組織風土は長い年月を経て形成されてきたもので、会社の特色と紐づく要素です。一方で、風土が時代とそぐわず若手社員が働きづらさを感じていたり、組織の伸びしろを妨げていたりする可能性もあります。その場合には、組織の風土改革を行い、風通しを良くする必要があります。
しかし、組織風土改革は大手企業でさえも失敗することがある難題です。この記事では、組織風土改革の成功例と失敗例を紹介するとともに、成功させるためのコツを解説します。ぜひ参考にしてください。
組織の風土はなぜできる?
広辞苑による言葉自体の意味としては、組織は「ある目的を達成するために、分化した役割を持つ個人や下位集団から構成される集団」とされています。経営学者バーナードは「ある共通の目的のもと、コミュニケーションをとりながら何かに取り組む意思を持つことで成り立つ集団」と定義しています。また、風土とは「土地柄、特に住民の気質や文化に影響を及ぼす環境」を意味しています。
人はそれぞれに異なる価値観を持っているため、ある程度の人数が集まると意見の衝突もおこりがちです。意見がまとまらず平行線の状態が続けば、いつまでたっても目的を達成することができません。膠着状態から脱却する方法はさまざまです。多数決をとることもあるでしょうし、声の大きな人の意見が優先されることもあります。目的そのものを修正することもあるかもしれません。こうした流れのパターン化によってできあがった暗黙のルールのようなものが組織風土です。
組織風土ができるプロセス
組織心理学のエドガー H.シャインは、組織風土ができるプロセスには次に示す「3段階の文化レベル」があると説いています。
- レベル1:視覚的なもの
- レベル2:共有されているもの
- レベル3:無意識のもの
レベル1は目に見える文化を指します。たとえば社名・ロゴマーク・社訓・経営理念・組織体制などがこれにあたります。活気がある、落ち着いているといった第三者から見た組織の雰囲気もレベル1に含まれる要素です。
レベル2は、目には見えないものの組織内で口伝・共有されている独自の価値観やルールのようなものです。
レベル3は、無意識の選択・行動を表します。たとえば、高圧的な上司のもとで働く部下は叱責を恐れて無難な行動をとるようになります。反対に、風通しがよく安心感のある環境であれば、新しいことにも積極的にチャレンジできます。
これら3つの文化レベルが絡み合い、長い年月をかけてできあがっていくのが組織風土です。
組織風土改革はなぜ難しい?
組織風土に問題があることに気づいても、すぐに改革できるわけではありません。人は基本的には変化を嫌うものです。社員にとっては、日常の業務に加えて新しい作業が発生するうえ、変化を求められるため、反発も生まれます。組織内で、特に経営層と現場の社員との間で改革への意欲に温度差があることは、あらかじめ理解しておいたほうがよいでしょう。
このような感情のギャップを埋めるには、改革によるメリットを丁寧に説明し一人ひとりに理解してもらう必要があります。この時、全員の合意を得るのは難しいでしょう。しかしながら、ひとりでも多くの人が納得し共感する状態にならなければ、改革に着手してもスムーズには進みません。もし仮に成功したように見えても、すぐに元に戻ってしまいます。組織全体を巻き込むために、改革後にどのようなメリットが得られるのかを具体的に説明することが大切です。
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組織風土改革を成功させるポイント
ここからは、組織風土改革を成功させるために必要な3つのポイントについて解説します。
組織風土改革には、前述のとおり組織を構成する全員の力が必要です。人それぞれに価値観が異なるため、ぼんやりとしたイメージでは改革を成功させることはできません。まずは流れを理解し、次のポイントを抑えながら進めていくようにしてください。
1:現状を正しく把握する
2:問題点や理想を明確化する
3:組織風土改革の実施目的を共有する
それぞれ詳しく解説します。
現状を正しく把握する
何が問題なのか、どんなところに居心地の悪さを感じるのか、思うところは人によってさまざまです。そもそも組織風土という概念自体があやふやで、それぞれに定義が異なることも考えられます。まずは現状を正しく把握するために、組織風土を「見える化」するところから始めましょう。
見える化にはグループディスカッションが有効です。社員が集まって自由に発言するブレインストーミング形式がよいでしょう。現在の組織風土について感じること・思うことをどんどん発表してもらい、記録していきます。グループディスカッションが難しい場合には、アンケートを集めるのもおすすめです。
ここでは問題点や原因・解決方法などは求めません。それぞれが抱いているイメージを自由に発言してもらうことが大切です。こうして集められたキーワードをまとめることで組織風土が言語として見える化できます。
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問題点や理想を明確化する
現状が把握できたら次に問題点を洗い出し、課題や理想像を明確にします。組織風土は目に見えません。だからこそ言語化して認識のズレがないようにすることが大切です。問題点と目指すべき目標を具体的かつ明確にし、組織の全員がわかるように共有してください。
ゴールが抽象的ではクリアすべき課題もわかりません。改革の途中で方向性のズレが生じることのないよう、できるだけ具体的な目標を設定しましょう。
組織風土改革を進めるには、それぞれが自発的に意識を変えて行動する必要があります。これは社員だけに求められることではありません。組織風土に大きな影響力を持つのは経営層や管理職です。トップが率先して襟を正していくことで、社員も共感を覚え、改革に前向きに取り組むようになるでしょう。
