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ホテル再建物語 その7 イタリアンレストランの開業

スムーズな滑り出しを見せるリニューアル

創業3年目の大勝負で老舗ホテルの再建を引き受ける事になったワークハピネス。(初回記事はこちら

フレンチしか食事の選択肢がなかったホテルの魅力を高めるべく、中華料理レストランと寿司割烹をオープンさせました。

結果は上々。中華料理レストランと寿司割烹には毎日新しいお客様が足を運んでくれるようになりました。

この二つの新レストランの成功に気を良くした私はさらにイタリアンレストランを作りたいと思いました。

理由は、、、

「イタリアンが大好き!」

以上。

当時、ホテルの1階の1番良い場所に老舗フレンチレストランがあったのですが売れるのはランチのビーフシチューとハンバーグ。これではフレンチレストランではなくて単なる洋食屋です。

チャイナドレスのスタッフにワインをサーブされながら食べる中華料理や入手困難な日本酒と共に「活きスルメイカ」が食べられる寿司割烹等、お客様を「あっ!」と驚かせる斬新なコンセプトで賑わいを見せている中華と和食に対して、フレンチレストランだけは昔ながらのビーフシチューとハンバーグ。

これでは3レストランの釣り合いが取れません。

洋食屋として親しんでくれている一部の常連客の皆さんには申し訳ないですが、ホテルのグレードアップのために本格的なイタリアンに衣替えするのも致し方ないのでは?

そんな都合の良い理屈を掲げてイタリアンレストランプロジェクトをスタートさせました。

「イタリアンのシェフを探しているんだけど、誰か知らない?」

いつものように片っ端から友人に電話をかけると、直ぐに良い人材に辿り着きました。

イタリアで数年間修行した後に都内の有名高級イタリア料理店でシェフを務めていたM氏です。

早速、面接を兼ねて試食会を開いてもらいました。

豊かな顎髭をたくわえ、恰幅の良いM氏。一流料理人の品格を纏っています。

出された料理はどれも美味しく、上品で高級な味がします。

副支配人のSさんからの提案で、予定になかったボンゴレを即席で作ってもらう事にしました。

このボンゴレが絶品!

シンプルなアサリのスパゲッティーから高級な旨みを感じました。

サポートにつけた若手料理人のNさんによると、「塩味をアンチョビだけで加え、オリーブオイルとパスタの茹で汁を乳化させる事で、、、絶妙な火加減で、、」

との解説。詳しくは分かりませんが、美味しさの裏側に確かな技術がある模様。

満場一致で採用決定です。

M氏の側で働いて勉強したいとの事で、向上心旺盛なNさんをスーシェフ(副料理長)としてつける事にしました。

店づくりのコンセプトはMさんの方から提示されました。

それは”Locanda(ロカンダ)”と言われるスタイル。フランスで”Auberge(オーベルジュ)”と呼ばれる宿泊施設付きレストランのイタリア版です。

そのレストランでの料理を目当てにわざわざ泊まりがけで旅行に来るお店。

当時、「ウインザーホテル洞爺」がフランスの三つ星レストランの「ミシェル・ブラス」と京都の老舗割烹「美山荘」を擁する事で”Auberge(オーベルジュ)”化して大復活を遂げていました。

”Locanda(ロカンダ)”化による宿泊部門との相乗効果!

ワクワクします。

サービスの要となる給仕長として、M氏がかつてコンビを組んでいたソムリエのTさんを連れてきました。

レストランの内装も厨房機器も全て整っていますから、メニューを作り、既存の看板に”Ristorante(リストランテ)”と書き足せば高級イタリアンレストランの完成です。

料理のメニューに関しては全てM氏にお任せ。その豊富なレパートリーの中からどんなものが

飛び出すのか?大変楽しみです。

ワインリストはソムリエのTさんが用意しました。

M氏に出会ってからわずか2週間の準備期間で高級イタリアンレストランの開業です。

オープン当初、その本格的イタリアンの高級な味にホテルの常連客達は大喜び。

ところが後が続きませんでした。

暗雲漂う”高級イタリアン”

