
コンフリクトマネジメントとは?職場の対立をチームの力に変える方法
組織での業務を進める中で、対立や意見の食い違いは避けられません。特に近年は、価値観の多様化やリモートワークの普及により、コミュニケーションのすれ違いや摩擦が増えています。「コンフリクトマネジメント(対立管理)」は、そうした職場の対立を建設的に解決し、チームの成長に変えていくための重要なスキルです。
本記事では、コンフリクトマネジメントの意味や必要性から、対立の原因、実践方法、研修によるスキル強化、成功事例までを網羅的に解説します。人間関係のトラブルを未然に防ぎ、組織を前向きに変えるヒントをみていきましょう。
コンフリクトマネジメントとは

コンフリクトマネジメントは、「職場の対立や衝突を単なるトラブルとして捉えるのではなく、組織成長の機会として活用する」という考え方です。適切に活用されれば、対立は、新しいアイデアの創出やチーム力の向上につながる貴重な資源になります。
まずは、コンフリクトマネジメントの定義や目的、考え方を確認していきましょう。
コンフリクトマネジメントの定義
コンフリクトマネジメントとは、組織やチーム内で発生する対立や衝突を適切に管理し、建設的な結果に導くためのマネジメント手法です。対立を避けたり抑え込んだりするのではなく、根本原因を理解し、関係者全員にとって納得のいく解決策を見つけることを目指します。
この概念は、対立を「解決すべき問題」ではなく「組織成長の機会」として捉える点に特徴があります。
適切に管理された対立は、新しいアイデアの創出や問題の早期発見、チームワークの向上につながる貴重な資源となります。
目的と必要性
組織内では、利害調整や世代間の価値観の違いなど、さまざまな原因で対立が起きます。こうした対立を「トラブル」ではなく、「成長の機会」ととらえるのがコンフリクトマネジメントです。
意見の違いや価値観の衝突は、新たなアイデアや効果的な組織運営にヒントにつながります。対立することは、決してトラブルではないのです。
対立を建設的に解決する文化が根付いた組織では、メンバーの心理的安全性が向上し、より活発な意見交換や革新的なアイデアの創出が期待できます。
「対立=悪」ではない!
多くの人は対立を否定的なものとして捉えがちです。しかしコンフリクトマネジメントでは「対立は組織の成長にとって必要な要素」と考えます。
問題は対立の存在ではなく、それをどのように管理し、活用するかにあります。組織内で多様な意見が出てくることは、むしろ歓迎すべきことなのです。意見の衝突を「悪」ととらえて諫めるような土壌が育つと、従業員は会社を他人事として考えます。無難でありきたりな意見しか出てこなくなります。それでは、組織的な成長は望めません。
健全な対立は、現状への疑問提起や改善提案の活発化、多様な視点の共有を促進します。こうした考え方を組織全体で共有することで、メンバーは対立を恐れることなく、率直な意見交換を行えるようになるのです。
なぜ職場で対立が起きるのか
複数の人間が組織で働く以上、対立の発生は避けて通れません。しかし、その原因を正しく理解することで、予防可能な対立と建設的に活用すべき対立を区別できるようになります。
職場で対立が発生する流れを、詳しく見ていきましょう。
対立のよくある原因
職場での対立は、複数の要因が絡み合って発生します。特によくある原因は、以下の3つです。
- 価値観の違い
- 立場の違い
- 伝達不足 など
一般的な原因のひとつは、価値観の違いです。世代や文化的背景、専門分野、経験の違いによって、同じ状況でも、従業員がそれぞれ異なる解釈や判断を下すことがあります。
また立場の違いも大きな対立要因です。それぞれの部署や部門が持つ目標や評価基準の違いが、利害の対立を生み出します。また、役職や権限の違いによる情報格差も、誤解や不信を招く原因となります。
さらにコミュニケーション不足や情報伝達の不備も、対立の原因となりやすい要素です。情報が正確に伝わらなかったり、前提条件が共有されていなかったりすると、本来は避けられたであろう対立が発生してしまいます。
特にリモート環境下では、多くの企業がコミュニケーションに課題を抱えています。
潜在的対立と顕在化した衝突の違い
対立には表面化していない「潜在的対立」と、明確に現れた「顕在化した衝突」があります。
潜在的対立は、不満や不安が蓄積されているものの、まだ表面化していない状態です。この段階では、関係者が問題を認識していなかったり、あえて避けていたりします。
潜在的対立が長期間放置されると、些細なきっかけで爆発的な衝突に発展する可能性があります。
顕在化した衝突は、対立が明確に表面化し、関係者が問題を認識している状態です。感情的な対立が起きていることも多く、解決には多くの時間と労力を要します。
