大切なことは「共通の価値観」を明確にすること みずほ証券 森嶋淳浩さん
対談インタビュー

大切なことは「共通の価値観」を明確にすること みずほ証券 森嶋淳浩さん

今回のリーダーズインタビューは、みずほ証券株式会社 商品企画部長 森嶋淳浩さんです! “柔軟な鋭い視点”で時代の変化を捉え、証券会社のこれからのあり方を問い続け、商品企画に新たな風を吹き込んでいる森嶋さん。机上の空論ではない『実践型ダイバーシティリーダーシップ論」について語っていただきました。


みずほ証券株式会社 商品企画部長
森嶋 淳浩さん

1968年東京都生まれ。1991年青山学院大学卒業後、野村證券株式会社に入社。
同社の中核業務である営業を中心に幅広い業務を経験した後、約1万名が所属する従業員組合執行委員長に。在籍中は、個人、組織とも同社の営業記録を塗り替え、川崎支店長を経て2007年に同社を退社。証券ビジネスを生成発展させた組織への興味等から米系のモルガンスタンレーに入社、3年強の勤務の後、銀行系証券に大きな可能性を感じ、2012年みずほ証券入社。


インタビュアー:本日はお忙しい中、お時間いただきましてありがとうございます。さっそくですが、森嶋さんが考える・感じるダイバーシティについてお聞かせ下さい

森嶋:以前、私は“単一民族”、つまり同質の人材で構成された組織にいましたが、単一民族であるが故に、その組織は意思決定も早く、物事のスピードが早かったです。

一方、今の会社は複数の会社が合併を繰り返してできているので、組織の中にいろいろな価値観が存在する。要はダイバーシティなんですよね。様々な価値観があって、それを理解していくことが物事を進める上での大前提になるのです。
そういう意味で“発想の広がり”はあるのですが、弊害としては意思決定に時間がかかる、話し合いが多くてスピードダウンする現状があります。よって、ダイバーシティの存在するこの会社では「いかにスピードアップするか」が今直面している課題です。

インタビュアー:いろいろな価値観が存在するというのは確かに相互理解に時間がかかりますよね。そんな中、森嶋さんが実際に取り組まれていることは何ですか?

森嶋:それぞれのバックグラウンドが違う状態を尊重しつつ、大切なことは「共通の価値観」を明確にすることが何より一番大切なことだと考えています。

その「軸」があれば、意思決定が早くなるし、道からそれた時「立ち戻る場所」となってくれる。そのため、軸となる、組織の理念、ビジョン、そして大切にしたい価値観を明確にしてメンバーにしっかり展開していきました。

企業カルチャーとは長年かけて培われるものですが、今の会社はバックグラウンドが違う人材の集合体であり、統一したものがないのである意味「共通の価値観」をイチから創ることがとてもしやすい環境です。

みずほグループのスローガン『One MIZUHO〜未来へ。お客さまとともに』というブランド戦略が同じタイミングで進んでいたこともあり、「共通の価値観」に対する社員の意識はかなりのスピードで高まっていったように思います。今では、「グループのためになっているのか?」「お客さまのためになっているのか?」という議論が自然に起こるようになりました。

これからの企業は“お客さまと寄り添い”価値を創造することが大切

インタビュアー:「お客さまとともに」お客さまのためにという価値観はとても大切だと思うのですが、現場の理解はどのような感じですか?

そうはいっても短期的な成果を重視した行動が求められる・・というような葛藤は生まれないですか?

森嶋:確かに、短期的な収益を求められる事実はあります。「お客さまのために」というのは長期的な視点であり、長期的に業績に効いてくるものですよね。短期的な業績を上げることと、「お客さまのために」を両立させるためにはどうしたらよいか?考えた時にシンプルな答えとして「お客さまの裾野を拡大すること」が取る行動だったんです。

多くのお客さまと接点を持つことができれば、それこそ様々なお考えのお客さまがいらっしゃるので、お客さまもダイバーシティですよね。「短期的志向」の方もいれば、「長期的志向」の方もいらっしゃいます。私たちがやることは、それぞれの志向の方々が満足できるようそれぞれにサービスを提供することです。多くのお客さまと出会い、ニーズの多様性をしっかりとキャッチし、商品戦略(企画、プロモーション)を考えることが私のやるべきことだと思っています。

