【事例付き】パーパス経営でおこる課題とは?実現のためのポイントを解説
2010年代後半頃から欧米で注目され始めたのが「パーパス」です。パーパスには社会の中での、企業の存在意義という意味があります。世界規模で環境や人権などさまざまな社会問題に人々の目が向く中、会社に対しても社会での役割が求められるようになりました。そこで、着目されているのがパーパスに基づいた経営です。
しかし新しい経営方法ということもあり、どのように設定し実行すれば良いか分からないという方も多いのではないでしょうか。本記事ではパーパスの意味や課題、デメリット、導入する際のポイントなどを紹介します。
そもそもパーパス経営とは
パーパス(Purpose)には意図、目的、思考という意味があり、ビジネスでは企業の存在意義を指しています。そしてパーパス経営とは社会的目的を軸に経営を行うことです。
パーパスと同様に企業が掲げるものとしてミッション(Mission)やビジョン(Vison)もありますが、パーパスとは異なります。
ミッションは「企業に課せられた使命、成し遂げるべきもの」、ビジョンは「企業が実現を目指す未来像」という意味です。ミッションやビジョンは企業そのものの使命であり、未来像ですが、パーパスは「社会にとっての企業の役割」を重視しています。
世の中全体が環境問題や人権問題など、社会的課題に意識が大きく向かっている中、企業も利益だけを重視していては、社会に受け入れられません。製造過程で公害をまき散らかしたり、従業員や顧客の人権を侵害するような行為があったりすると、たちまち批判の的となります。逆に、環境や人権などに配慮した活動をしているとなれば、顧客やクライアントから大きく支持が受けられます。
そこで、企業全体が社会的課題に取り組んでいる姿勢を見せるためにも、パーパスの設定が重要になります。
パーパス経営における課題とは
パーパスは比較的新しい概念のため、企業が導入するには課題が発生することが多くあります。ここでは、パーパスの設定時にどういった課題が発生するのかを解説します。
パーパスを勘違いしている(経営層)
経営層がパーパスの定義を勘違いしているケースが多々あります。
自社の事業内容や強みとは無関係に、SDGs(持続可能な開発目標)や政府の提言するカーボンニュートラルをパーパスに掲げる経営層も見られます。それ自体は問題ありませんがパーパスは自社ならではの「存在意義」を示すものであり、自社の強みと関連づけられないと効力を発揮しません。
事業と一致していなければ社会の中で役割を果たせず、「言っているだけ」という状態になります。例えばエネルギーとは直接関連のない事業を行う企業が、「○○に関するエネルギー問題の解決に役立ちます」といっても、顧客やクライアントには響きません。
食品を扱うのであれば、いきなり人権やエネルギー問題への貢献を掲げるよりも、消費者の食の安全や地球環境を考えた食材の調達などをテーマにするのも良いでしょう。自社の事業を見つめ直し、どのような存在意義を示せるかを考える必要があります。
企業風土や過去の慣例を優先している(社内)
企業風土や過去の慣例に縛られると、より良いパーパスを採用できない場合があります。
パーパスは社会の中での存在意義であるため、常に世の中の情勢と連動していなければなりません。従来の企業風土や過去の慣例を優先してしまうと、社会の変化に合わず、従業員などから共感を得られないものになることがよくあります。
例えば「さまざまな働き方を提供し、誰もが生き生きと活躍できる社会を作る」というパーパスを掲げたいとします。しかし、子育てや介護がある人でも、いざというときに帰れないような企業風土があるようでは実現ができません。
そのような場合は、パーパスに掲げることを諦めるのではなく、福利厚生を整えるなど実現可能な改善を行います。
コストがかかる
パーパスに掲げた内容を実現するために、コストがかかるケースがあります。
環境への配慮を掲げたことで、LED照明や人感センサー、太陽光発電などの設備投資が必要になるかもしれません。化石燃料の使用量削減や廃棄物の排出量削減などのための、新たなシステムの導入を必要とする場合もあるでしょう。
最初のうちはコストの負担を大きく感じるかもしれません。しかし、長い目で見れば会社のイメージ向上につながり、やがては利益を生むと考えて取り組むことが大切です。
パーパス経営の課題を解消するポイントとは
パーパス経営は注目の経営方法ではあるものの、実際に導入するとなるとさまざまな課題が生じる可能性があります。ここではパーパス経営の課題を解消するポイントを解説します。
自社のビジネスと関連づけて考える
やみくもにパーパスを策定するのではなく、自社のビジネスと関係する内容にすることが重要です。IT企業や食品製造業、電気メーカー、商社、不動産業など、それぞれのビジネスの強みを生かしたパーパスを設定してください。
IT企業であればデジタル技術で社会に貢献できるパーパスが多い傾向です。食品製造業であれば材料を自然素材にしたり、ゴミを減らすために容器を工夫したりするなど、できることはさまざまにあります。ビジネスの延長線上でできることをパーパスにすれば、実際に社会に貢献してくれそうだという印象が与えられます。
従業員に共感してもらえるものを検討する
パーパスは従業員からの共感が得られるものにする必要があります。SDGsに関連したパーパスも良いですが、それだけでは従業員は身近なものと捉えられず、共感してもらえないかもしれません。
従業員に共感してもらえるパーパスのポイントとしては、現在世の中で問題とされているものの中でも、より身近なものを選んでいくと良いでしょう。例えば、食の安全などは従業員にとっても身近です。
自分の労働が社会貢献につながっているとイメージしやすければ、多くの従業員のモチベーションや企業へのエンゲージメントを高められるでしょう。
