試金石となる一大プロジェクト
創業3年目の大勝負で老舗ホテルの再建を引き受ける事になったワークハピネス。(初回記事はこちら)
「失敗を恐れずチャレンジする!」を基本的価値観として掲げて様々な改革を猛スピードで実行する日々。
改革が始まって数ヶ月がたった初夏のある日。
休憩時間に厨房の倉庫で麻雀をしていた料理人たちの中でもとりわけ態度が悪かったFさんからの「ビアホールをやりましょう」と言う提案をもらいました。
Fさん発案のビアホールプロジェクトが成功すれば、「失敗を恐れずチャレンジする!」という基本的価値観を伝える象徴的な出来事として会社の歴史に刻まれるはずです。
なんとしてでも成功させるしかありません。
Fさんの提案を受けて、その数時間後に料理部門、宴会部門、調達部門の主だったメンバーを集めてビアホールプロジェクト会議を開催しました。
「屋外のビアガーデンに勝つためには魅力的なビアホールにしないと人は集まらないよね、、、何を当ビアホールの”売り”にする?」
「今、地ビールブームだから、地ビールの飲み比べとかはどうでしょう?」
「それ、いいね!」
「アラカルトだと注文取るスタッフの人件費がかかるし、会計も煩雑になるから、いっそのこと、食べ放題のビュッフェスタイルはどうだろう?」
「でも、ビュッフェって、なんかおいしくないイメージあるよね、、」
「コックが目の前でステーキを焼いたら?牛肉の焼ける音と匂いで気分も盛り上がるよね?」
「それ、いいね!」
「大宴会場には巨大スクリーンがあるから、そこで波の映像を流したらなんか夏っぽいよね!」
「音楽も大事だよね。有線放送契約してハワイアンミュージック流そうよ!」
「ヤシの木も並べたい!」
どんどんアイデアが出て、魅力的なビアホール像がみんなの頭の中に出来上がっていきます。
「ところで、どうやって集客する?」
「館外の植え込みに、『生ビール冷えてます!』ののぼり旗をずらっと並べたらどうだろう?」
「でも、コスト高そうだよね、、、」
「ビール会社4社に声をかければ協賛品で無料で提供してもらえますよ。」
「それ、いいね!」
「近隣のビルすべてに飛び込んでチラシを撒く!」
「『〇〇ですビアホール始めました!』と、駅の出口でポケットティッシュを配る!」
集客アイデアもどんどん出てきます。
良さそうなアイデアは全て実行あるのみです。やってみて失敗したら、「学んだね!」と笑って修正するだけです。
ここで問題が発生。
ビアホールに衣替えする予定の大宴会場にすでに数件の宴会予約が入っていて、宴会係が他の会場への異動交渉を試みたのですが、一つの宴会だけ、会場の移動を拒絶されてしまったのです。
「どうする?」
みんなが出した結論は、体育会系の根性論でした。
全社員総出で深夜に突貫作業でビアホールの装置を取り除き、1日だけビアホールを休業して通常の宴会を行い、また深夜の突貫作業でビアホールの装備に復旧するという力わざ。
私好みです。
オープン予定日は発案日から、、2週間後!
やることが盛り沢山で、猫の手も借りたいほどです。
忙しさの中で変わりはじめたスタッフ
猫の手の私は、ステーキを焼く鉄板等の機材の買い付けに、慣れないトラックを運転して中古店舗機器を扱うテンポスバズターズに直行。
販促用のポケットティッシュが完成すると、毎朝8時から1時間、地下鉄の出口でポケットティッシュを配り続けました。
出勤してくる方々一人ひとりの目を見て、笑顔で「おはようございます!〇〇ですビアホール始めました!」とティシュを配り続けました。
汗だらだら、真っ黒に日焼けして毎朝地下鉄の出口でひとりポケットティッシュを配っているとビアホールの集客を超える思わぬ副次効果がありました。
毎朝、ホテルに出社してくる従業員たちにも漏れなくティッシュを配ることになるのです。
当時、ワークハピネスからこのホテルに常駐していたメンバーは宴会の繁忙時には、パントリー入って積極的に皿洗いを担当していました。私たちの口先だけじゃなく、実際に手足を動かして汗を流す背中が徐々に従業員の心を掴んで行ったように思います。
当初は「あの人たちはコンサルタントで、やがて去っていく経営者だから、、、」と言う冷めた考えの人たちも多かったようなのですが、このビアホールプロジェクトを通して「あの人たちはコンサルタントかもしれないけれど、本気でこの会社を良くする情熱を持っている」と言う評価に変わっていったのです。
わずか2週間の準備期間にもかかわらず、とても良い雰囲気のビアホールが完成しました。
巨大スクリーンに流れる波の映像。
たくさんのヤシの木とハワイアンミュージック。
カラフルなテーブルクロスの上に置かれた穏やかな明かりのキャンドルライト。
近隣飛び込みとティシュ配りの成果が出たのか、ビアホール開業初日から数百人のお客さんが来ました。
運営は社員総出。バックオフィスの総務や経理のスタッフがビアホールの会計係を進んで引き受けてくれました。
なんと、初日から連日満員!
