ホテル再建物語 その5 寿司割烹のオープン
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ホテル再建物語 その5 寿司割烹のオープン

今までとは全く異なるコンセプト

2004年のことです。

創業3年目の大勝負で老舗ホテルの再建を引き受ける事になったワークハピネス。(初回記事はこちら

私は社長兼総支配人に就任し、ワークハピネスから6名のメンバーがホテルに常駐して改革を進めました。

想定以上のペースでコスト削減は進みましたが、黒字化を目指すには今一段の売上の向上が必要です。

ホテルの収益の柱は宴会とブライダルなのですが、当時、その老舗ホテルには食事の選択肢が「90年の伝統あるフレンチ料理」しかありませんでした。

高齢者や子供が好きな中華料理やお寿司等の和食を提供できれば宴会の営業力が格段にアップします。

ビルオーナーの資金的支援を受けてまず取り組んだのが中華レストランの開業プロジェクト。

ラッキーにも、いきなり元都内一流ホテルの中華の総料理長と出会えた事で中華レストランの開業準備は予想以上に順調に進みました。

そんな中、ビルオーナーからさらに寿司割烹の開業も支援するとの申し出があったのです。

レストランプロデュースの楽しさを知ってしまった私はこの申し出に「やりましょう!」と即答。

中華レストランのオープンを待たずして、同時並行で寿司割烹の開業プロジェクトに着手したのです。

ちなみに、中華レストランのコンセプトは

マダム・シャーのおもてなし”でした。

5mの天井高の洋館でワインをお供に食す中華料理。

北京ダックの吊るされたショーウィンドウを横目に長い廊下を抜けるとそこには真紅のビロードのカーテンを背負ったバーカウンター。

席には色鮮やかなショープレートとワイングラス。

ナプキンを手にすると淡いブルーの蝶の刺繍。

青い迷彩色柄のメニューブックを開くと、対面に座っているお客様だけに見える”淡いブルーの蝶”。

ワインをサーブするチャイナドレス姿のサービススタッフ。

「ここはどこ?」

異国情緒の中で食べる中華料理。

まだ完成していないのにその魅力的なコンセプトだけで既に興奮状態。

寿司割烹の開業プロジェクトが決まると、

「次は、どんな趣向でお客様を驚かせようか?」

頭の中を様々な妄想が駆け巡ります。

良いアイデアをもらうべく、中華プロジェクトで知り合った腕利きの飲食コンサルタントに相談しました。

するとまたもや彼から値千金のアドバイス。

「寿司って、ただ魚を切って酢飯に貼るだけですよね。そんな単純な料理で高額な料金を取るためには高級なネタの鮮度を伝える必要があるんです。白を基調とした清潔な店内。一枚板の白木のカウンター。皺一つない白いパリッとした割烹着。ネタの鮮度を引き立てるために余計な装飾はマイナスです。

ガーン!

後頭部を鈍器で殴られたような衝撃。

”マダム・シャーのおもてなし”というコンセプトに酔いしれ、またもや凝りに凝った仕掛けと演出を考えていた私は一瞬で頭を切り替えました。

お店の外見や内装はとにかく本物の良い素材を使ってシンプルに徹することで、高級なネタの鮮度を表現する。

以上!

