さらば「坂の上の雲」
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さらば「坂の上の雲」

前回のブログ述べた通り、この夏休み家族で吉村家のルーツを辿る旅を敢行。山口県の萩から防府を巡りました。

旅の目的を達成した勢いでそのままレンタカーを駆って四国の松山、そして道後温泉を目指しました。

松山と言えば、夏目漱石の「坊ちゃん」の舞台。そして、日露戦争を描いた司馬遼太郎の傑作「坂の上の雲」の主人公である、騎兵隊の創始者である秋山好古、その弟で日本海海戦を成功に導いた海軍参謀秋山真之、そして日本に俳句を確立させた正岡子規という3人の主人公の出身地です。その功績を讃えて松山には「坂の上の雲ミュージアム」があります。

道中、レンタカーを運転しながら、中三の息子と高二の娘に日露戦争の話をします。

公認会計士をやっていた20代の中頃、私は社命により短期間のイギリス語学留学を経験します。

そこにはヨーロッパ各地の非英語圏のPwCのマネージャー達が集まっていました。

私、英語は大の苦手。

クラス初日、東洋人は私一人。

ドイツ、スペイン、ルーマニア、スロバキア等々、多くの白人に囲まれてとってもアウェイな雰囲気。

小テーブルでの自己紹介で、隣のドイツ人から「あなたの英語は発音が悪くて何を言っているのか分からない」と冷酷な指摘。

日本の事務所でドイツ人と会話したつもりになっていた私は大ショック。

この先の長い日程に暗雲が垂れ込めます。

そんな心細い私を救ってくれたのは、なんと日露戦争でした。

休み時間になると日本人の私はチェコやスロバキアといった東欧諸国の人々から大人気なのです。

東欧諸国の美女たちが「日本のことを教えて!」と言って私のところに集まってくるではありませんか。

なんでそんなに日本の興味があるの?と訊くと、

「だって、あんなに小さい国が巨大なロシアに勝ったんだよ。すごいよ!

小さな国なのに効率よく動いている日本の秘訣を知りたい!」

と、興奮気味。

長く大国ロシアに苦しめられてきた経緯もあってか、日本人を英雄扱いするのです。

日本の歴史の教科書には数行だけ事実が述べられている日露戦争の勝利ですが、西欧から見れば東アジアの発展途上の小国が先進国である西欧の大国に勝ったというのは歴史上の大騒動だった模様。

東欧諸国の美女たちの私に対する態度はドイツやスペインのむさ苦しい男どもに対する良い牽制になった様で、以後私に対して「お前の英語はわからん!」などとの無礼な苦情は消滅。

気づけは放課後と週末の遊びの予定は日本人である私が中心となって企画するというとても楽しい留学生活となりました。

先輩たちが血と汗を流して獲得した日露戦争の勝利。

なんと、その勝利がそこから約100年後、後輩の異国の地での苦境を救ったのです。

日露戦争を題材にした「坂の上の雲」という小説の存在は知っていましたが、全8巻という圧倒的な量に気圧されて未読でしたが、これは読むしかありません。

留学から帰ると直ちに購入。読み始めたら、登場人物たちの圧倒的な熱量と国力10倍のロシアを相手に戦う薄氷を踏むような展開に引き込まれてたちまち読了。

なぜ、国力10倍の差を制して日本はロシアに勝利できたのか?

大陸でロシアのコサック騎兵隊に対抗するために、主人公である秋山兄弟の兄、好古は日本初の騎兵隊創設の使命を帯び、フランスで学びます。

弟の秋山真之は海軍による決戦に備えて米国に留学し、何年間も一人海軍戦術の研究を続けます。

「私が一日休めば、日本が一日遅れるのです」との悲壮感で猛烈に勉強するのです。

日露戦争に勝利できた理由は、優れた戦略・戦術、優れた装備、軍の練度と士気、幸運等々様々な理由があるが、一番大切なのは、長期的な戦略眼を持って各所で各人が自分の果たすべき使命を圧倒的な熱量で準備したということです。