創業から90年の歴史の中、社員の発案で始めたビアホールが大盛況。
忙しいけどみんな笑顔です♪
ところがまたまた問題が発生。
1週間経って売上とコスト計算すると、、、
なんと大赤字であることが判明したのです!
飲み放題、ステーキまで食べ放題で5000円という価格設定に無理があったようです。
お客様が私たちの想定を上回る量のステーキを食べてしまったのです。
「どうする?」
「価格を上げる?」
「内容を下げる?」
出した結論は、、、、
「工夫して頑張る!」
”5000円で、飲み放題、ステーキまで食べ放題”
これが、大盛況の理由なわけですから、ここは企業努力のしどころです。
以下の3つの対策を行うことで、ビアホールの収支はプラスに転じました。
・牛肉の仕入れ業者を変更し、品質を下げずに仕入れ単価を下げる
・唐揚げやフライドポテトといった美味しくてお腹が膨れる料理メニューの追加
・ビールの大手4社に、地ビールを協賛品で提供してもらう
9月の中旬、夏の終わり、秋のブライダルと宴会シーズンを控え、ビアホールは大盛況のまま無事に終了となりました。
一致団結して導いた大成功
最終日の夜、全社員を集めて”打ち上げ”パーティを開きました。
日ごろは地下厨房に篭りきりの調理スタッフたちも全員宴会場に招き、彼らの苦労を労いました。宴会サービススタッフは自分たちが1番肉体的にも重労働だったはずなのに満面の笑みでみんなにお酒をサービスして回っています。
”人の笑顔が見られたら全ての疲れが吹っ飛んでしまう”サービスタッフは、そんな特異体質を持った人々です。
発案者のFさんも嬉しそう。見渡せばみんな笑顔で、お互いの健闘を讃え合っています。
私も、こんなに楽しかった”打ち上げ”は高校3年生の文化祭以来です。
この日を境に、改革の速度は一気に加速し、ホテルの業績はうなぎ登りに上がってきました。蓋を開けてみれば、対前年売上比1.5倍。
たった1年でホテルの業績がV字回復したのです。
翌年の6月のことです。
エスプールの社長を兼務していた私は上場準備のため、すでにホテルの社長は退任していました。
お客様の接待の用事で、館内の廊下を歩いていたら、宴会部のキャプテンが私を見つけて走ってきました。
「社長(彼は未だに私を”社長”と呼びます)、今年のビアホールは黒字確定です!」と言うではありませんか。
まだ、6月。ビアホールは始まっていません。
私がその疑問をぶつけると、
「今年は前売りチケット方式にしました!」と、驚きの返答。
誰かが発案し、経理、財務、、みんなが前向きに協力して前売りチケットの仕組みを構築し、全員で手分けしてそのチケットを売り切った姿が目に浮かびました。
15年連続赤字でモラールもエンゲージメントも最低レベルだったこのホテルの人々に「失敗を恐れずチャレンジする!」というカルチャーが根付いたのです。
涙が出ました。
ホテルの再建物語、次回は”レストラン編”に続きます。
株式会社ワークハピネスは人材育成研修・組織開発コンサルティングを通して
人と企業の「変わりたい」を支援し、変化に強い企業文化をつくる支援をしています。
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公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。
現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。