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ホテル再建物語 その6 アイリッシュパブの開業

“手作り”のバー

創業3年目の大勝負で老舗ホテルの再建を引き受ける事になったワークハピネス。(初回記事はこちら

フレンチしか食事の選択肢がなかったホテルの魅力を高めるべく、中華料理レストランと寿司割烹をオープンさせました。

結果は上々。中華料理レストランと寿司割烹には毎日新しいお客様が足を運んでくれるようになりました。

また、中華料理と和食が選べるようになった宴会場の競争力も大幅に向上。

月次売上も順調に伸び続け、ホテルスタッフも笑顔。館内に活気が溢れています。

ホテルの再建に私たちは確信を持ちました。

更に欲が出てきました。

フレンチ、中華、和食、、、ときて、まだ何かが足りないのです。

それは、、、

”バー”

このホテルには気軽に立ち寄ってお酒が飲める”バー”が無いのです。

最後の重要なピースが欠けているように感じました。

「そうだ、”バー”をつくろう!」

思い立つとじっとしていられない性格の私は、早速、館内の可能性がありそうなスペースの探索に動きます。

そして、ちょうど良い場所を発見しました。

それは大通りに面している1Fのフレンチレストランの前室です。

今は、フレンチレストランのレセプションとして利用しているのですが、広々とした空間に4名がけのテーブルが6セット、優雅に点在しているだけ。

前室としては無駄に大きすぎます。

ここをバーに改装したらアクセスも良いので大通りから人を呼び込めそうです。

ただ、”バー”の開設は経営計画に入っていませんから、予算はゼロ円。

全て手作りで行うしかありません。

私たちには、大宴会場を改装して2週間の突貫作業でビアホールを完成させた成功体験があります。

きっとこのホテルの従業員たちなら何とかするはずです。

私が最も頼りにしている宴会部長のSさんに早速相談です。

「フレンチレストランの前室を”バー”に改装したら大通りのお客さんを呼び込めると思うんだけど、どうかな?」

「社長、いいですね!やりましょう!」

S部長は二つ返事で賛成してくれました。

彼は、私が社長に就任したタイミングで大抜擢した若手のリーダー。

スタッフを上手に統率し、社内で一番行動力があります。

館内を知り尽くしているSさん、3階の宴会場の倉庫に使っていない大きなサービスカウンターとキャビネットがあるはずだと。

行ってみると倉庫の奥深くに、ホコリだらけですが、随所に手の込んだ彫刻が施されている重厚なカウンターとキャビネットがありました。かつて、このカウンターとキャビネットが活躍していた古き良き時代の舞踏会の映像が浮かんできました。さすが、90年の伝統。持ってるモノが違います。

これを前室中央に”どん”と据えれば雰囲気”バッチリ”です。

S部長の一声で休憩中の10数名の男性スタッフが3階の宴会場に集まりました。

「1階、フレンチレストランの前室を今から”バー”に改装してます。皆さんの力が必要です、まずは、、」

ビアホールの突貫設営を成功させているフタッフたちは、突然の力仕事もお手の物です。

数メーターの巨大なカウンターとキャビネットが階段を上手に回転しながら一階へと下っていきます。

”バー”を思いついてからわずか数時間で”バー”のハードは完成です。

頼りになる仲間たちです。

次はソフトです。

飲食コンサルタントに教えてもらったお店作りの基本に戻りました。

「吉村さん、レストランの設計にあたって1番重要なのはターゲットと来店動機なんです。全てのアイデアはターゲットと来店動機に整合しなければダメなんですよ。」

ターゲットは近隣の勤め人。来店動機は「会社帰りのちょっと一杯」。

そこで、私の頭に突然にあるコンセプトが閃きました。

”アイリッシュパブ”です。

超スピードで完成したアイリッシュパブ!

公認会計士時代の20代の終わり、社命で1ヶ月間イギリスに短期留学した際にイギリスのパブ文化を知りました。ロンドンの郊外にホームステイしていたのですが、住宅街の中にはほとんど50メーターおきにパブがありました。住民は夕食を家族と食べた後、バラバラと近所のお気に入りのパブに集まってきて、政治やスポーツ談義で盛り上がります。

飲むのは、”スタウト”、”エール”、”ラガー”といった3種類のビール。

そして、定番料理は”フィッシュアンドチップス(白身魚のフライとフレンチポテト)”

スタウトといえば苦味とクリーミーな泡が特徴の黒ビール「ギネス」が有名です。

”エール”は琥珀色でコクと酸味があります。

そして日本人がいつも飲んでいる、さっぱりとキレのある”ラガー”。

この3種類のビールを、”ワンパイント”もしくは”ハーフパイント”という量で注文するのがパブの流儀。

ここに”アイリッシュパブ”があれば、近隣の勤め人たちが「ちょっと一杯!」と仕事帰りに集まってくる姿が目に浮かびました。

コンセプトが”アイリッシュパブ”と決まれば、あとは”スタウト”、”エール”、”ラガー”という3種類のビールの調達と”フィッシュアンドチップス”を中心としたフードメニューの作成です。

購買部長と料理長に指示を出すと、3日以内に準備可能との返答。

驚きのスピード!

”創業以来初のビアホール”、”創業以来初のブライダルフェア”、”中華レストランの開業”、”寿司割烹の開業”等々、幾多の新たな挑戦を乗り越えてきた従業員たちにとって、”アイリッシュパブ”をつくるくらいの変化はもはや当たり前の日常なのでしょう。

「失敗を恐れずチャレンジする!」、「失敗は学習!」という私が示した行動規範が遂に従業員全員に浸透したのです。

休憩時間に倉庫で麻雀をしていたコック達を思い出すと感無量です。

さあ、これで”アイリッシュパブ”は完成か?