組織風土改革の実施目的を共有する
理由と目的、そして全員の理解がなければ組織風土を変えることはできません。異なる価値観を持つ社員一人ひとりが同じ目標を目指すには、組織が今後も成長していくために風土を変える必要があることを、トップが先頭に立ってくりかえし訴えていく必要があります。
- なぜ組織改革が必要なのか
- 改革によってどのようなメリットが得られるか
こうしたことを全員で共有し、協力しあえる体制を整えましょう。
ただし、強制的・独善的な改革は定着せず、成功したように見えても一時的なもので終わってしまいます。社員がメリットを感じ、主体的に行動できる内容にすることが大切です。
組織風土改革の成功例・失敗例
ここからは、組織風土改革に取り組み成功した企業・失敗した企業の事例を具体的に紹介します。成功例と失敗例から、組織風土改革の効果的な進め方を読み取ってみてください。
【成功例】雲南農業協同組合(JA雲南)の場合
JA雲南(当時)は、人口減少や農家の高齢化、食文化の変化などで組織が年々縮小していくことにともない、企業風土もどんよりしたものになっていました。「上層部は現場の意見を聞き入れない」という諦めの気持ちを抱えた職員が多く、事なかれ主義が蔓延し、問題を他人任せにして先送りにする風土ができあがっていました。現状を打開するために行った施策は次のとおりです。
- 現場職員100名以上へのヒアリング
- 現場の声をレポートにまとめ経営幹部が共有、自分たちの意識改革を始める
- 経営幹部がワークショップを行い、問題や課題について議論
- 現場のキーマンを決め、意識改革を推進
業務改善推進を任された担当者は、「自分たちの力では改革は難しい」と考えて外部のコンサルティング会社に相談し、アドバイスを受けながら組織風土改革を進めていきます。
その結果、いくつかの会議体や情報共有の仕組みが自発的に発足したり、入社1年目の女性職員の発案によるイベントが大成功をおさめたりなど、以前は見ることのなかった変化が生まれました。その後もボトムアップ型の風通しのよい組織へと改善・成長を続けています。
【成功例】朝日プリンテックの場合
朝日新聞社のグループ企業である朝日プリンテックは、昨今の新聞離れによる読者数の減少で新聞印刷業界の淘汰に危機感を感じていました。当時の社内はといえば、分社・統廃合の影響で社員の考えや意識がバラバラだったり、親会社からの出向社員との帰属意識の差が見られたりと、統一感のない状況でした。「人を育てなければ会社の未来はない」という社長の強い思いのもと、少数精鋭の研修制度検討チームが結成され、組織風土改革が始まります。
朝日プリンテックが行った改革の特徴的な点は『現場主導』であることです。前述のJA雲南の事例とは逆に、次のようなプロセスを経て現場から経営陣へと意識改革を進めていきました。
- 各階層で必要なスキルを洗い出し、階層別のスキルマップを作製
- スキルマップをもとに階層別研修プログラムを構築
- 組織風土改革の重要性と具体的行動を浸透させる研修を全国の支社に展開
研修制度検討チームに集められたメンバーは、人材育成に関する知識も経験もない現場の社員でした。しかし、コンサルティング会社に任せっぱなしにすることなく、ともに研修を創りあげるというスタンスで社員のほぼ全員を対象に研修を展開し、加えて人材育成の対象を経営層まで広げることでまさに会社全体の意識改革を図りました。
人材育成の素人集団から始まった組織風土改革は周囲を巻き込み、社員一人ひとりが危機感を持って自らリーダーシップを発揮できる環境を創りあげたのです。
【失敗例】大手自動車会社の場合
2000~2004年、某大手自動車会社の大規模なリコール隠し事件が発覚しました。刑事事件にまで発展し、法人として有罪判決を受けたことを記憶している人も多いかもしれません。事件の再発を防ぐために、同社では以下のような改革を実施しました。
- 社外有識者のみで構成する企業倫理委員会を設置
- 社員の意識改革活動として『CFP(カスタマー・ファースト・プログラム)』を実施
- 全社員参加の職場討議
- 社員意識調査の実施
ところが、2016年には新たに燃費データの恣意的な改ざんが発覚しました。第三者の特別調査委員会がまとめた最終報告では、下の者が上司に気兼ねをして不都合なことを報告しないという企業風土が明らかにされています。さまざまな改善活動も、結局は形だけのものでしかなかったということです。
前述のJA雲南や朝日プリンテックと比べると、組織風土改革に向ける経営陣の本気度が違ったのかもしれません。改革のプロである外部の経営者やコンサルティング会社を入れなかったことも、失敗の要因といわれています。
組織は1日にして変わらず
長年にわたって定着した組織の風土を変えるのは至難の業です。一見効果的な施策を行っても、根本的な問題が解消されなければすぐに元通りになってしまいます。体調が悪いときに医師の診察を受けるのと同じで、組織の健康を取り戻すにはプロの力を借りるのがおすすめです。
- 社内に一体感がない
- 人材が育たない、集まらない
- 新しいチャレンジが生まれない
こんな症状が見られたら、組織風土改革のタイミングです。
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大学卒業後、上場派遣会社に入社し、その後、教育系子会社のエスプール総合研究所(現:ワークハピネス)へ。
各種サーベイなどの設計・開発、人事制度構築、理念浸透などのコンサルティングを経て、教育周りの企画提案を主な業務とする法人営業を担当。
関西地域で大手上場企業の新規開拓をメインに携わり、お客様の理念体系、今後の戦略に沿った、「人の育成」「仕組みの整備」を体系的に提案することを得意としている。
2019年からマーケティングチームの立ち上げに責任者として関与。デジタルの力を活用して、会社の売れる仕組みづくりを構築している。