「なぜ人と信頼関係が築けないのか?」〜ホルモンから見た人材育成〜オキシトシン
組織には、社員の信頼関係が厚くて意欲的に働く組織と、そうでない組織があります。
人材&組織開発分野で注目されているエンゲージメントは、この組織内の信頼関係があらわす重要な指標と言われており、今、組織の業績に関連があるということが注目されています。
そこで、今回はその「信頼関係」について、人材育成にヒントとなる内容をお伝えしたいと思います。
世界で比べても低い日本企業のエンゲージメント?!
アメリカのギャラップ社の調査では、日本では、企業へのエンゲージメントが高い「熱意あふれる社員(Engaged)」は6%のみで、アメリカの31%と比べて大幅に低い数値でした。その割合は、調査参加国139ヶ国中132位という結果でした。
●「熱意あふれる社員」の割合
エンゲージメントが高い企業を業績もいい??
別調査では、「エンゲージメントが高い企業は業績も高くなる」という調査があります。
世界的なトップ企業といわれる、グローバル50企業(グローバル40企業)の調査で、従業員のエンゲージメントが高い企業と、低い企業に分けて、業績の12ヶ月間(3年間)の変化を調べました。すると、エンゲージメントの高低で、大きな差が出ました。
●従業員のエンゲージメントの高さと企業業績の関係
「社員のエンゲージメントが低い」「離職が止まらない」「生き生きと働く社員が少ない」というお声をよく聞きます。では、その課題にどのように取り組めば良いのでしょうか。
そこで、本項ではエンゲージメントに大きく影響を与えると言われる「信頼」について、信頼のホルモンと言われるオキシトシンから紐解いていきます。
信頼のホルモン:オキシトシンとは?
オキシトシンとは、もともと、脳下垂体後葉から分泌される、授乳や出産に関与するホルモンであることが知られていましたが、現在では人間関係・絆の形成、精神の安定、共感力の強化など様々な作用を持つ「生理活性物質」であるとわかってきました。
オキシトシンと信頼の関係:「信頼ゲーム」の実験
オキシトシンと信頼の関係について、1990年代半ばに行われた「信頼ゲーム」という実験から様々な示唆が得られました。
実験ではまず見知らぬ被験者2人1組(仮にA、Bとする)を作り、それぞれに10ドル持たせる。被験者Aはコンピューターの指示でその10ドルのうち幾らかを被験者Bに送金するように指示が出る。その際、被験者Bには被験者Aが設定した金額の3倍が振り込まれるようになっている(例えばAがBに3ドル送金した時、Bには3倍の9ドルが送金され、A:7ドル、B:19ドルとなる)。
その後、BはAにいくらか金額を戻すことを指示される。この時、戻す金額は自由であり、全く返さなくてもよい。この一連の金銭のやり取りの中で血液を採取し、オキシトシン濃度を測ったところ、多く送金、または返金した被験者の方がオキシトシン濃度が高く、少なく送金した、もしくは返金した被験者の方がオキシトシン濃度が低いことがわかった。また、オキシトシンを経鼻スプレーで吸入した後に同じ実験をしたところ、送金額、返金額ともに上昇したことがわかった。
●オキシトシンによる信頼関係の影響
このことより、道徳的行動や信頼関係とオキシトシンには大きな相関関係があることがわかりました。
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オキシトシンと信頼関係、エンゲージメント
哺乳類は他の種の動物と違い、生まれた瞬間はとても弱い状態で生まれてきます。そのため自身を守るために他者(母親や家族)との絆を形成することが非常に重要で,その役目を担うホルモンと言われています。
また、オキシトシンは見えないものへの“絆”や“信頼“を築くことにも一役を担います。例えば宗教への信仰や土地への愛情もオキシトシンと相関関係があると言われます。つまり、オキシトシンが多く分泌されている状態であると従業員同士の信頼関係だけでなく、企業理念への繋がりや共感、組織へのエンゲージメントが高まることが示唆されます。
オキシトシンを得るためには?
オキシトシンの分泌には「触れ合い」が重要です。「触れ合い」とは身体的な接触もそうですが、「感情を共有する」「賞賛し合う」など心の触れ合いでも分泌されます。他にも目を合わせる、一緒に食事をとるなどでもオキシトシンは分泌されます。IT化、テレワークが進むビジネス界において、その触れ合いは案外忘れられている視点ではないでしょうか。
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千葉県鎌ケ谷市出身。東京理科大学・生物工学科に入学。分子生物学やタンパク質工学、エピジェネティックスなど生命科学を幅広く学ぶ。「研究者になりたい」という志を持って入学したが、研究室の雰囲気の悪さから研究へのモチベーションが無くなる。また同大学アメフト部での活動の中、チームの雰囲気の良さによって個人のパフォーマンスやチームのモメンタム(流れや勢い)が大きく変わることを体感。
「人は場の雰囲気や風土に大きく影響される」ということを強く実感し、組織開発に興味を持つ。その後ワークハピネスに参画。自身のテーマは「生命の原理原則に基づいた人材育成」「場に命を与える組織開発」であり、実践のために日々探求している。現在、心(マインド)、頭(スキル)、体(フィジカル)を総合的に育成する新規プロジェクト「心技体開発」を立ち上げ、活動中。