夜は10,000円のコースメニュー1本。

ワインも高級なラインナップなので、客単価は1万5,000円オーバーです。

味もサービスも一流なのですが、月に何度も通える値段ではありません。

接待で使うにしてはちょっと堅苦しい。

デートで使うにしてはちょっと値段が高い。

宿泊を目的に全国からお客様が訪れるほどの知名度もない。

M氏とTさんの高い人件費と相まって初月から大赤字です。

M氏に「どうにかならないか?」と尋ねるも、答えはいつも同じ。

「良い店づくりには時間が必要なんです。もう少し待ってください。」

店が周知され、常連客がリピートしてくるまでには確かに時間がかかります。

ですが、こちらは中華レストランと寿司割烹でロケットスタートを経験しています。

中華レストランは「ワイン」と「異国情緒の内装」が受けました。寿司割烹は「入手困難な日本酒」と「活きスルメイカ」。

お客様を「あっ!」と驚かせる斬新な目玉企画が欲しいところです。

そこで思いついたのが、当時珍しかった「ナポリピザ」

石窯焼きの、香ばしく、外はカリカリ中はモチモチのナポリピザはまだ日本では一般的ではなく、もし提供できればお店の看板メニューになるはずです。

M氏に「ナポリピザ」の導入を提案すると、、、、

「リストランテでピザは出ません。ピザはピッツェリアで食べる日常食です。」

との正論。

秒も検討してもらえず、あっさり却下。

 廉価なアラカルトの追加や営業時間の延長等、様々提案するも、何一つ対応してくれません。

そして最後に一言。

「良い店づくりには時間が必要なんです。もう少し待ってください。」

ところが、待てど暮らせど事態が改善しません。

M氏とTさんの人件費も高く、このリストランテだけ、毎月赤字を垂れ流し続けます。

さらに、悪い事に、このM氏とTさん、館内での評判がすこぶる悪いのです。

夏のビアホールを成功させるためにホテルの従業員が総出で手伝っているのに彼らは知らん顔。

自分のお店以外には興味がない様子。

宴会部門からの急な料理の要望に対しても、「仕込みが忙しい」の一点張りで全く対応してくれません。休憩時間を削ってでも対応してくれる寿司割烹のS料理長と比べるとその非協力的な態度が際立ちます。

ビアホールの大成功を全従業員で称え合った”打ち上げパーティー”でも、盛り上がるスタッフたちと言葉を交わすことなく冷やかな態度のイタリアン2人組み。

「社長、彼らは高級店出身なんで、私たちを三流ホテルマンとして見下している気がします!」

スタッフからはそんな発言まで。

みんながホテルの黒字を目指して奮闘し、中華や和食のチームは集客が足りないとホテル前の歩道でチラシを配っています。そんな中、赤字を垂れ流している張本人達のマイペースな姿は、他の従業員達からの反感を募らせました。

このままだと、不満が爆発して館内が分裂してしまいます。

早急に赤字を止めなければなりません。

私はM氏に対して、「黒字にするために、客単価を下げ、気軽に使えるようにアラカルトを増やしてくれませんか?」とお願いしました。

「リストランテをやめて”Taverna(タベルナ=居酒屋)”になれっていう事ですか?」

とM氏。

「まずは黒字にして、そこから徐々に客単価を上げて、、理想に近づくために、まずは現実に対処して欲しいということです。」

と私。

「理想のリストランテをつくるには時間がかかるのです。もう少し待てませんか?」とM氏。

議論は平行線。

ほとんど喧嘩状態の睨み合いが続きました。

大変苦しい決断ですが、私はM氏に頭を下げ、辞めてもらうことにしました。

私の経営判断ミスで”Ristorante”プロジェクトは開始から半年で終了です。

今思えば、このプロジェクトが失敗した原因は次の二つです。

1:マーケティングの失敗

そもそもの始まりが私の「イタリアンが大好き!」という公私混同な理由。

満たすべきは私のニーズではなくて近隣のお客様たちのニーズです。

飲食コンサルタントに教えてもらった、

「ターゲットと来店動機」の設計が全くありませんでした。

”Auberge(オーベルジュ)”や”Locanda(ロカンダ)”は結果として成るものであって、突如現れるものではありません。

美味しいと評判のレストランがあり、その噂が全国に広がって、わざわざ遠くからその店を目当てに旅をする人々が増え、、、結果として”Auberge(オーベルジュ)”や”Locanda(ロカンダ)”と成っていくのです。

冷静にマーケティングしたら、つくるべきは近隣の勤め人達が「気軽に立ち寄れるイタリアン居酒屋”Taverna”」です。

2:プロデュース体制の失敗

美味しい料理を作れることと黒字経営のレストランを作れることは別の才能です。

ジョエル・ロブション氏や平松氏のように一流の料理人でかつ一流の経営者という天才もいますが、それは極めて稀な事例。

職人気質のM氏にお店のコンセプトやメニュー等のプロデュースを任せたことが間違いでした。

ターゲット顧客と来店動機、コンセプト、メニュー、価格体系はしっかりと経営者が考え、お店のビジョンに賛同してくれるシェフを探してくるのがあるべき手順。

料理の美味しさに感動し、”ハロー効果”でM氏の経営に関する才能まで勝手に高く見積もった私の判断ミスです。

最終的に喧嘩別れ。M氏とソムリエのTさんには大変申し訳ないことをしてしまいました。

コンセプトを変え、少しずつ改善へ

さて、失敗した高級イタリアンレストランですが、スーシェフのNさんを料理長に昇格させ、店のコンセプトも「気軽に立ち寄れるイタリアン居酒屋”Taverna”」に変更して再出発を試みました。

半年間、M氏の下で働いてきたNさんは、短期間で目覚ましい成長を遂げていました。

近隣の勤め人をターゲットにした、安くて美味しいメニューを次々と開発してお店は徐々に売上を増やしていきました。

そして、生え抜きで若いNさんはとても柔軟で協力的。

館内のチームワークも回復して良い感じです。

時は戻せません。「失敗」を「学習」と読み替えて、前進あるのみです。

この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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