重厚なアンティークのバーカウンターとアイリッシュウイスキーが並んだキャビネット、

カウンターに”Guinness”と光る生ビールのタップサーバー、、、

完成したお店をイメージした時、まだ何かが不足している気がしました。

”アイリッシュパブ”感が足りないのです。

ニンニクが吊るされていて、オリーブオイルの瓶が並んでいると突然イタリアのトラットリア感が出ます。

蒸し器から湯気が上がっていれば中華料理店感があふれます。

果たして、”アイリッシュパブ”を想起させる演出とは何なのか?

ネットで世界中の”アイリッシュパブ”の画像を見ていたら、ある特徴を発見しました。

看板や内装の”色使いに法則”があったのです。

全ての”アイリッシュパブ”は、真紅もしくは濃緑が基調で、文字等に金色が使われていました。

例えば、柱や壁が真紅で、金色で店名が描かれているパターン。

もしくは、

柱や壁が濃緑で、金文字で店名が描かれているパターン。

このいずれかの色使いをすると、”アイリッシュパブ”感があふれるのです。

即座に、ホームセンターに直行。

大きな杉板と彫刻刀、そして真紅と金の絵具を買いました。

社長室で小学生以来の木工作業です。

彫刻刀で店名を彫り、浮き上がらせ、金色に塗り、、ベースは真紅。最後に、廊下の煤でちょっと汚すと、、、

あら不思議!

90年前からそこに存在したかのような伝統を感じる”アイリッシュパブ”の看板が完成です。

バーカウンターに”Guinness”と光る生タップサーバー、窓際においた”Guinness”と光るネオンサイン、そしてこの真紅と金の手彫り看板。

どこから見ても正に”アイリッシュパブ!”

思いついてから何と3日後に”アイリッシュパブ”が完成です!

従業員の素晴らしい実行力。

頼りになる仲間達。

窓際においた”Guinness”のネオンサインに導かれて会社帰りの勤め人がパブに集まってきます。

”スタウト”、”エール”、”ラガー”、おもいおもいに好きなビールを楽しんでいます。

中華や和食のレストラン、そして宴会に来たお客さんが「もう1杯飲みたいね!」という二次会利用でもこの”アイリッシュパブ”にやってきました。

昼間は喫茶店。夕方からはアイリッシュパブ。深夜までお客様が途絶えることがありません。

お酒は利益率が高いので予定外の利益貢献。

ひとまず成功です。

ところが、成功の余韻に浸ることもなく、次に「ランチでも稼ごう!」という話が現場から出てきました。

水回りの厨房施設を持たない”アイリッシュパブ”で出せるランチとは?

出された結論は、サンドイッチとホットドック。

都内の有名店を回って、様々なサンドイッチとホットドックを買って食べました。

そして、完成させた自信作が、カレー味のキャベツのコールスローを敷いた極太のホットドック。

マヨネーズをかけて食べるとなかなかの美味です。

これは名物になる!

ところが、売れたのは最初だけ。長続きしませんでした。

物珍しさで一度は食べてくれても、リピートしないのです。

思わぬつまづきと従業員の現場力

少ないスタッフで回せるという観点から、煮込みハンバーグのワンプレートランチ等、様々試しましたが、どれもインパクトが今一つ。

そして、最終的にたどり着いたのが、、、

”カレーライス”

フレンチの厨房で大量に仕込んでおけば、お店では炊飯器と電熱器さえあれば提供可能。

そして何より、老舗フレンチのコックが作る”欧風カレー”は味に深みがあって絶品なんです。

何とこのカレーライスが大ヒット!

看板メニューとなって、リピートしてくれる常連客が増えました。

ランチの売上も安定し、店長に抜擢した20代前半の社員も毎日張り切って働いています。

ところが、開店して、数ヶ月がたったある日、店長が失踪して行方不明になりました。

こんなにお店も繁盛していて、これからって時になぜ?

全く解せません。

私の困惑をよそにS部長は平然としています。

現場の声を集約すると、原因は、”女性関係のトラブル”。

若い店長、アルバイトとして雇った若い女性と恋に落ちてしまったとか。ところが、彼には以前からつきあっていて婚約までしている宿泊部門の同僚女性がいて、三角関係で事態は泥沼に。

思い詰めた店長はそのアルバイトスタッフと駆け落ち、、、ということです。

”よくある話”

みたいです。

長時間労働で休みも少ない飲食サービス業。若い男女が多いお店ではこの手の事件は珍しくないとのこと。

ホテルの業績をあげたくて一心不乱に事業の事だけを考えていた私でしたが、若い店長にとって最も大切なのは目の前の恋愛。

S部長は予見していたらしく、鮮やかに後継体制を整え、お店は何事もなかったかのように回り続けています。

これこそが数値化できない現場力です。

社長として改革ビジョンを示しましたが、従業員の現場力がその変革を実現させるのです。

最も大切なのは経営者と現場の信頼関係です。

経営者としてまた一つ貴重な体験をさせていただきました。

”アイリッシュパブ”としてスタートしたバーですが、今では「食べログ」で、”カレーの名店”として高い評価を得ています(笑)。

お店を成功させる最大の秘訣は、看板メニューを飽きずに「継続」することのようです。

”変えないモノ”と”変えるモノ”を見極めることが大切です。

次回はイタリアンレストラン編です!お楽しみに!


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この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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