今、ビジネス界では、「パーパス経営」がバズワードです。
世界最大の資産管理会社ブラックロック社のCEOラリー・フィンク氏が経営者に向けた2018年の書簡で、「企業はパーパス主導でなければ長期的な成長を持続できない」と発信したことがこの流れの始まりでした。
気候変動リスク、格差拡大、偏見等の社会課題に取り組むパーパスと一貫した戦略を掲げて活動しなければ株主・顧客・従業員・サプライヤー・社会から支持されなくなると訴えました。
この対極にある考え方がノーベル経済学賞を受賞した米国の古典派経済学者であるミルトン・フリードマン氏の主張です。
「企業の社会的責任は利益を増やすこと」
長らく、世界の資本市場、特に米国はこのフリードマンの主張に洗脳され、短期利益主義で安易なリストラやM&Aを繰り返してきました。
その結果、格差が拡大して世界は不安定となり、野放図な経済活動の拡大が気候変動等の環境問題を引き起こしました。
市場の調整機能に任せてもこれらの社会課題は解決しません。
かといって、国家的規制を期待してもポピュリズム化した民主主義国家の国々では修正に時間を要します。
グローバルに活動する企業の自主的な取り組みが世界を良くしていく原動力として重要なのです。
企業の社会的な責任は「利益を増やすこと」を超えて、顧客・従業員・サプライヤー・社会といったステークホルダー全体に及ぶべきであるとの合意が、資本主義の権化たる米国でなされたことは画期的な転換です。
このパーパス経営、グローバルに活躍する大企業だけの問題ではありません。
中小企業や個人商店であっても顧客と従業員から選ばれ続けるためにパーパスは重要です。
その理由を私の個人的な体験で説明しましょう。
「まん延防止等重点措置」も解除されたから友人たちと久しぶりに食事に行こうということになり、私がお店選びを担当することになりました。
久しぶりの食事会ですからリーズナブルプライスで美味しいものが食べたい。
でも、そんなお店、たくさんあります。
SNSの評価経済の中で、価格に対してクオリティーが低い店はあっという間に排除されてしまうからです。
友人は私に「なんでこの店にしたの?」と聞いてくるでしょう。
食べログで評価が高かったからではおもてなし感ゼロです。
彼らが喜んでくれるクオリティーにプラスして魅力的なパーパスとストーリーが必要です。
「健康に配慮し、素材にこだわったイタリアンで、シェフが自ら有機農法で野菜を育て、契約している猟師さんが仕留めたジビエをメインにしていて、ワインも全てビオ・・」
みたいな魅力的なストーリーです。
結果、
「友人である肉の専門家が経験と人脈の全てを注ぎ込んで最近はじめた、日本中の美味い肉と絶品タレを堪能できる焼肉店」が選ばれました。
自分が全国を食べ歩いて最も美味しかった肉とタレを親しい友人たちに食べてもらいたいという彼の人柄が伝わるおもてなしのパーパスと、そのために有名店の店主と仲良くなって口説き続けた不屈のストーリーが私の心を打ちました。
最近、食べログでも、お店の紹介欄に、シェフの思いや食材や調理法へのこだわり、お店の歴史等のストーリーを掲げているものが増えています。
クオリティーと価格ではなく、パーパスとストーリーで差別化する必要があるのです。
モノを買うときにもパーパスとストーリーが決め手となります。
コロナ禍、テレワークとなり、革靴よりもスニーカーを履く機会が増えました。
世の中には様々なスニーカーが溢れています。
何を基準に買えば良いのか?本当に困ります。
みんなが履いているから、ナイキかアディダス?
久しぶりのスニーカー購入。もう少し力を入れてみたいです。
そんな時、今、米国で人気沸騰中の「オールバーズ」というメーカーを知りました。
サンフランシスコ生まれれの「オールバーズ」のスニーカーはその素晴らしい履き心地でシリコンバレーのIT企業の経営者たちに選ばれているのですが、最大の理由はその環境性能です。
ホームページを見ると、いきなり「あなたの服が地球を滅ぼしています」という強烈なメッセージ。
ファッション業界が気候変動の重要な要因になっていて、これを止めるべきだと声高にパーパスを訴えてきます。
さらに見ると、具体的な目標数値を掲げて、以下に本気で取り組んでいるようです
・環境にやさしい牧羊による再生可能農業
・自然素材やリサイクル素材等の再生可能素材
・製造や運搬における再生可能エネルギーの活用、そして製品寿命の倍増
オールバーズ社の脱炭素への徹底した取り組みのストーリーは履きごごちの良いスニーカーという物質的満足と、気候変動への貢献という心の満足をもたらしてくれます。
優れたクオリティーのモノとサービスが溢れる世界で選ばれるためには、魅力的なパーパスとストーリーが必要なのです。
魅力的なパーパスとストーリーは採用市場においても重要です。
少子高齢化で慢性的な人手不足。
終身雇用が崩壊し、転職が当たり前。
継続的な売り手市場で採用は企業の重要な経営課題です。
求職者は溢れる求人情報の中から、職種や待遇で会社を選ぶわけですが給料水準等は勤務地や職種毎に均一化していて大差がありません。
友人から「なんでその会社を選んだの?」と聞かれたときに、自信を持って説明もしたいです。
最後の決め手は社風や雰囲気、そしてパーパスといったソフトな部分となります。
例えば、ITエンジニアの場合、DXブームで求人は旺盛ですからどの会社からも高い給料が提示されるでしょう。
でも気候変動問題にチャレンジする「オールバーズ」に参加するならば、給料以上の満足を得ることができます。そして、友人にも自信を持って説明できます。
魅力的なパーパスを掲げる会社は、採用マーケットにおいて高い競争力を持つのです。
インターネットとSNSが普及して、瞬時に情報と評判が共有される現代。
他社を差別化するクオリティーのモノやサービスを生み出しても、即座に模倣されて優位性が消滅してしまいます。
簡単に無くならない差別化要因は人々に共感されるパーパスとストーリーです。
文字に書いたパーパスは模倣されるかもしれませんが、その具体的な取り組みである各種のストーリーはオリジナルを超えることはできません。
気候変動を止めるべく高い志を掲げて創業したストーリー。
日本一の焼肉屋を目指して奮闘したストーリー。
そして、本気の取り組みが生み出す企業風土は模倣不可能です。
コロナや戦争等、世の中には暗い、悲しい話が溢れています。
世界を良くするパーパスを掲げ、本気で活動してストーリーを生み出す。
パーパスとストーリーに応援団が集まってきます。
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公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。
現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。