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ホテルの再建物語 その2 「レンタカーを洗う人はいない」

創業3年目の大勝負で老舗ホテルの再建を引き受ける事になったワークハピネス。私はそのホテルの社長兼総支配人に就任しました。

私たちが再建に関わった当時、そのホテルの従業員のモラールとエンゲージメントは最低でした。

宴会スタッフは廊下に落ちているゴミを拾いません。

お客様からクレームがあると「あのお客様、神経質な変な人なんです」と顧客に責任転嫁。

厨房のスタッフは2時〜5時のアイドルタイム、新作メニューの開発を放棄して倉庫で麻雀をしています。

ヒアリングで「このホテルを良くするためのアイデアはありますか?」と聞くと、

「絨毯が汚いから変えた方が良い」

「トイレが古いからブライダルが取れない」

「蛍光灯があるから食事が美味しく見えない」

と、設備環境の問題ばかりあげつらいます。

挙句の果てには、

ビルが古過ぎる。建て替えなかければ良くならない」と、国の登録有形文化財でこのホテルの最大の競争力である大正時代の名建築を否定する人まで。

全て他責。

15年連続の赤字が人々のモラールとエンゲージメントをズタズタにしていました。

こんな荒んだ状態の従業員を率いて再建は可能なのか?

経験も実績もない34歳の私が当時頼りにしていたのはスコット博士からもらったスクエアホイールの絵と「レンタカーを洗う人はいない」という人もモチベーションに関わる金言でした。

スコットからもらったスクエアホイールの絵

レンタカーを洗う人はいません。レンタカーは人が選んだものだからです。

一方で、自分で選んだマイカーは頼まれなくても洗います。さらに、タイヤを付け替えたりオーディオを取り替えたり、自分でどんどん良くしていきます。

仕事も同様です。目の前の仕事がレンタカーな人は怒られない程度に作業をこなします。

一方で、仕事がマイカーな人は、どんどん工夫して職場を良くしていきます。

スコット博士からの教えである「腐っている人はいない。人を腐らせる環境があるだけ。人は元来やる気に溢れている。経営者は環境を整えれば良いのです。」

という人間観を信念に前進あるのみです。

人々にとって仕事を”マイカー”に変えていくためにとった戦略は以下の3つです。

全ての情報を従業員に開示する。

改革のアイデアを彼らから引き出す。

実行を任せ、成功を支援する。

自分たちで出したアイデアでどんどんホテルが良い方向に変わっていく事を目の当たりにする事で、徐々に一人ひとりの心が”マイカー”に変わっていくはずです。

年末のクリスマス前に始まったホテルの再建プロジェクトですが、開始から3ヶ月目の2月14日、私は大宴会場に全従業員を集めて新社長の就任あいさつをしました。

壇上の巨大スクリーンで過去20年間の業績の推移を開示しました。

噂では聞いていたが、初めて赤裸々に示された会社の実態。人々の顔色が曇ります。

15年連続赤字。債務超過。すでに破綻状態です。

会場に悲痛な空気が流れます。

でも、私が来たからもう大丈夫です。

と、笑顔で宣言。

実は笑顔を出す余裕など無いのですが、自信のなさそうな経営者に人はついてきません。ここはハッタリの演技です。

次に見せたのがスクエアホイールの絵です。

「このホテルはこの絵の状態です。先頭だけが見晴らしが良い。でも皆さんはワゴンの背中しか見えなくて楽しくない。タイヤは四角いので振動が激しい。業務プロセスが陳腐化しているので皆さんの苦労が耐えない、、頑張っているのに利益が出ない。どうすればこの旅は楽しくなるでしょう?」

少し、考えてもらい、何人かに声をかけて答えてもらいました。

その通り。見晴らしを良くしたいですよね。そして、四角いタイヤを丸いタイヤに変えた方が良いですよね。

ここで、経営方針を示しました。

「これから、月に一回、全社集会を開いて毎月の部門別の業績を皆さんに開示します。そして、丸いゴムタイヤはワゴンに積まれています。このホテルを良くするのは皆さんです。社長の私の仕事は皆さんのアイデアを尊重し、その成功を支援する事です。」

