよく2.0」まさにこれです!ところで、前野先生はこれからどんな世の中にしていきたいとお考えですか?

前野
今まで話してきたことそのものですね。小学校では「みんななかよく」を習っているはずなのに、社会にでていくと極端な競争原理に流されてしまう。

それが過去から積み上げられた巨大な仕組み過ぎて逃れられなくなってしまっているんですよね。違和感を感じている人たちが出てきているからこそ、それぞれがそれぞれ本当にやりたいことにちゃんと気づいて尊敬しあって助け合う社会を実現したい。まさに、「みんななかよく2.0」を実現したいですね。

岩波
私たちも「わたしたちらしく」「ありがとう」を忘れずに「なんとかなる」「やってみよう」を意識して、本気で「みんななかよく2.0」に取り組んでいきたいと思います!前野先生ご自身がまさにこの“幸せの4因子”を体現されている、そのエネルギーを頂きました。前野先生、暖かく明快なお話本当にありがとうございました!

最後にワークハピネスに対する期待をお聞かせいただけますか?

前野
素晴らしい活動だと思います。だからうまく拡大していって欲しい!exponential(指数的)な伸びを創りだしていって欲しいです!

1つの種火だけだとさほど燃えなくても、5つ集まればそれなりの火力になる。ここから”種火”をたくさんつけて、どう広げていくか。そのための知恵を絞る。多様な方とつながり”しぼるための多様な知恵”を集める。多様な知恵が集まればそこで起こる化学反応も多様なものになり、それが世の中にパラダイムシフトを起こすエネルギーになると思います。

私も自分の活動を広めていくためにいろいろ考えているところです。一緒にパラダイムシフト起こしていきましょう!

■前野隆司プロフィール
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年山口生まれ。広島育ち。84年東工大卒。86年東工大修士課程修了。
キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。2011年より同研究科委員長兼任。
研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、ハプティックインタフェース、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学から、地域活性化、イノベーション教育学、創造学、幸福学まで。
主宰するヒューマンラボ(ヒューマンシステムデザイン研究室)では、人間にかかわる研究なら何でもする、というスタンスで、様々な研究・教育活動を行っている。また、所属する文理融合の大学院SDM研究科では、環境共生・安全などの社会的価値を考慮した様々なシステムのデザインに関する研究・教育を行っている。


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