そもそもですが、世の中の価値観が変わってきているし、経済の仕組みも変わってきていると感じています。

インターネットの普及によって、情報社会になり、多くの人達が多様で大量の情報を入手できるようになりました。また、個々人それぞれがつながりを持つネットワークインフラもできました。これにより「人間の良心に背いている行動が暴かれる世の中」になったと感じています。悪いことを隠せません。

だからこそ、これからの企業は“お客さまに寄り添い”価値を創造することがとても重要になってきていると思います。

ダイバーシティは人間としてそもそもある当然のもの。 考えるべきことは“集っている人材でどういう価値を生み出すか”

インタビュアー:その流れで、今後森嶋さんが自組織に対して力を入れていきたいことは何でしょうか?

森嶋:私の組織は現在50名弱の社員がいます。女性が3分の1、みずほ証券のプロパー以外の社員が3分の1の組織です。

前職の会社では「公平公正」がキーワードであり、ダイバーシティをあまり感じたことがなかったのですが、その中で従業員組合の執行委員長をやっていた時の体験経験から、多種多様な存在を理解できた気がします。ダイバーシティとは体系的に学んだことはないのですが、感覚的に理解してきている感じです。

最近、アメリカ人と仕事する機会が増えてきて、その方々の生い立ち、バックグラウンドを聞く機会も増えてきました。その話を聞いて気づいたことなのですが、日本の公立小学校はさまざまなバックグラウンドの融合体、ダイバーシティにあふれていたなぁと思うのです。が、歳を経るごとに、中学、高校、大学、そして会社と所属する組織が“同質化”していく流れをたどっていく。日本の企業がマネジメントしやすい“同質”を求める傾向があるので、それによって“同質化”教育が主流になっているのが、原因かもしれません。

アメリカは逆ですよね。小さな地域の同質のコミュニティーからスタートし、ダイバーシティが広がっていく。グローバル企業として存続するためには“多様”であることが前提となっているからです。それは“多様”から新たな創造=イノベーションが起こることを身をもって理解しているからです。日本が世界に出ていくためには、その現状にアジャストしていく必要がある。グローバル化、IT化が加速する今こそ、アジャストしていくタイミングなのではないかと思います。

先日、スタンフォード大学の教授のラボに行く機会がありました。「ヘルスケア×IT」のラボだったのですが、学生の国籍がひとりひとり全く違う状態でした。いろいろな人が集まって何かを生み出すことがイノベーションなんですよね。

私の組織は、いわゆる「ディフェンシブなダイバーシティ」のフェーズは終わっている。
そこからなにを生み出すか?何かしらかの価値、アウトプットを出さなければいけないフェーズにいます。多様性を認めて活かして、何を生み出していくのか?
正直に申し上げて、「プリミティブなダイバーシティ」を考えたことが無いんです。
ダイバーシティは人間としてそもそもある当然のもの。考えるべきことは「集っている人材でどういう価値を生み出すか」ですからね。

ちょうどMIZUHOグループとしてもダイバーシティ&インクルージョンがステートメントになっている。多様性を認めてどういうふうに人材を活用させるか。今、自分がやろうとしていることそのものが全社的な取り組みになっているので、私の考えを実現しやすい環境だと思っています。

「何をするために自分、チーム、会社が存在しているのか?」常に「目的」を意識して自分のあり方を変化させている

インタビュアー:以前の会社はモノカルチャーで軍隊統制的なところがあるとおっしゃっていましたよね?

当時と今の森嶋さんのマネジメントやリーダーシップのスタイルは大きく変わっているように思えますが、実際はいかがでしょうか?

森嶋:そうですね・・。旧来の自分は、明確な“ルール”のもと、与えられた“リソース”で、誰にも負けないパフォーマンスを生み出していた。それを最も出来ていたという自負があります。

でも、時代・ビジネスは今日、明日と変化している・・。この事実をしっかりと見ることができていれば、過去の自分のやり方では、物事がうまく進まないことぐらいはわかります。今やっていることは、法制度以外、すべて疑ってみています。

環境が変化したら、やり方も変化させるのは当然のことですよね。だから前提条件などをすべて排除するマネジメントスタイルに変化させました。私自身、自分がどう変わっても特に構わないと思っています。「どうあるべき」というこだわりは特にないのです。