予想外のルートで見つけた料理人

予想外のルートで見つけた料理人

となると重要なのはやはり一流の料理人。

料理人は徒弟制度のとても狭い世界で生きています。なので優秀な料理長を採用できれば、そのお弟子さんや友人等、良い人材が芋づる式に獲得できるのです。

困ったときの友人頼みという事で、手当たり次第に電話をかけ、

「今度お寿司割烹を始めるんだけど、誰か良い板前さん知らない?」の電話攻撃。

タイミングの問題もあってか、今回はなかなか良い人にたどり着きません。

どうしたものか?と思案していたところ、ワークハピネスから来て人事部長をやっているIさんから、

「良い人が見つかった!」との知らせ。

聞くと、ルートはハローワーク

一流の料理人がハローワークで求職するなんてありえません。

聞き齧ったばかりの知識をひけらかして、コンコンとIさんに一流料理人の世界を説きました。

ところが、Iさん、

本当に良い人材なので一度会って欲しい!」と引きません。

仕方がないので、一度、面接する事にしました。

面接に現れたのは、、

パンチパーマをリーゼントにした大柄なS青年。

そのまま”ビーバップハイスクール”に出てきそうで、ちょっと引きます。

Sさん、高校を出て東京郊外の和食店へ就職。真面目で研究熱心な彼は20代でお店の副料理長に昇進。30歳を前にして、自分が料理長のお店を持ちたくて求職中だとか。

見かけとは裏腹に、話すととっても素直な好青年。

チャーミングな笑顔にも魅了されました。

「彼と一緒に働きたい!」と直感。

でも料理の腕も確認しなければなりません。早速、試食会をお願いしました。

白い割烹着に和帽子を被ったSさんは頭髪のパンチリーゼントも隠れ、恰幅が良いので若いながらも料理長の貫禄十分。

出してくれた料理は、茶碗蒸し、揚げ物、煮物、お寿司等々。

どれも美味しいですが、驚きはありません。

悩みどころです。

悩んだ結果、Sさんの「若さ」「素直さ」「研究熱心さ」「情熱」、そこからくる可能性に賭けることにしました。

料理長が決まれば一緒にメニューづくりです。

お店の看板料理の一つは握り寿司。そして、もう一品、看板メニューが欲しいところです。

Sさんと連れ立って様々な名だたる名店を巡りました。

Sさんはお店の看板料理を分析機械のように「みりん、昆布だし、、、」と解析しながら食べます。

そして翌日に”リバースエンジニアリング”と称して全く同じ味で料理を再現してくれるのには驚きました。

音楽の世界に「絶対音感」という才能があるように料理人の世界にも「絶対舌感」があるみたいです。

オバマ大統領と安倍前首相と会食した銀座の高級寿司店、「すきやばし次郎」にも行きました。

金持ちそうな客たちとカウンターに並んで食べた人生初の本物の高級寿司。

私の緊張をよそに、Sさんはいつものように私の耳元で解説を加えながら、落ち着き払って次郎さんの握る寿司を吟味して食べています。

さすが、元ヤンキー。肝が座っています。

Sさんと一緒に様々食べ歩いた末、たどり着いた看板メニューのもう一品は、、、

「活きスルメイカ」となりました。

さっきまで泳いでいた活きスルメイカの刺身は、なんと身が透明で、食べるとコリッコリッとして、、なかなかの感動体験。

これはお店の売りになりそうです。

さらに、まだグニュグニュと動き続けているイカゲソの部分は後ほど天ぷらにして出すとか。

こんな素晴らしい「活けスルメイカ」ですが、提供するお店が少ないのは水槽投資が大変だからなんです。

イカは泳ぎ続けていないと死んでしまうため、丸くて回遊できる専用の水槽が必要。しかも刺激に敏感で、驚くと墨を吐いて水槽内の全部のイカが死んでしまうから管理が大変。

そんなわけで「活けスルメイカ」を既存店がメニューに追加することはほぼ不可能。

新設店のアドバンテージで、最初から「活けスルメイカ」の水槽を静かな場所に設置するゾーニングプランが作れればお店の強力な武器になりそうです。

次にドリンクメニューです。当時、日本酒ブームが始まっていましたので全国の貴重な日本酒が飲めたら強力な看板になります。ここは毎晩日本酒で晩酌している元原子力発電所設計者のAさんの出番です。

有名酒蔵を営んでいる知人に都内の有力酒店を紹介してもらい、入手困難な日本酒の仕入れルートを確保しました。

Aさんは試飲と称して、ずらりと並んだ「十四代」、「獺祭」、「醸し人九平次」等々、貴重な名酒の数々を夜な夜な社長室の片隅で味わって幸せ顔です。

慣れないブライダル業務で溜めたストレスを大いに癒してもらいました。

料理長が生んだ相乗効果

料理長が生んだ相乗効果

最終的に完成したメインコースメニューは以下の通り。

「旬菜小鉢」がちょっとずつ5〜6品

そして看板メニューの「活けするめいかのお造り」

「季節の焼き物」

そして、先ほどまで動いていた「イカげその天ぷら」がきて、、、

さらに、「佐賀牛の網焼き」

最後に「おまかせ握り寿司6貫」

いささか、過剰気味。

「活けするめいか」に加えて、さらになぜ「佐賀牛の網焼き」まで入れ込んだのか?

答えは、、、

自分が食べたかったから!

当時30代前半でまだまだ食欲旺盛。

事後的に発見したコンセプトは”食いしん坊万歳!”です。

中華料理のオープンに遅れること2ヶ月の師走を前に待望の寿司割烹がオープンしました。

オープンと同時に店は連日昼夜大盛況。

S料理長の地元から連れてきた後輩料理人たちとのチームプレイも完璧です。

「十四代等の入手困難な日本酒」、「活きスルメイカ」、「佐賀牛の網焼き」も大好評。接待需要を見込んで用意した個室やパーティションで仕切られた小上がりの稼働率も上々。

”食いしん坊万歳!”のコンセプトは当たりました。

和食が選べるようになったことによって宴会の営業力も向上。

職人が目の前で「活きたボタンエビ」をその場で剥いて握るというサービスは高額ながらも大人気で宴会の客単価向上に大いに貢献してくれました。

この寿司割烹の誕生はさらに想定外の良い効果をホテルにもたらしてくれました。

それは料理長のSさんの存在です。

明るくて気さくなSさんは宴会や宿泊部門からも大人気。

上下関係に厳しいヤンキー育ち故か?中華やフレンチの料理長を立てるので、2人の大先輩からも可愛がられます。フレンチ、中華、和食の3料理部門の関係が良好なので、大宴会などで和洋中の全ての料理を盛り込んだ魅力的なビュッフェなども提供できるようになり、営業部門は「売れる!」、「勝てる!」と活気付きました。

そしてSさんは常に協力的。繁忙時には休憩時間を削り、職人たちを鼓舞して宴会部門からの急な要望に応えます。

そんなSさんの献身的な無言のリーダーシップが館内全体の一体感を生み出していきました。

日を追うごとに急カーブを描いて伸びていくホテルの売り上げ曲線。

経営再建を引き受けてから1年も経たずに月次損益は大幅なプラスに転じました。

15年連続赤字で下がり続けていた売上曲線は右肩上がりの急上昇軌道を描き始めたのです。

”一流の料理人がハローワークで求職するなんてありえません”

それは完全な間違いでした。

パンチパーマリーゼントに惑わされずにSさんのポテンシャルを見抜いたIさんの眼力に大感謝です。

一人ひとりの情熱が響き合ってどんどん組織は良くなっていくということを知りました。

次回はアイリッシュパブ編です!お楽しみに!

この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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