しかしすでに問題が明確になっているので、適切なアプローチが、建設的な解決につながるケースも少なくありません。
対立が起こる背景にある組織課題
個人間の対立の背景には、多くの場合、組織レベルの構造的な課題が存在します。不明確な役割分担や矛盾する目標設定などの条件的なぶつかりあいのほか、不公平な評価制度も個人レベルでの対立を引き起こします。
また競争を過度に重視したり、極度に失敗を許容しなかったりする組織文化などは、健全な議論を阻害し、対立を歪んだ形で発生させる可能性があります。
さらに価値観や認知の違いの擦り合わせを怠った結果、大きなコンフリクト(対立・衝突)につながることもあるでしょう。
対立が起きる背景には、組織的・構造的な課題が隠れていることも、少なくないのです。
コンフリクトマネジメントの種類とスタイル
対立への対応方法は、状況や関係者にあわせて検討する必要があります。一律的なアプローチではなく、場面に応じた最適なスタイルを選択することで、より効果的な結果を得ることができるのです。
ここでは代表的なフレームワークと、その特徴を解説します。
トーマス・キルマンモデルの5つの分類
コンフリクトマネジメントでよく使われるフレームワークに、トーマス・キルマンモデルがあります。これは対立への対応を、以下の5つの基本スタイルに分類するものです。
回避型
対立を避け、問題から距離を置こうとするスタイルです。時間が解決してくれる問題や、取るに足らない問題に対しては有効ですが、重要な問題を放置すると、より大きな問題に発展する可能性があります。
迎合型
自分の主張を押さえ、相手の要求を受け入れることを優先します。関係性の維持が最重要な場合や、自分が間違っていることが明らかな場合には適した方法です。一方常にこのスタイルでいると、自分の権利や利益が損なわれる可能性があります。
競争型
勝ち負けにこだわり、主張を押し通そうとする傾向が強くなります。緊急事態や重要な決断が必要な場合には有効ですが、多用すると人間関係が悪化し、長期的には組織にとってマイナスとなる要素です。
協調型
双方の要求を満たす解決策を模索します。時間はかかりますが、最も建設的な解決につながりやすく、関係性の向上も期待できます。
最も推奨される方針です。
妥協型
双方が譲歩して中間点を見つけるスタイルで、迅速な解決が必要な場合に有効です。
トーマス・キルマンモデルを活用することで、対立対応の傾向を理解し、状況に応じて最適なスタイルを選択できるようになります。ま
た、チームメンバーの対応スタイルを理解することで、より効果的な対立解決が可能になります。
自社に合ったスタイルの見極め方
最適なコンフリクトマネジメントスタイルは、組織の文化や業界特性、チームの成熟度によって異なります。まずは自社の組織文化を分析し、どのようなスタイルが受け入れられやすいかを把握しましょう。
また、対立の内容や緊急性、関係者の特性なども考慮する必要があります。戦略的な意思決定に関わる対立では協調型が適している場合が多く、日常的な業務上の小さな対立では妥協型や回避型が効率的な場合もあります。
定期的に組織内の対立パターンを分析し、どのスタイルが最も効果的だったかを振り返ることで、組織に最適なアプローチを見つけることができます。
さらにメンバーの対立対応スキルを向上させるための研修や教育も、効果的なスタイル選択に寄与します。
コンフリクトマネジメントのスキルと進め方
次は、実践的なコンフリクトマネジメントの流れを見ていきましょう。
効果的なコンフリクトマネジメントには、特定のスキルと体系的なアプローチが必要です。ここでは、実際の職場で活用できる具体的な技法と進め方をまとめました。
対話力・傾聴力・自己主張力のバランスが大切
効果的なコンフリクトマネジメントには、「対話力」「傾聴力」「自己主張力」の3つのコミュニケーションスキルのバランスが重要です。
対話力は、相手との建設的な議論を展開し、お互いの理解を深める能力です。感情的にならず、論理的かつ共感的なコミュニケーションを行うことが求められます。
傾聴力は、相手の本当の気持ちや真意を理解するための基礎的なスキルです。表面的な言葉だけでなく、その背景にある感情や動機を理解することで、対立の根本原因を把握できます。
自己主張力は、自分の考えや感情を適切に表現する能力です。相手を攻撃することなく、自分の立場や要求を明確に伝えることで、建設的な議論が可能になります。
これら3つのスキルをバランスよく活用することで、対立を成長の機会に変えることができます。
対立の構造を整理する「論点の見える化」
複雑な対立を解決するためには、まず対立の構造を明確にしましょう。