意識しているのは「目的」。
「何をするために自分、チーム、会社が存在しているのか?」それを常に意識して自分のあり方を変化させていると思います。

インタビュアー:常に「目的」を明確にされているからこそ、柔軟に時代や環境に適応されていらっしゃるのですね。

まさに柔軟だからこその強さを森嶋さんから感じます。
そんな森嶋さんが苦労されていることがあればお伺いしたいのですが・・・

森嶋:さきほど、お話したように、ダイバーシティを活かして何を生み出すのか?
生み出す成果を明確にしなくてはならないフェーズに来ているのですが、実際の具体的な成果は何か?が見えるまでにはまだまだ至っていないのが現状です。その具体的な成果を生み出すことに苦労していますね。

証券業も時代と同様、変容してきているのです。「ベテランの勘による瞬間的な判断・決断」よりも、「お客さまにしっかり寄り添う共感」が価値を生み出す時代になってきています。金融業界でも「人との関係性」に価値を見出す時代に入ってきました。

時代の変化によりお客さまのニーズも多様に変化してきています。多様なお客さまのニーズをキャッチし、それに合わせていくことが求められるのです。さらに、投資スパンが10〜20年の投資を考えるお客さまも増えてきています。このように変化した市場が求めるのは“寄り添い共感する”であり、“母性的なフォロー”なのです。

過去、証券会社のお客さま向けセミナーというと、ベテラン証券マンが出てきて、「きったはった」を伝える場になっていた、という印象をお持ちの方も多いと思います。

今の時代はそれではお客さまは満足されません。
どれだけお客さまのことを考えられるか?思えるか?これがお客さまに伝わることが最も大切です。

そうなったときに果たしてどのような話者が適任なのか?
“母性的共感”を伝えられる証券パーソンのほうが話者として向いているのではないか?女性担当者の中には、“共感”を伝えるのに適した人材がいるので、女性を話者にすれば良いのではないか?そうなるとセミナー自体のやり方も変わってきますよね。

実際、セミナーに、このような女性担当者を登用してやってみたら、お客さまからの評判はとても良かったのです。新たなビジネスが生まれる感覚を持ちました。成果を創造するための新たなチャレンジは常に創造し続けてきます。時代、環境の変化をしっかりとキャッチし、それに寄り添い続けるために新たなチャレンジをすることで、成果は確実に生まれると信じています。

商品やサービスの根底にある慣例、常識を疑う

インタビュアー:お客さまに寄り添い、共感することでお客さまのニーズに応え続ける・・。この発想こそイノベーションであり、まさしく森嶋さんは、“イノベーションを創造するダイバーシティリーダー”ですね。

そんな森嶋さんが、日々のマネジメントで意識されていることをもう少しお伺いできますか?

森嶋:FinTech、IT、AI、VRなど様々な技術の発達により「人ができること」が少なくなってきています。この事実を念頭において「人を活かしていく」ことを常に意識しています。

具体的に言うと、「これって本当に人がやる価値があるのか?」常にこれを自分にもメンバーにも問うている感じですね。金融業界も今後は人数が相当減っていくでしょう。だからこそ、人間にしか出せない価値を生み出せる企業でないと生き残れません。個人も当然そうです。

だからこそ、メンバーに伝えていることは、「人だから生み出せる価値」創造に向けて、感性を磨く、人と会う、本を読む・・など、さまざまなものに興味関心、好奇心を持って、インプット量を増やすように徹底して伝えています。インプットがなければアウトプットできませんからね。

あとは、「きれいごとではない思いやり」を持つように伝えています。相手の立場にたっていかに質の濃いコミュニケーションがとれるか?それを日々考えています。自分自身もメンバーの立場に立ってそれぞれに合わせてコミュニケーションの取り方を変えるようにしています。これは強く意識していることですかね。

インタビュアー:「人のやる価値のあることにエネルギーを集中させること」と「思いやりを持ち相手の立場に立つこと」・・。これができる企業が永続的に価値を生み出すことのできる企業になる、本当にそのとおりですね。
また、「見た目だけのダイバーシティ」にフォーカスするとチームパフォーマンスが下がり、「価値観・能力のダイバーシティ」にフォーカスするとチームパフォーマンスが上がるという研究結果がでていますが、森嶋さんは「価値観・能力のダイバーシティ」にフォーカスされていらっしゃると今までのお話を伺って感じました。

森嶋さんのように考えるリーダーを育成するために会社として取り組まれていることはあるのですか?

