リスキリングとはデジタル時代に必要とされるスキルや能力の習得を目的に、社員に取り組んでもらうことです。欧米で広まったリスキリングは日本でも注目を集めるようになり、企業はリスキリングを迫られている状況にあります。リスキリングがなぜ必要なのか、詳しく知りたい方もいらっしゃるでしょう。
本記事ではリスキリングの定義や重要性を解説します。リスキリングに取り組むメリットや推進方法も解説しているので役立ててください。
リスキリングとは
リスキリング(Reskilling)とは、職業能力の再教育・再開発を意味する言葉です。デジタル技術が進歩し、ビジネスモデルが変化するなかで企業が事業を継続するためには、リスキリングに取り組み、今後必要とされるスキル・能力を社員に習得させる必要があります。
欧米ではすでに2016年頃からリスキリングが取り組まれています。一方で日本では2020年9月にようやく、デジタル時代の人材戦略におけるリスキリングの必要性をまとめた提言書が発行されました。
リカレント教育との違い
リカレント教育とは社会に出た社員が自ら必要性を感じたときに、スキルや知識の学び直しを行うことです。学び直しの際は現在続けている仕事を休職または退職するなど、労働から離れて学ぶことを前提にしています。例えば社会人になってから大学に入学して新たなスキルを習得した後に、職場復帰や再就職するケースが挙げられます。
一方でリスキリングは働きながら必要なスキルや知識の習得を目指すことが一般的です。
アンラーニングとの違い
アンラーニング(unlearning)は、古く使えなくなったスキルやルーティンなどを捨て、新しいスタイルを取り入れることで、学習棄却と訳されます。従来のビジネスモデルで有効だったスキルでも、変化が著しい時代になると通用しないこともあります。アンラーニングに取り組むことで、時代に合わせたスタイルを模索することも可能です。
一方でリスキリングは必ずしも既存の枠組みをゼロにするわけではなく、その枠組みを基本に、新たなスキルを積み重ねていくようなイメージです。
OJTとの違い
OJTとは「On-the-Job Training」の略語で、実際の業務や職務を経験しながら、社員にスキルや知識を習得させることです。OJTは今いる組織や部署で任されている業務を前提にしています。新入社員や業務の未経験者を対象に実施されることが一般的です。
一方でリスキリングは将来的に必要だと推測される仕事を遂行するためのスキルの取得を目指しています。そのため社内に存在しない仕事を想定した教育プログラムを用意する必要があります。
生涯学習との違い
生涯学習とは生涯にわたって行われる学びを総称する言葉です。学習は児童や学生のみに行われるのではなく、社会人または定年退職後の人も対象になることを表しています。生涯学習の例は、学校教育や社会教育、企業内教育、ボランティア活動などです。他にも文化活動やスポーツ活動、趣味などの学びも生涯学習に含まれます。
一方でリスキリングは仕事で必要なスキルや知識の取得を目的に取り組まれる学びを指します。
リスキリングの重要性|注目されている理由とは
ビジネスモデルが激しく変化する時代では、リスキリングの重要性が増しています。その理由を詳しく解説します。
理由1:リスキリングに関する宣言が出された
通称「ダボス会議」と呼ばれる2020年の世界経済フォーラムの年次総会では、「リスキリング革命」が主要議題に挙げられました。具体的には第4次産業革命によって既存の仕事の消失と新たな雇用の創出に対応するため、「2030年までに全世界で10億人にリスキリングを行い、良い教育・スキル・仕事を提供する」と決定しました。
また経済産業省が2020年9月に公表した『人材版伊藤レポート』でも、人的資本経営の実現に向けた人材戦略に必要な要素として、リスキリングが取り上げられています。
理由2:DX推進が浸透しつつある
DXはDigital Transformationの略語で、「デジタルによる変容」を意味します。経済産業省は「2025年の崖」を指摘しており、社会全体のDXの推進を目指しています。「2025年の崖」は、DXを実現しないことで、2025年以降に経済損失が生じる可能性があるという危機感を経済産業省が表現した言葉です。
例えばグローバルなデジタル競争に負けて利益が減る、サイバー攻撃による被害が増えるなどの経済損失が予測されています。
DXの実現には、高度な専門性を持つデジタル人材の存在が欠かせません。しかしDX推進の遅れによってデジタル人材は不足しており、DXに向けた課題を解決するために、リスキリングに取り組む企業が増えています。
理由3:働き方が変わってきている
働き方改革の推進や新型コロナウイルスの感染拡大などを背景に、テレワーク・インターネットを活用したオンラインのやり取りをする機会が増えています。例えば週2日~3日はテレビ会議システムやオンラインチャットツールなどを活用して在宅勤務を行い、残りはオフィス勤務とするケースもめずらしくありません。
テレワークの導入によって、ツールの操作方法やインターネット、サーバーなどに関する新しいスキル・知識を取得させる必要があることから、リスキリングが重要視されています。
企業がリスキリングに取り組むメリットとは