最後に人事評価の話をしました。

私は失敗を恐れずチャレンジする人が好きです。当社には今日から”失敗”という言葉はありません。”失敗”ではなく”学習”です。チャレンジすれば”成功”することもあれば、時には”失敗”もするでしょう。でもそれは”失敗”ではなく次の”成功”に不可欠な”学習”なのです。失敗を恐れずチャレンジし、たくさん”学習”する人を私は高く評価します。」

そう話して社員総会を締めくくりました。

宴会部長、料理長、購買部長、宿泊部長、料飲部長、財務経理部長等々それぞれに若手社員を大抜擢して新経営チームを組成しました。社長室長はワークハピネスのIさん、ブライダル部長は一級建築士で数年前まで原子力発電所を作っていたAさんです(笑。

始動して1週間で大事件が起きました。

お金を預かる責任者である財務経理部長が失踪したのです。

365日、年中無休でホテルは動き、毎日、お金の出し入れがあります。

要の財務経理部長の不在はあり得ません。

会議室にワークハピネスから来ている6名を集めて対策会議。

銀行員や実印も管理するので、能力があって信頼できる人物にしか任せられません。

想定外の事件で有効な善後策が出てきません。

そんな時、最後は気合です。

突然ですが、みなさん目を閉じてください、、

この中で簿記の3級を持っている人、手を上げて!

新入社員1年目のSさんの手が上がりました。

「はい、目を開けてください。」

みんな、ぽかんとしています。

「Sさん、おめでとうございます!

来週から財務経理部長に就任する事となりました!全員、拍手!」

真っ青な顔のSさん。簿記の3級と実務は天と地ほどの乖離があります(笑。

公認会計士の私も財務経理部長を立派に務められる自信はありません。

「私からSさんにアドバイスを一つ。お金を取り損なうな。払い過ぎるな。取引先は必ず取り立てに来ますから、よく分からなかったら払わない。以上!」

真っ青な顔のSさん。当時のホテルが使っていた”勘定奉行”という会計システムを理解するために慌てて本屋に走っていきました。

ずいぶん乱暴なやり方でしたが、失敗を恐れずチャレンジすれば、何とかなるもんです。財務経理での最大の失敗はキャッシュの流出。そこさえ押さえておけば、多少の間違いは後日修正可能です。Sさんは立派に財務経理部長を勤め上げ、従業員たちから高い信頼を獲得しました。今ではワークハピネスの執行役員。守りの要です。

厨房では麻雀をやめて新作のメニュー開発が始まりました。

宿泊部門のフロント業務と宴会サービス業務のマルチタスク化も開始しました。

ブライダル部門では創業以来初のブライダルフェアを全館協力で行いました。

登録有形文化財に楔を打ち込む件で揉めましたが、ビルの前面に巨大な”春のブライダルフェアー”の垂れ幕を出したのも伝統を打ち破る象徴的なチャレンジでした。

夏が近づいてきた6月のある日、改革に対して常に否定的な発言が多かった50代の厨房スタッフのFさんが私に話しかけてきました。

社長、夏になると、宴会が減って売り上げ落ちますよね。いっそのこと、大宴会場1つ潰してビアホールにしたらどうでしょう?

この言葉を聞いたとき、私は大変嬉しく思いました。

ついにFさんまでもアイデアを出してくれるようになった!

失敗を恐れずチャレンジ”するカルチャーが浸透してきた証拠です。

と、同時にこれは勝負どころだと思いました。

もし、このFさんのアイデアを具現化して成功に導ければ、会社のカルチャーが一気に変わる。

90年の歴史で初のビアホールの開業。

調べて見ると、大宴会場にはすでに数件の宴会の予約が入っていました。

顧客に懇願し、宴会を他の会場に移動してもらるか?

突然ビアホール始めて、はたしてお客様来てくれるのか?

屋内のビアホールで何を集客の目玉にすればいいのか?

越えなければならない問題は山積していますが、

これは価値のあるチャレンジ・テーマです。

どうなる、ビアホールプロジェクト?

次回に続く


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この記事を書いた人この記事を書いた人

吉村慎吾

公認会計士として世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。創業した株式会社エスプール(現東証1部上場)は現在時価総額約600億円の企業に成長。老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを実践してきた。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。その経験を生かし、大企業の新規事業創出や事業変革、働き方改革で多くの実績を持つ。2020年4月に自社のオフィスを捨て、管理職を撤廃。フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラットな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

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