社会問題との関連づけも大切
上述のようにパーパスは社会の中での企業の存在意義を示すものであり、現在起きている社会問題に関連付けることが大切です。
会社が取り組むべき社会問題の例としては以下のようなものがあります。
- ガソリンを使用しない電動化の実現
- リサイクルへの取り組み
- 環境に配慮した製造工程の確立
- カーボンニュートラルの実現への貢献
社会問題と自社の接点を見つけて設定すると、従業員、クライアント、顧客などから理解を得られるパーパスとなります。
利益を得られるものにする
会社は社会貢献だけではなく、利益確保が必要です。パーパスも、利益につなげることを意識して設定しなければいけません。
利益を得られるようにするには顧客に訴えかけるパーパスを掲げることが大切です。商品やサービスのターゲット層が、どのような社会問題に着目しているかを調査、分析してみましょう。ターゲットの多くが環境問題を意識しているならば、地球に配慮した企業活動や商品開発をしていくことをパーパスにすれば、多くの顧客を自社のファンにできます。
また「自社の商品を通じて多くの人に幸せをもたらす」というような、営業と社会貢献が一致するパーパスもおすすめです。
パーパス経営を行う企業事例
ここからはさまざまな企業で行われているパーパス経営の事例を紹介します。
事例1:味の素グループ
味の素グループではパーパスを「食と健康の課題解決」とし、グループビジョンとして「アミノ酸の働きで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人々のウェルネスを共創します」を掲げています。
またこれらを社内にしっかり浸透させるために、エンゲージメントサーベイを用いた効果測定、表彰制度などを設けるといった施策も行われています。会社の考え方がなかなか浸透しない時期もありましたが、いまではグループが一丸となって食と健康の課題解決に取り組めているようです。
事例2:サントリーホールディングス株式会社
洋酒やビール、清涼飲料水を製造・販売するサントリーホールディングスのパーパスは「人と自然と響き合い、豊かな生活文化を創造し『人間の生命の輝き』をめざす」です。
二代目社長・佐治敬三氏が50年前に社是として掲げたのが「人間の生命の輝き」であり、人が輝くだけではなく、自然や社会の輝きも求め、自然の生態系を守ることを重視してきました。自然のめぐみをもの作りに生かしながら文化事業や社会貢献に取り組んでいます。
事例3:ソニー株式会社
ソニー株式会社は日本におけるパーパス経営の先駆けとされ、2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」をパーパスに掲げました。クリエイティビティとテクノロジーの力を活用することで、誰にとっても「制約のない世界」を目指しているといいます。
導入に当たっては、まず世界約11万人の従業員へ呼びかけパーパスづくりに着手し、既に掲げていたミッションやビジョンを刷新するプロジェクトをスタートさせました。広く意見を募り、対話を繰り返しながら、企業としての存在意義や価値観を定めています。
事例4:TOTO株式会社
トイレやバス、洗面、キッチンなどの製品を通じ、快適な生活を創るTOTOグループではパーパスを「社会のため、お客様のために社会の発展に貢献し豊かで快適な生活文化を創造していく」としています。グループ一丸となり、暮らしやすい社会や環境を、長期視点で実現することが目的です。
また以前より企業理念を「私たちTOTOグループは、社会の発展に貢献し、世界の人々から信頼される企業を目指します」とし、事業を通じてきれいと快適を実現しながら、環境にも配慮しSDGsに貢献することを掲げています。
事例5:パナソニック株式会社
総合エレクトロニクスメーカーのパナソニックグループでは2021年10月にパーパスを「物と心が共に豊かな理想の社会の実現」と明示しました。そしてパーパスを示すブランドスローガンとして「幸せの、チカラに。」を掲げています。
顧客に寄り添い持続可能な幸せを生み出すための「チカラ」であることがパナソニック株式会社の存在意義です。「くらす」「はたらく」「環境」の領域で、多様な人たちそれぞれの幸せについて答えを出していくとしています。
まとめ
最近、ミッション(Mission)やビジョン(Vison)とは別に、企業の指針として注目されているのがパーパスです。社会の中での企業の存在意義を示すものですが、設定をすることで、企業の強みや姿勢をステークホルダーに伝えることができ、企業ブランドの向上につながります。
設定をする際には従業員も共感できるものにすることが大切です。全社員でパーパスを共有することで、パーパスの実現が可能となり、ステークホルダーからも信頼が得られるようになるでしょう。
ワークハピネスでは、従業員参加型 経営理念再構築・浸透コンサルティングを行っています。組織を前向きに変化させるためのパーパスの設定におけるサポートも行い企業のエネルギーを引き出します。他にもセミナーや新入社員向け研修なども実施しています。ぜひご相談ください。
大学卒業後、外資系医療機器メーカーで営業に従事。
6年間で8人の上司のマネジメントを経験し、「マネジャー次第で組織は変わる」と確信し、キャリアチェンジを決意する。
2009年にワークハピネスに参画し、チェンジ・エージェントとなる。
医療メーカーや住宅メーカーをはじめ、主に大企業の案件を得意とする。また、新人から管理職まで幅広い研修に対応。
営業、営業企画、新人コンサルタント教育を担当後、マーケティング責任者となる。
一度ワークハピネスを退職したが、2021年から復帰し、当社初の出戻り社員となる。現在は、執行役員 マーケティング本部長。