「論点の見える化」は、対立の要素を整理し、問題の本質を把握するための手法です。感情的な要素と事実的な要素を分離し、具体的な争点を明確にします。
最初に関係者全員の立場や利害を整理します。次に、対立の根本原因を特定し、解決すべき具体的な問題を明確にします。あわせて共通の目標や価値観があるかどうかも確認し、合意形成の基盤を見つけてください。
感情的な対立が、実は事実の認識違いや情報不足によるものだったと判明することも多くあります。論点を整理することで、解決すべき具体的な課題が明確になり、建設的な議論が可能になるのです。
コンフリクトマネジメントの4つのステップ
では、実際にコンフリクトマネジメントを行う際の流れを4つのステップで見てみましょう。
①把握
対立の発生を早期に察知し、関係者や争点を特定します。表面化していない潜在的な対立を発見することも重要です。
②整理
収集した情報を分析し、対立の構造を明確にします。論点の見える化を進め、解決すべき具体的な問題を特定します。また、関係者の真の要求や関心事を理解します。
③解決
特定された問題に対して、具体的な解決策を検討し、実行します。可能な限り、関係者全員が納得できる解決策を模索しましょう。
なお解決策の実行には、明確な行動計画と責任分担が必要です。
④振り返り
解決プロセスと結果を評価し、学習点を抽出します。同様の対立が再発しないための予防策も検討します。
問題の把握から振り返りまでをひとつのプロセスとして考え、PDCAサイクルを回すことで、組織全体のコンフリクトマネジメント能力が向上します。
コンフリクトマネジメント研修の必要性と導入方法
有益なコンフリクトマネジメントを行うには、企業や個人の学習だけでは難しい場合もあります。
そんなときは、体系的な研修が効果的です。研修を通じて知識や認識を共有し、組織文化として、対立を建設的に活用する土壌を作ることができます。
研修の目的と効果
コンフリクトマネジメント研修の主要な目的は、参加者が自分の対立対応スタイルを客観的に理解し、状況に応じて最適なアプローチを選択できるようになることです。
研修で学んだ理論やフレームワークを実際の職場で活用することで、対立を恐れるのではなく、成長の機会として捉える文化の醸成にもつながります。個人のスキル向上だけでなく、組織全体のコミュニケーション品質向上も期待できるのです。
さらに研修では、他の参加者との相互作用を通じて、多様な価値観や対応スタイルがあることを実感できます。他者理解が深まることで、職場での対立に対しても、より柔軟で効果的な対応ができるようになります。
ロールプレイやケーススタディの活用も重要
効果的なコンフリクトマネジメント研修では、理論学習だけでなく、実践的な演習が重要な役割を果たします。ロールプレイでは、実際の職場で起こりうる対立シナリオを再現し、安全な環境で様々な対応方法を試すことができます。
またケーススタディでは、他社の成功事例や失敗事例を分析することで、対立解決に最適な選択肢を学びます。参加者は自分の経験と照らし合わせながら、より効果的なアプローチを見つけることができるでしょう。
ワークハピネスの研修紹介と活用例
ワークハピネスのコンフリクトマネジメント研修は、理論と実践のバランスを重視した構成です。参加者の実際の職場課題を題材とした演習で、すぐに活用できるスキルの習得を目指します。
研修は座学やロールプレイを活用し、自分の対立対応スタイルを客観的に把握できるようになっています。実際に研修に参加した企業からは「学び合う文化が醸成された」、「新人教育の面でも良い影響があった」と好評をいただきました。
「変える」のではなく自ら「変わる」ことにこだわるワークハピネスの研修で、人の無限の可能性と、前向きな動機を引き出しましょう。
成功事例に学ぶ!対立を力に変えた現場の具体例
実際の現場でコンフリクトマネジメントがどのように活用され、どのような成果を生んでいるのかを知ることは重要なことです。ここでは、対立を組織の力に変えることに成功した事例を見ていきましょう。
事例①部門間対立を調整して業務効率向上
営業は顧客の要求に応えようと製造に無理な納期を求め、製造は品質維持のために時間が必要だと主張する、といった対立は、どの企業でも起こり得る事例です。慢性的な対立となると、両部門の関係は悪化し、全体的な業務効率も低下します。
コンフリクトマネジメントでは、まず両部門の管理職が対話の場を設けました。論点の見える化により、実際の問題は納期ではなく、情報共有のタイミングと品質基準の認識違いにあることが判明したのです。
解決策として、週次の部門間ミーティングの設置と、顧客要求の品質レベルを事前に共有するシステムを導入しました。結果として、無駄な調整時間が削減され、全体的な業務効率も向上しました。
事例②多文化チームでのルール設計により摩擦を減少
