「なぜ人は挑戦できないのか?」神経科学から見た人材育成~ポリヴェーガル理論
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「なぜ人は挑戦できないのか?」神経科学から見た人材育成~ポリヴェーガル理論

前回の記事では、「身体的安全性」を高めることの重要性を書きました。今回の記事では、身体的安全性と挑戦の関係をトラウマセラピーなどに応用されている神経科学理論:ポリヴェーガル理論から紐解いていきます。


テレワークでの環境においても、自発的に挑戦する人材のニーズというのは非常に高まってきています。
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挑戦を嫌う日本人

多くの会社で、「社員の主体性がない、挑戦する人材が少ない」という声をお聞きします(5年に1度開かれる世界価値観調査では、「日本は世界でも挑戦や創造性を重視する傾向が低い」ということが発表されました)。

挑戦を嫌う日本人

なぜ人は挑戦できなくなるのか?

挑戦できないというのは、メンタルや精神的な問題だと思われることもありますが、実はカラダ(神経)の状態が、大きく影響をしているということが、学術的にも証明されます。皆さんも頭ではわかっていても、心では思っていても、どうしても体が動かないという経験はありませんか?

アメリカ・イリノイ大学精神医学部名誉教授のスティーブン・ポージェスが提唱し「ポリヴェーガル理論」人には3つの神経系があると言われており、この3つの神経によって、人が挑戦できる状態か、そうでないかが決まってきます。そこで簡単にポリヴェーガル理論について解説します。

安心安全の神経科学:ポリヴェーガル理論

 この理論では「生物が危機的状況のとき、どの神経系路を使って自己調整・環境適応をするか」を生物の進化に伴う自律神経の発達から説明しています。

 今まで自律神経による自己調整・環境適応は「交感神経」「副交感神経」の2種類によって調整されていると考えられてきました。
 しかしポリヴェーガル理論では「副交感神経」を2つに分け、「背側迷走神経(副交感神経)」「交感神経」「腹側迷走神経(副交感神経)」の3種によって自己調整・環境適応が行われており、その使用は生命の進化の段階にヒエラルキーが形成されていると説明しています

安心安全の神経科学:ポリヴェーガル理論

生物の進化と生存戦略

生物は進化の段階に応じて適切な神経を用いた生存戦略を持っています。

  • 高等哺乳類(人):腹側迷走神経を使って対象に対して「交渉」や「適応」を行う
  • 哺乳類:交感神経を用いて対象に対して「戦う」か「逃げる」を行う
  • 爬虫類:背側迷走神経に用いて「不動化」「死んだふり」「シャットダウン」を行う
生物の進化と生存戦略

*生物種と神経系の発達は必ずしも明確に分類できるものではなく、あくまで“適応的にその神経系を利用している生物種”として表記しています。しかし、適切な生存戦略が失敗した時、別の神経を用いた生存戦略に移行します。

挑戦できなくなる(不動化になる)プロセス

例えば、人では危機に瀕した時、対象に対してまず「交渉」を行なって危機を脱しようとします。それでもうまくいかない場合は対象に対して「戦う」「逃げる」という選択をします。しかしそれらの選択もうまくいかない時、動かなくなる「不動化」「死んだふり」をして対象から逃れようとします。自然界では捕食者は死肉を食べないことが多いため生存の確率が上がるとされています。

つまり、交渉することも戦うことも逃げることもできない時、人は爬虫類の生存戦略である「不動化」に移行し、動けなくなってしまいます。さらにこの状況では身体の状態を司る「脳幹」にエネルギーが優先され、「大脳新皮質」へのエネルギーが注げない状況になるため思考力の低下も引き起こされると言われています。この状況になると人は今の状態から動けなくなり、「挑戦」できなくなります。

挑戦できなくなる(不動化になる)プロセス

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ポリヴェーガル理論をビジネスに活かす

組織においても社員の「不動化」は起きているのではないでしょうか。例えば上司部下の関係において、部下が意見を出しても受け止められない(交渉)、上司を変えることもできない(逃げる)、不満を言っても潰される(戦う)とき、「何をしてもダメだ」となり「不動化」を起こすのではないでしょうか。

皆さんの職場でも「背側迷走神経」を活性化するような関わり方をしてしまっていないでしょうか。

 ・理不尽な詰め/いいからやれ
 ・高すぎる目標設定
 ・職場で人同士の交流がない など

社員を「不動化」させず、挑戦を促すためにはしっかり社員と関わる、「背側迷走神経」ではなく「腹側迷走神経」を刺激するような関わり方が神経科学からも重要であると示唆されます。

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この記事を書いた人この記事を書いた人

鈴木泰平

千葉県鎌ケ谷市出身。東京理科大学・生物工学科に入学。分子生物学やタンパク質工学、エピジェネティックスなど生命科学を幅広く学ぶ。「研究者になりたい」という志を持って入学したが、研究室の雰囲気の悪さから研究へのモチベーションが無くなる。また同大学アメフト部での活動の中、チームの雰囲気の良さによって個人のパフォーマンスやチームのモメンタム(流れや勢い)が大きく変わることを体感。
「人は場の雰囲気や風土に大きく影響される」ということを強く実感し、組織開発に興味を持つ。その後ワークハピネスに参画。自身のテーマは「生命の原理原則に基づいた人材育成」「場に命を与える組織開発」であり、実践のために日々探求している。現在、心(マインド)、頭(スキル)、体(フィジカル)を総合的に育成する新規プロジェクト「心技体開発」を立ち上げ、活動中。

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