リスキリングに取り組むと、企業は社員のエンゲージメントの向上や業務効率化などのメリットが得られます。
エンゲージメントの向上が期待できる
リスキリングを通じて社員に学びの機会を与え、企業がキャリア形成のサポートを行うことにより、社員のエンゲージメントを高めることができます。社員のエンゲージメントが向上すると、仕事に対する意欲も高まり生産性アップも期待できるでしょう。社員一人ひとりの生産性が高まれば、企業全体の業績が上がる可能性もあります。
業務効率の改善につながる
リスキリングによって社員が新しいスキル・能力などを取得した場合、仕事をこなす速度が上がる、業務の自動化に成功するなどのメリットが得られます。業務効率の改善により、コア業務に充てる時間が増えれば、残業時間の削減につながります。また新しい役割に挑戦させる機会を与えることで、社員の仕事へのモチベーションアップも期待できるでしょう。
新しいアイデアが生まれやすい
社員はリスキリングを通じて新たな知識に触れることで、これまでになかった発想・アイデアが生まれる確率が高まります。新しいアイデアを出し合うことで、イノベーションの創出につながるケースもあります。例えば新事業へ参入し、新規顧客の開拓に成功すれば売上の拡大も目指せるでしょう。
人材育成・人材採用のコスト削減につながる
現代の日本は少子高齢化を背景に労働人口は減少し続けています。企業は人材が集まらずに採用活動が進まない、採用するたびに教育コストや時間がかかるなどの課題を抱えているのが現状です。有能な人材を採用するためにコスト・時間をかけるのではなく、リスキリングを推進して既存社員のスキルアップを図れば、人材の育成・採用コストを削減できます。
リスキリングを推進する手法を解説
リスキリングを推進するためには事業戦略に基づいたスキル・人物像を設定し、適切な教育プログラムを考えることが大切です。この章で具体的な手法を確認しましょう。
事業戦略を元に必要なスキル・人物像を設定する
リスキリングに取り組む際は事業戦略や事業内容、これまでの業績などを参考にしながら、自社の課題とその課題を解決できるスキル・人物像を設定します。AIやデータベース、分析ツールなどを活用すると、データの参照をスムーズに進めることが可能です。
適切な教育プログラムを考える
教育プログラムを決めるときは、スキルを効率的に習得できる内容を検討します。どのようなプログラムが適しているかは企業によって異なるため、自社に今後求められるスキル・人物像を対象にしたプログラムの構成や、それぞれのコンテンツを学ぶ順番を考えましょう。学ぶ順番が異なると、スキルの習得が遅れる可能性があります。
また社内で教育プログラムを考える方法以外に、外部の企業が開発したコンテンツを活用するのも一つの方法です。自社に最適な教育プログラムの準備方法を検討してみてください。
実際に社員に取り組んでもらう
作成した教育プログラムの構成に基づいて、社員に受講させます。あくまでも仕事の一環として業務時間内に受講させる必要があるため、社員の意見や業務スケジュールなどを参考にして実施時間を決めることをおすすめします。受講後は社員が習得したスキルを業務に活かせるように、活躍の機会を与えることも大切です。
リスキリングを推進する際に気を付けたいポイントとは
リスキリングを推進しやすくするためには環境作りを大切にし、社員の自発性を尊重するようにします。ポイントごとに内容を確認しましょう。
環境作りが大切
リスキリングの導入の際に気を付けたいポイントは、社員への周知と理解を得ておくことです。反対する社員が多くいると、リスキリングの導入がスムーズに進まない可能性があります。リスキリングに本格的に取り組む前に、実施する理由やメリットなどを社員に伝え、理解してもらいましょう。賛同者を集めることで導入が成功しやすくなります。
自発性を尊重する
新しいことを学ぶ際、対象の社員にストレスがかかります。リスキリングの導入を成功させるためには、社員が「学びたい」という積極的な姿勢を持つことが重要になってきます。例えば、受講者の選出を企業側が一方的に行うのではなく、挙手制のように受講の意思を持つ社員に絞って選ぶと良いでしょう。
まとめ
リスキリングはビジネスモデルの変化に対応できるスキル・能力を既存の社員に習得させることを指します。不足するデジタル人材を確保し、DX化に向けた課題を解決するためには、リスキリングの導入が欠かせません。
リスキリングを推進する際は、事業戦略を元に必要なスキル・人物像を定め、適切な教育プログラムを開発しましょう。社内での教育プログラムの開発が難しい場合は、外部のコンテンツの活用をおすすめします。
リスキリングにおすすめの研修
その他研修の一覧はこちらから
大学卒業後、外資系医療機器メーカーで営業に従事。
6年間で8人の上司のマネジメントを経験し、「マネジャー次第で組織は変わる」と確信し、キャリアチェンジを決意する。
2009年にワークハピネスに参画し、チェンジ・エージェントとなる。
医療メーカーや住宅メーカーをはじめ、主に大企業の案件を得意とする。また、新人から管理職まで幅広い研修に対応。
営業、営業企画、新人コンサルタント教育を担当後、マーケティング責任者となる。
一度ワークハピネスを退職したが、2021年から復帰し、当社初の出戻り社員となる。現在は、執行役員 マーケティング本部長。