ホテル再建物語 その8 コスト削減
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ホテル再建物語 その8 コスト削減

本格的なコスト削減に着手

ワークハピネスが創業して3年目の2004年のことです。

自分たちの提供する人材・組織開発コンサルティングのクオリティーを証明して、会社をいっきに飛躍させるために、15年連続赤字の老舗ホテルの再建を引き受けました。(初回記事はこちら

中華、寿司割烹、イタリアン等、次々に新しいレストランを開業させて、ホテルの集客力を高めると同時に、力を入れて取り組んだのがコストの削減です。

コスト削減活動において大切なのは、

「測定なくして改善なし」

というマネジメントの金言です。

私たちがダイエットをする時、最初にやるべきは「体重計に乗る」ことです。

毎日体重を「測定」する事によって、昨日の食事や運動を振り返り、今日の計画を修正することができます。

減量の計画を立て、食事量と運動量に気をつけて、毎日体重を「測定」する。

目標をクリアしてれば、食事量と運動量は適性。

減量目標をクリアしていなければ、食事量と運動量の「改善」が必要となります。

「測定なくして改善なし」

会社のコスト削減においても考え方は一緒です。

ところが、困ったことに、この老舗ホテルでは各部門が使っているコストの「測定」がなされていなかったのです。

損益計算書はあるのですが、年に一度、全社の数字が合計されているだけ。

宿泊、宴会、レストラン、それぞれの部門に分けた損益計算書がありませんでした。

「計画(Plan)」、「実行(Do)」、「測定(Check)」、「改善(Action)」のサイクルが全く回っていませんでした。

これで黒字経営を行うのは至難の技。

体重計に乗らずにダイエットしているようなものです。

一方で、私たちが再建に希望を見出していたのもこの「測定」システムの欠落です。

毎日体重を「測定」すると、嫌でも危機感が湧いて食事や運動に気を配るようになります。

会社も部門別の利益を「測定」して現場にお知らせすると、勝手に危機感が湧いて経営の改善が進むのです。

マネジメントの基盤である「測定」システムの構築は老舗ホテルの再建における最重要アクションでした。

「測定」の開始と改革のスタート

「測定」の開始と改革のスタート

まず目標としたのが、部門別月次決算を月末後3日以内に集計して全社にお知らせする仕組みの構築です。

当時新入社員ながら老舗ホテルの経理財務部長に就任したSさんの頑張りで再建着手から3ヶ月目には部門別月次損益が翌月3日に集計されるようになりました。

公認会計士時代、監査現場において損益計算書を監査する時、金額的に大きいものからアプローチするのがセオリーでした。

老舗ホテルのコスト削減においても、このアプローチで行くことにしました。

ホテルのコストには売上原価と販売管理費があります。

売上原価となるのは、食材費、飲料費、リネン、お花代、、サービススタッフの賃金等のお客様に直接提供する食事やサービスに掛かるコストです。

販売管理費のコストとなるのが、役員報酬、社員の給料、各種手数料、、、地代家賃です。

金額的に多い順番は、人件費、食材費、飲料費、地代家賃、リネン、お花代、、

まずは人件費。

人件費を削減するとは、、、「リストラ?」

考えただけで憂鬱になります。

「人の人生に介入するって申し訳ないな」

「一度も経験した事がないから上手にできるか不安だな」

ところが、この「リストラ」というテーマは再建の当初にあっさり解決してしまいました。

私がこの老舗ホテルの社長兼総支配人に就任したその日に新組織図を発表しました。

宿泊部、宴会部、調理部、購買部長等の主要部門の長を全員解任し、代わりに2〜30歳代の若手を抜擢したのです。

すると次の1週間でバタバタと年長の社員たち数十名が辞表を提出してきたのです。

これは想定外。

年長の社員たちには様々な思いが去来したのでしょう。

突然現れた公認会計士の若造社長。

2〜30歳代の若造を中心としたおままごとのような新組織図。

今まで部下だった若者が明日から上司となる屈辱。

激変が予想される職場環境。

15年連続赤字の長期凋落傾向。

今ならもらえる外部拠出の退職金。

これらを勘案すると「今が辞め時」と思ったのかもしれません。

居座ってぶら下がるシニア社員は皆無でした。

誰一人として文句を言うことなく、静かに辞表を提出して去っていきました。

老舗ホテルマン、職人としてのプライドを感じました。

期せずしてリストラは完了。固定費が大幅削減されました。

重たい人件費の問題が片付き、次に取り組んだのが地代家賃の減額交渉。

ストレートに再建プロジェクトのスポンサーであるビルオーナーにお願いして、当面の間半額にしてもらいました。

食材費や飲料費に関してはBtoBのネット発注システムを導入し、仕入れ先を日々見直す仕組みを導入しました。

毎週の部門長会議で購買担当者が次のような報告をしてくれます。

「仕入れ先を見直すことで、コーンの缶詰の仕入れ値が@400円から@350円に下がりました。年間仕入数が約10,000個なので、年間で約500,000円の削減となります。次に、、、、合計で今週は年額換算で約300万円の削減です」

