人的資本とは?高めるための手法の具体例・事例を紹介
トレンド情報

人的資本とは?高めるための手法の具体例・事例を紹介

人的資本という考え方が注目され始めています。人的資本とは人への積極的な投資を通じて、企業価値を高めるという考え方で、企業が持続的に成長するためには必要不可欠になりました。人的資本への取り組みは世界的な流れであり、日本企業でもこれからますます普及が進んでいくことでしょう。

本記事では人的資本が重要視される理由や、人的資本を高める手法を中心に紹介します。企業の事例も見ていくので、自社のケースに当てはめるなどして参考にしてください。

人的資本とは

人的資本とは

そもそも資本とは土地や労働力と同じ生産三要素で、企業が事業活動を行う際に元手となるものです。いわば価値を生み出す源泉といえるでしょう。人的資本は、自社の人材を資本としてとらえる考え方です。人材のスキルや能力への投資を通じてその価値を最大限に引き出すことが、結果として中・長期的な企業価値の向上につながるという考え方です。

人的資本は土地や設備のようにかたちがあるものではありません。また人材への投資を行ったからといってすぐに目に見える成果が出ることはめずらしいです。しかし長期的に企業が価値を高めて成長していくためには、人的資本の考え方を取り入れるべき時代となりました。

企業が自社の価値向上を成功させるためには、人材を大切にし、その能力を最大限に活かす工夫が必要不可欠です。

人的資源との違いを解説

人的資本とよく似た「人的資源(Human Resource)」という用語があります。人材の持つスキルや能力は投資の対象ではなく「消費するもの(コスト)」ととらえるのが人的資源という考え方です。従来、人材は経営資源の一つとして認識されてきました。すなわち企業にとって人材はコストとイコールになるため、効率化を行い、できるだけ削減する方が良いと考えられてきました。

一方で人的資本(Human Capital)は人を資本とみなし、投資の対象かつ新たな企業価値を生み出し、従来の価値を向上させるものと考えます。つまり人的資源と人的資本では、人材へのとらえ方・扱い方に大きな違いがあるということです。

人的資本経営とは

人的資本の考え方を経営戦略に取り入れたのが、人的資本経営です。人材に積極的に投資することで、企業の目標の達成や課題の解決を図り、企業価値を持続的に向上させるという、経営戦略と人材戦略を連動させた経営方針です。

人的資本経営は経済産業省が2020年に発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」で注目されました。このレポートをきっかけに企業からの関心は徐々に高まりつつあります。なお2023年には人材情報の開示が大企業に義務付けられます。

人的資本が重要視される理由とは

なぜ人的資本という考え方が注目されるようになったのでしょうか。ここではその理由となる主なものを3つ紹介します。

理由1:人材の多様性が加速している

外国人従業員や非正規雇用など人材・雇用形態が多様化するとともに、テレワークの普及といった、働き方・価値観の多様化も同時に加速しています。このような状況で企業が従来の画一的な人材管理を続けると、いつしか限界を迎えてしまうでしょう。人的資本の考え方を取り入れ、社員一人ひとりにあわせた環境で、その価値を最大限に引き出す人材管理が企業に求められています。

理由2:アメリカで人的資本開示が義務化された

アメリカで2020年8月、米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して人的資本(定性情報・定量情報)の開示を義務化しました。これは投資家が投資判断を行う際に、人的資本に関する情報を重視していることに他なりません。人的資本の情報開示はアメリカを始め世界的な流れであり、日本企業もこれに追随しなければ、国内・海外から投資を集められなくなるでしょう。

理由3:ESG投資への関心が高まっている

ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を取って名付けられた用語です。ESG投資とは、これらの項目に配慮している企業に投資することを意味します。ESG投資では財務状況だけでなく、環境や社会への適合度や、企業のガバナンス(健全な企業経営)情報などが、投資家が投資判断を行う際の重要なポイントになります。

ESGはいわばかたちのないものなので、かつては企業がお金をかけても直接利益に結びつきませんでした。しかし現在は、環境・人権意識の高まりもあり、ESGに配慮した企業は、「長期にわたり成長が期待できる企業」と投資家から高く評価され始めています。

ESGのうち人的資本は「S」に該当する項目のため、企業の人的資本に関する取り組みに関心が集まっている状況です。

開示すべき情報はISO30414を参考にする

人的資本への関心の高まりを背景に、2018年12月に国際標準化機構(ISO)によって「ISO30414」が制定されました。ISO30414とは、人材情報の定量化・開示の際に指標となる、人的資本開示のガイドラインのことです。規格を統一することで、投資家にとっては人的資本に関する企業情報の比較が容易になりました。

また企業にとっては人材データの可視化により課題が抽出でき、戦略を立てやすくなるというメリットをもたらしました。

企業が人的資本の情報開示を行う際には、ISO30414の項目を参考にすると良いでしょう。次に具体的な項目について紹介します。

ISO30414の項目も紹介

ISO30414では、11項目・58指標が制定されています。11の項目とそれぞれの指標についてわかりやすくまとめたものが以下の表になります。

項目指標の主な内容
1.コンプライアンスと倫理苦情・違反の件数と種類、コンプライアンス違反の割合、外部監査での指摘の回数
2.コスト労働力・採用・離職にかかるコスト
3.ダイバーシティ年齢・性別・国籍・障害などの従業員のダイバーシティの状況
4.リーダーシップ管理職のパフォーマンス、マネジメントの効率
5.組織文化従業員の企業への愛着心、満足度、定着率
6.組織の健康・安全・福祉労災の状況、研修実施の状況
7.生産性従業員一人あたりの生産性、人的投資に対するリターン
8.採用・異動・離職採用の状況、異動率・離職率、重要ポストの内部登用率・割合・空席率
9.スキルと能力人材開発や研修にかかるコスト、研修の実施状況
10.後継者育成後継者の内部登用率、後継者候補の数・準備状況
11.労働力確保従業員数(フルタイム・パートタイム・派遣労働者など)、欠勤の状況

