人を育てる

2019.12.12

「なぜ人は環境に影響されるのか?」〜遺伝子から見た人材育成〜

■はじめに

新卒の就職活動では、昨今売り手市場の状況が続いており、多くの企業の採用において、人手不足・採用難が深刻な問題となっています(特に中小企業では約70%が人材不足という調査結果が)。そのため、企業が競争力を保つためには、限られた人材を自社で最大限に育成していくことがますます求められています。

一方で現場では、「人は(生まれつきの)才能で能力が決まるんだから、いまさら研修をやっても意味がない」といったような声も聞かれます。

では、「人の才能は大人になると育たないのか」、「人材育成や組織開発は人にどのような影響を与えるか」ということを今回は、生命科学の一分野であるエピジェネティックスから紐解いていきたいと思います。

■生まれつきの才能は変わらない?!

企業が育成に力を入れるのは、その人材の才能や能力を最大限に活用するためです。その新たな取り組みによって、その才能を伸ばすのが人材育成なのです。

実は最近の研究では、努力によって人の才能も開花することがわかってきました。今回取り上げるエピジェネティクスは、この努力によって才能を進化させるための遺伝子なのです。

■エピジェネティクスとは

今までの遺伝学では「遺伝子は生涯にわたり変化しないもの」と言われていました。しかし、最新の遺伝学であるエピジェネティックスでは、「遺伝子は環境刺激によって変化し、より環境に適応した状態になるもの」ということがわかっています。

つまり、エピジェネティックスとは、「遺伝子そのものの情報は変わらないのに、環境刺激によって、遺伝子の状態が変化(エピジェネティクス修飾)し、変化した情報が記憶されていく」という概念のことです。このエピジェネティクスは「服を着た遺伝子」とも言われています。

遺伝情報が同じと言われる一卵性双生児であっても、見た目や性格が大きく変わることがあります。それは、育った環境からの刺激によってエピジェネティック修飾を受け、生産される物質(ホルモン、神経伝達物質など)が変化した結果による違いなのです。このエピジェネティク修飾は、次の世代にも継承されていく遺伝子です。

■「外的」な環境に影響される遺伝子

ストレス環境に置かれたマウスはストレス反応に対して過敏に反応するようになることがわかっています。これはエピジェネティックス的な影響を受け、対応する遺伝子の活性が強化されたためなのです。

人も同じでストレスに対する遺伝子のエピジェネティックスな制御では、環境からの刺激を<(下図)①感知し、適切な②応答をし、その状態をエピジェネティックス修飾によって③記憶して>同じ状況になった場合にも、すぐに応答できるように変化します。

つまり強いストレス環境下に長期間身を置くとストレスに対して適応し、過敏に反応する(ストレスホルモンが即座に過剰に分泌される)ようになってしまいます。

逆を返せば、個人にとってポジティブな刺激を与えれば、人は遺伝子レベルで変化し、ポジティブに成長し続けることが考えられます。

■「内的」な思考や意識の変化によって変化する遺伝子

人は環境からの刺激によって遺伝子レベルで変化することがエピジェネティックスから判明しました。さらに、思考の仕方や意識の向け方によっても脳内から分泌される物質は変わり、エピジェネティックス的な変化を遺伝子に与えることが研究からわかってきました。

つまり人は思考・意識によって自身の内的な環境を変えることができ、それは遺伝子レベルで変化を与えます。望んだ方向に思考・意識を向けることは望んだ自分を現実にするということが遺伝子レベルでも言えるのではないでしょうか。

■人は変わることができるのか

「人は変わる」というのはどのようなことでしょうか。それは一時的に行動が変わったということではなく、遺伝子レベルで変化することかもしれません。人材育成・組織開発のゴールは、社員一人にとってポジティブな外的環境を提供したり、もしくはポジティブな内的環境を作り出す状態にすることで、その社員の能力を活かすための思考や意識を引き出すことではないでしょうか。

■生命科学☓人材育成セミナーのご案内
WHIでは生命科学の視点から人材育成をより効果的なものにするため日々研究しています。現在、「生命科学×人材育成」というテーマでセミナーを開催しています。

次回開催のセミナーは第4回「なぜ人は環境に影響されるのか〜遺伝子から見た人材育成〜」では本稿で触れたエピジェネティクスなどについて生命科学のエッセンスを交え、より現場で実践できる内容を皆さんに提供できればと思います。ぜひお越しください。

2019.12.16(月)Vol.4 なぜ人は環境に影響されるのか 〜遺伝子から見た人材育成〜


この記事を書いた人この記事を書いた人

鈴木泰平

千葉県鎌ケ谷市出身。東京理科大学・生物工学科に入学。分子生物学やタンパク質工学、エピジェネティックスなど生命科学を幅広く学ぶ。「研究者になりたい」という志を持って入学したが、研究室の雰囲気の悪さから研究へのモチベーションが無くなる。また同大学アメフト部での活動の中、チームの雰囲気の良さによって個人のパフォーマンスやチームのモメンタム(流れや勢い)が大きく変わることを体感。
「人は場の雰囲気や風土に大きく影響される」ということを強く実感し、組織開発に興味を持つ。その後ワークハピネスに参画。自身のテーマは「生命の原理原則に基づいた人材育成」「場に命を与える組織開発」であり、実践のために日々探求している。現在、心(マインド)、頭(スキル)、体(フィジカル)を総合的に育成する新規プロジェクト「心技体開発」を立ち上げ、活動中。

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