宿泊部門や宴会部門から称賛の拍手が沸き起こります。

購買担当者のこのような地道な積み上げによって、3ヶ月で年額換算にして1億円近い購買コストの削減が実現しました。今まで裏方部門だった購買部がヒーローになりました。

「外国人」だからできた仕入れ値削減

「外国人」だからできた仕入れ値削減

テーブルクロスやおしぼり等のリネン類、館内で消費するお花、ウエディングケーキに関しての仕入れ交渉は直接私が担当しました。

リネン、お花、ケーキに関して他の業者を探して相見積もりを取ると、なんと全てに関しておよそ半額の見積もりが出てきました。

不当に高い価格で仕入れていたのです。もしかしたら前任の社長の懐にキックバックが入っていたのかもしれません。

取引先の社長にお越しいただき、その場で相見積もりをお見せして、

「この金額まで単価を下げていただけませんか?」とお願いすると、

社長は、

「半額とは酷い!」

「これまで我が社は様々な無理難題に付き合ってきた!」

「90年の取引関係を何だと思っているんだ!」

血相を変えて私に文句を言ってきます。

私の返答は常に一緒。

「申し訳ありませんが私は過去の経緯を知りません。今、弊社は赤字でして、これを早急に黒字に復活させるのが私の責務です。この金額でお取引いただけないのならば今後はお付き合いできません。1週間差し上げますのでご検討ください」

結果は、、、

テーブルクロス、おしぼり、お花、ケーキ、、全て仕入れ値が半額以下になりました。

これぞまさにカルロス・ゴーン効果。

2000年に日産の業績をV字回復させたカルロス・ゴーン氏は、購買コストの20%削減を掲げて見事に達成します。

その時、現場に示した行動規範が「聖域なし、制約無し、タブーなし」

「辻名誉会長が手掛けた事業だから、、」

「日産の元役員が社長をやっている取引先だから、、」

「日産が困っているときに助けてくれた取引先だから、、」

そのような事情は一切忖度することなく「聖域なし、制約無し、タブーなし」で冷徹にコスト削減を実行しました。

過去の経緯を知らない外国人だからできる合理的な行動です。

コスト削減を求められた取引先も、「外国人」のゴーンさんが過去からの事情や人間関係を理解してくれるとは期待しませんから抵抗することなく諦めて受け入れました。

この老舗ホテルにおいて、私も立派な「外国人」。

空気を読むことなく、合理的に行動するだけ。周囲も諦めて従ってくれました。

新レストランの開発やウェディングの立て直しに比べればコスト削減は簡単です。

奇抜なアイデアやセンスは不要。

「測定なくして改善なし」

ただ、この金言を愚直に実行するだけです。

カルロス・ゴーン氏は日産を短期間で黒字に復活させました。

その中身は複数工場の閉鎖と購買単価の見直しによる大幅なコスト削減です。

日産がV字復活させたことでカルロス・ゴーン氏は称賛されましたが、「外国人」という特性を上手く使えばそれほど難しい仕事では無かったと思います。

私たちが老舗ホテルのコスト削減を成功させられた1番の理由も「外国人」だったことにあると思います。

逆に言えるのは、過去の経緯や人間関係を知っている内部昇格の社長が会社を変革する事の難しさです。

会社に変革が必要な時には、思い切って外部から経営者を招くのがベストかもしれません。

次回は、ホテル再建物語も終盤!成功の鍵はなんだったのかを振り返っていきます。


株式会社ワークハピネスは人材育成研修・組織開発コンサルティングを通して
人と企業の「変わりたい」を支援し、変化に強い企業文化をつくる支援をしています。 
新入社員〜管理職・役員研修のほか、全社向けチームビルディングまで
貴社の職場課題に合わせたカスタマイズ対応が可能です。

ウェブサイトにはこれまでに弊社が支援させていただいた研修および
組織コンサルティングの事例を掲載しております。ぜひご参考ください。

この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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