森嶋:グループの取り組みとしてオフサイトの部店長ミーティングを1年に1〜2回1泊2日でやっています。銀行の支店長、証券の色々な部門の部店長が互いの議論、マネジメント、将来について議論する場です。その過程でいろいろな価値観がぶつかる。このプロセスに意味があります。この活動を通じて「できている人のやっていることが広がっていく」感じがあります。

また、非公式ミーティングや組織も存在しています。例えば、銀行出身の同期と飲み会を開催し、いろんなことを語り合っている。バックグランドが違うと、それぞれの話題が全く違う。これこそがダイバーシティの価値です。ここで話されること1つ1つに価値があります。

インタビュアー:なるほど、グループ横断で多様な価値観を理解するための場が創造されているんですね。

様々な素晴らしい取り組み、かなり順調に進んでいるようにみえますが、今森嶋さんが課題と感じることはありますか?

森嶋:やはり、意思決定が遅いことですかね。いろいろやりたいことのアイデアが浮かんでくるのですが、合意を図る必要があるためすぐに決まりません。組織の中にいろいろな価値観が存在するので、“新カルチャーの浸透”がないとスピードが速くならないと思います。それと、あまりチャレンジングではないことですかね。尖っている人材がまだまだ少ないのです。

と課題と感じていることではありますが、先程もお話したように、会社としての取り組みも徐々に浸透してきている。意見収集とともに新カルチャーの浸透施策も展開されています。組織別に色んな取り組みをしながら、その取組を実践している社員も積極的。毎年やっている意識調査を見ていても少しずつ良い方向に向かっています。よって、その課題も徐々に改善されていくことでしょう。

今自分が集中しなければいけないことは、今所属している多様な価値観の人材を活かしてどうパフォーマンスをあげるか?のみです。

インタビュアー:すでにさまざまなイノベーションを創造されている森嶋さんですが、“イノベーション”についてのお考えもお聞きしてよろしいでしょうか?

森嶋:「いろんな商品やサービスの根底に慣例、常識を疑う」そうすると、本当は違うんじゃないの?が見えてくる。
「細部を見る視点を持つ」突拍子もない事をやるのは様々な規制があるので難しい。細かいことの寄せ集めで新たなものが生まれる。これがイノベーションなのではないかと思います。

実は、金融業界の新たな取組みのほとんどはアメリカがすでに取り組んでいるものなのです。アメリカは随分先を走っています。よって、日本独自のイノベーションが起こりにくいのが現状です。

しかし、マイナス金利など日本独自の環境が生まれつつある・・。これからの時代何が起こるかわかりません。日本でアメリカと違うことが起こる可能性も高いのです。そういう不確実な未来に備えて、“日本初イノベーション”が生まれる時代が来た時にそれを創造し続けられる人材をどう育成し、どうマネジメントしていくか?を考えていかなければならないと思います。

変化に対応するために必要なのは“柔らかさ”と“中道” 常に周囲と環境へ心からの感謝する

インタビュアー:最後に、森嶋さんから次代を担うリーダーたちへメッセージをお願いできますか?

森嶋:成長が約束され、未来が想像出来た時代はどこかに“傾斜”することがパフォーマンスを出す秘訣だったと思うのです。でも、これからは何が起こるかわからない時代。予測不可能な“起こったこと”にもこれからは俊敏に果敢に挑戦していかなければならない時代において、私自身が意識していることは、それに対応する為に「とにかく柔らかく」「中道」であるということです。

「俺がやっている」という自我を全面に出していては、やわらかく中道であることはできません。やわらかく、中道であるためには、大切なことは、常に周囲と環境への心からの“感謝”ができることだと私は思います。

世の中では“マインドフルネス”が流行ってきています。Googleが、“周囲に感謝しあえている”とチームパフォーマンスがあがるという調査結果を出しましたよね。感謝によって安全安心の場が生まれる。そういう場においてこそ、個が活かされチームとしての新しい取り組みや挑戦が生まれると思うのです。率先して周囲に感謝し、やわらかく、中道であることにより安心安全の場を創ることが、これからのリーダーに求められるのではないかと思います。

インタビュアー:まさにこれからの時代に求められるダイバーシティマネジメントを実践されているお話、本当にありがとうございました。


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