グローバル企業のプロジェクトチームでは、多国間のメンバー間で文化的な違いによる摩擦が頻発しがちです。コミュニケーションスタイルや時間感覚が違うと、プロジェクトの進行に支障をきたします。
この事例では、コンフリクトマネジメントの協調型アプローチが有効です。全メンバーで各文化の特性を理解し合う機会をもうけ、共通のルールと期待値を設定しました。また、定期的な振り返りミーティングを実施し、問題が小さいうちに解決する仕組みを構築しました。
この取り組みにより、文化的な違いが対立の原因ではなく、チームの強みとして活用されるようになりました。
事例③研修後、リーダー間の協調意識が高まり離職率減
効果的なマネジメントを採用していても、リーダーの経験や知識不足が原因で、うまく成果が出ないこともあります。
そうした場合は全リーダー層を対象とした、コンフリクトマネジメント研修の実施がおすすめです。研修を実施した企業は、月次のリーダー会議でコンフリクトマネジメントの手法を活用し、部門間の調整を行うようになりました。
リーダー間の協調意識が向上し、部門を超えた協力が活発化した結果、従業員の離職率が減少。組織全体のパフォーマンスも向上しました。
多様性時代に求められる“対立力”とは
現代の組織では、多様な価値観や背景を持つ人材が協働しています。多様な人材が働くダイバーシティ環境では、従来以上に対立が表面化しやすくなります。
一方多様性による対立は、適切に活用することで、組織にとって重要な資産となります。異なる視点や経験が衝突することで、新しいアイデアが生まれ、既存の問題に対する革新的な解決策が見つかる可能性が高まるからです。
多様性による対立を建設的に活用する「対立力」が、組織の競争力を左右する重要な要素となっているのです。
対立を恐れない対話文化の育成
多様性時代の組織に求められるのは、対立を恐れずに率直な意見交換ができる文化です。そのためには、心理的安全性の確保が不可欠となります。メンバーが自分の意見を表明しても、攻撃されたり排除されたりしないという安心感が必要になるのです。
また、対立は問題ではなく学習と成長の機会であるという価値観を、組織全体で共有することが重要です。リーダーは率先して異なる意見を歓迎し、建設的な対話のモデルを示しましょう。
リーダーに必要な「受容力」「共創力」
多様性時代のリーダーには、従来のリーダーシップに加えて、「受容力」と「共創力」という新しい能力が求められています。受容力とは、自分とは異なる価値観や意見を否定するのではなく、まずは理解しようとする姿勢と能力です。
また共創力は、異なる立場や意見を持つメンバーと協力して、新しい価値や解決策を創り出す能力です。対立を単に調整するのではなく、そこから生まれるエネルギーを創造的な活動に転換させることができます。
リーダーとなる人材がこうしたスキルを意識的に身に着けることで、多様性を、組織の競争力につなげることができるのです。
まとめ
コンフリクトマネジメントは、職場の対立を組織の成長力に変える重要なスキルです。対立を避けるのではなく建設的に活用することで、創造性の向上、チーム力の強化、イノベーションの創出が可能になります。
実践する際は、まずは日常の小さな意見の違いから始めてみましょう。組織全体で対話する文化そのものを育成することで、大きな対立も建設的に解決できるようになります。
より専門的に学びたい方は、コンフリクトマネジメントに関する本や論文を参考にすると、実践に役立つ知識を得られます。
さらに効果的なコンフリクトマネジメントを行うためには、専門的な研修の実施もおすすめです。
ワークハピネスでは、組織の課題に合わせたコンフリクトマネジメント研修を提供しています。
まずはお気軽に、ご相談ください。
ワークハピネスの法人研修サービスでは、コンプライアンスやマネジメントといったテーマを、ゲームやグループディスカッションなどの手法を用いて学べます。
参加者が楽しみながら本質的な課題に気付けるため、明日からの行動を考えるきっかけを得られるでしょう。ぜひ以下から研修の詳細をご覧ください。

大学卒業後、外資系医療機器メーカーで営業に従事。
6年間で8人の上司のマネジメントを経験し、「マネジャー次第で組織は変わる」と確信し、キャリアチェンジを決意する。
2009年にワークハピネスに参画し、チェンジ・エージェントとなる。
医療メーカーや住宅メーカーをはじめ、主に大企業の案件を得意とする。また、新人から管理職まで幅広い研修に対応。
営業、営業企画、新人コンサルタント教育を担当後、マーケティング責任者となる。
一度ワークハピネスを退職したが、2021年から復帰し、当社初の出戻り社員となる。現在は、執行役員 マーケティング本部長。

