最も大切な準備は10年間、国家予算の数倍の金額を費やして旗艦である戦艦三笠をはじめとした軍艦を建造し、最新鋭の連合艦隊ワンセットを準備したことです。

日本海海戦を勝利に導いたリーダーは連合艦隊司令長官の東郷平八郎ではなく、多くの批判に耐えながら、命懸けで艦隊を準備した海軍大臣の山本権兵衛なのです。

「坂の上の雲」は経営やリーダーシップの教科書として心に響く多くのケーススタディーを提供してくれます。

昭和の経営者たちがこぞって座右の書として掲げる理由もうなずけます。

私も、ワークハピネスの創業初期、「坂の上の雲」を新入社員の課題図書としていました。

そんな私にとって思い入れのある「坂の上の雲」ですがそれから数年後、なんとなく違和感を覚えて課題図書から外したのです。

真剣に考察した訳ではなく、なんとなくです。

でも、今回の旅で、その「なんとなく」に逃げずに向き合ってみました。

そして、当時感じた違和感の理由がわかりました。

理由は二つです。

一つ目は、戦争賛美に受け取られかねないからです。

これは、作者の司馬遼太郎氏も大変懸念したらしく、生前は「坂の上の雲」の映像化を頑なに拒否していたとか。

小説「坂の上の雲」の素晴らしさは人間たちの葛藤を描き切ったことですが、派手な戦闘シーンと痛快な勝利場面が印象付けられる可能性も否定はきません。

そして二つ目は、主人公の秋山好古、真之兄弟が彼らの本当の人生を生きていない気がするからです。

その対局として、自分の心の声に忠実に生きたもう一人の主人公、正岡子規がいます。

秋山好古は本当は教師になりたかった。とても穏やかな性格で争いを好まなかった。でも、貧しい家で親兄弟の生活を守るため、早くから俸給がもらえる職業軍人を選びました。

弟の秋山真之は正岡子規の親友でした。文学を志し、正岡子規と共に東大を目指します。でも、貧乏な暮らしの中、学費の無心を言い出せず、兄と同じ職業軍人の道を選びます。

当時の日本は、まさに近代国家建設中。

国家の繁栄が個人の幸福よりも尊重される時代でした。

若者の立身出世がそのまま国家の繁栄と一直線につながっていたが故に若者たちは無邪気にそのレールに乗りました。

本人たちも気づかない全体主義。

戦後の高度経済成長期にサラリーマンたちが自分の健康と家族を犠牲にして企業に全人生を捧げた構図と被ります。

今、多くの人たちは企業も国家も個人が幸せになるために存在していると信じています。

個人主義です。

「サピエンス全史」でユヴァル・ノア・ハラリ氏が喝破したように、国家も企業も人々が作り出した虚構に過ぎません。

確かに存在しているのは息をして熱を発している一人ひとりの人間だけです。

国家の繁栄よりも一人ひとりの幸福の追求こそ現代の正義。

ウクライナとロシアの戦争を前にしてこの思いはますます強まるばかりです。

「坂の上の雲」は素晴らしい小説ですが、今この小説を若者に薦めるのは、戦争賛美や全体主義啓蒙といった誤解を招く可能性があります。

人生100年時代。若者には世間の雰囲気や人からの評価など気にせずに自分の直感を信じて思うままに生きてほしいです。

属する組織に対する使命感や偉大な目標を追求することは素晴らしいことですが、大切な人間関係をはぐくみ、健康を尊重し、教養を高める事は、長い人生の大切な土台です。

文明がもう少し進めが、国家を過大視する全体主義は歴史の教科書の中に消えていくことでしょう。

戦争と平和

全体と個人

そんな二元論が過去の遺物となる日まで、、

「坂の上の雲」と、しばしさらばです。

そしていつの日か「忠臣蔵」のように日本人の根底の価値観に良い影響を与える古典となって戻ってくることでしょう。


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この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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