企業が人的資本を高める手法を解説

人的資本を具体的に経営に落とし込んでいくにはどうすれば良いのでしょうか。企業が人的資本を高める際に押さえておくべき、4つの項目について解説します。

経営戦略をもとに人材戦略を見直す

人的資本経営を進めていくために重要なのは、まず目標を明確にし、経営上の優先課題を抽出することです。それに基づき人材戦略(必要な人材の確保・教育など)を進めていく必要があります。このような経営戦略と人材戦略の一本化が、人的資本を高めることにつながります。

人的資本経営を行うに当たっては、経営者と人事が一体となって検討することが大悦です。そのため人材面での課題の提起・人材の情報などを経営者と共有し、議論を行うことのできる人事担当責任者の存在がより重要となります。

これから必要になるスキル・知識を考える

デジタル化や脱炭素といった大きな変化がめまぐるしく起こるなかで、企業もそれについていかなければ生き残ることが難しい時代になっています。こうした状況で企業が目標を達成するためには、将来的にどのようなスキル・知識を持つ人材が必要なのかを慎重に検討を行う必要があります。

そのためには社員一人ひとりの役割・権限を明確にした上で、それぞれに習得させたいスキル・知識を考えることが大切です。既存の社員だけでは企業にとって必要なスキル・知識を得られない場合は、新たに社員を雇用するなどのアクションをとらなくてはいけないため早めに計画しましょう。

人材配置を見直し、適切に評価する

必要なスキル・知識を身に付けた社員がいても、人にはそれぞれ適性があるため、適切なポジションに配置しなければ意味がありません。社員一人ひとりのスキル・知識を把握し、適材適所に配置することが重要です。また社員の働きを適切に評価することで、モチベーションも高まるでしょう。結果的に社員の成長をもたらし、最終的に業務効率・生産性の向上につながる、という良い流れを生み出すことが可能です。

PDCAを回す

PDCAとは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」の頭文字を取った用語です。企業が現在の状況とあるべき姿を認識し、そのギャップを埋めるためには、施策を実施した後にPDCAのサイクルを回していくことが大切になります。

継続的にデータを収集・活用しながら絶えずPDCAを回すことで、より効果的な施策の考案につながるという効果が期待できます。従業員に対しては、PDCAの繰り返しでより働きやすい職場を提供することができ、結果的に離職率の低下・定着率の上昇につながるでしょう。

人的資本を高めた企業の事例

では人的資本経営を実際に行っている企業は、具体的にどのような施策を取り入れているのでしょうか。ここでは人的資本の向上に成功した企業の事例を紹介します。

参考:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集|経済産業省

旭化成株式会社

旭化成株式会社では経営戦略に基づき、その遂行に必要な人材の量・質の洗い出しを毎年行っています。また従業員の成長・活力を測定するために、独自のエンゲージメント調査を行い、企業・従業員双方の成長を目指す取り組みを行っています。

花王株式会社

花王株式会社では中長期経営計画達成のために、人材の最大限の活用に焦点を当てました。従来の仕組みを大きく変え、目標管理に「OKR(Objectives & Key Results)」を導入しています。社員の主体的な目標設定により、挑戦を重視した成長を促す取り組みを実施しています。

株式会社シード

株式会社シードでは、若手社員のうちからスキル強化だけではなく、人間的成長を図る人材育成に取り組んでいます。成人発達理論を用いて自己理解を深めていく研修の事例はこちらでお読みいただけます。

まとめ

まとめ

本記事では人的資本を取り入れるに当たって、知っておくべきことをまとめました。これまで多くの日本企業において、人的資本の考え方は重視されてきませんでした。しかし世界的な潮流・ESG投資の増加といった背景もあり、人的資本への取り組みは日本企業でも今後ますます重要になっていくでしょう。

ワークハピネスではさまざまな企業の課題解決に向けたサービスを提供しています。組織開発・チームビルディング研修・管理職研修・若手社員研修といった豊富な種類のサービスを提供しています。簡単な質問に答えていただければ、組織の現状を把握することも可能です。無料での質問・相談も受け付けています。人材の確保・活用にお悩みであれば、Webサイトから気軽にお問い合わせください。

問い合わせ

この記事を書いた人この記事を書いた人

藤岡 征太郎

大学卒業後、外資系医療機器メーカーで営業に従事。
6年間で8人の上司のマネジメントを経験し、「マネジャー次第で組織は変わる」と確信し、キャリアチェンジを決意する。
2009年にワークハピネスに参画し、チェンジ・エージェントとなる。

医療メーカーや住宅メーカーをはじめ、主に大企業の案件を得意とする。また、新人から管理職まで幅広い研修に対応。
営業、営業企画、新人コンサルタント教育を担当後、マーケティング責任者となる。
一度ワークハピネスを退職したが、2021年から復帰し、当社初の出戻り社員となる。現在は、執行役員 マーケティング本部長。

人材・組織開発に携わる方必見!サービス資料や、お役立ち資料をダウンロードはこちら
ONLINE セミナーダイジェスト 人気のセミナーを3分程度の無料動画にまとめダイジェスト版をご用意致しました。セミナー受講の参考に、ぜひご覧ください。SEE ALL DIGEST MOVIE

INDEX

サービス資料・お役立ち情報満載!

資料ダウンロード

まずはお気軽にご相談ください!

フォームから問い合わせる